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4.五月闇に、忍び寄る
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「――ということになって……」
無事に落ち合うと、走り出した車の中で今日あったことを伝える。私が話している間、ハンドルを握る彼はずっと渋い顔をしていた。
「二人きりではないので、心配するようなことは……ない、はずです」
端から心配などしていないかも知れないが、それでも念のためだ。
遠くに見える信号は赤になり、車はスピードを落とすと渋滞の列に並ぶ。彼はハンドルから手を離し、こちらを向いた。
「心配するに決まってる。だが……」
「何か……あるんですか?」
言い淀む彼に尋ねると、戸惑ったように視線を外すのが目に入った。
「実は、ハワード時代の秘書に確認したんだ。ウィリアムのことを。彼女は情報通だし、何か知ってることはないかって」
「……悪い噂でも、あったんですか?」
その表情に不安になる。けれど彼は打ち消すように首を振った。
「いや。その逆。今までスキャンダルどころか、浮いた噂の一つもないって。仕事一筋の、真面目で堅物な男。そう言われているらしい」
「真面目で……堅物……?」
その言葉は、あまりにもリアムのイメージとかけ離れている。仕事に熱心だと思うが、それ以外の内容は、同じ人物のことを指しているように思えない。
「ああ。恵舞から聞いた人物像と違っているから、別人なのかと思ったくらいだ。間違いないようだ」
「で、でも、真面目なら安心できるんじゃ……」
自分の知るリアムとは変わってしまっているが、悪い変化ではない。なのに、まだ依澄さんの表情は曇ったままだ。
「そう、なんだがな。自分がそうしていたように、ウィリアムも自分を偽っているんじゃないかって、引っ掛かったんだ」
依澄さんはハワードから離れて、初めて自分らしくいられるようになったと言っていた。似た立場のリアムに、同じ匂いを感じたのかも知れない。
フロントガラスの向こうに映る信号の色が、青に切り替わる。ゆっくりと進み出した車の列をみながら、彼は再びハンドルを握る。
「確かに……私には、子どもの頃のまま接している気がします。それは私が、ハワードという色眼鏡で見ないから。それだけ……なんだと思います」
確証はないけれど、リアムの態度はそんな振る舞いのように思えた。
「恵舞の言う通りかもな。俺が気にしすぎなだけで。だが、何か変わったことがあれば、すぐに言えよ?」
交差点に差し掛かり、ウィンカーを左に出しながら彼は言う。
「はい。……って、依澄さん。私の家、右です」
「ん? 気が変わった。やっぱり帰さない」
明るい笑い声を混ぜながら、彼はさらりと口にした。
無事に落ち合うと、走り出した車の中で今日あったことを伝える。私が話している間、ハンドルを握る彼はずっと渋い顔をしていた。
「二人きりではないので、心配するようなことは……ない、はずです」
端から心配などしていないかも知れないが、それでも念のためだ。
遠くに見える信号は赤になり、車はスピードを落とすと渋滞の列に並ぶ。彼はハンドルから手を離し、こちらを向いた。
「心配するに決まってる。だが……」
「何か……あるんですか?」
言い淀む彼に尋ねると、戸惑ったように視線を外すのが目に入った。
「実は、ハワード時代の秘書に確認したんだ。ウィリアムのことを。彼女は情報通だし、何か知ってることはないかって」
「……悪い噂でも、あったんですか?」
その表情に不安になる。けれど彼は打ち消すように首を振った。
「いや。その逆。今までスキャンダルどころか、浮いた噂の一つもないって。仕事一筋の、真面目で堅物な男。そう言われているらしい」
「真面目で……堅物……?」
その言葉は、あまりにもリアムのイメージとかけ離れている。仕事に熱心だと思うが、それ以外の内容は、同じ人物のことを指しているように思えない。
「ああ。恵舞から聞いた人物像と違っているから、別人なのかと思ったくらいだ。間違いないようだ」
「で、でも、真面目なら安心できるんじゃ……」
自分の知るリアムとは変わってしまっているが、悪い変化ではない。なのに、まだ依澄さんの表情は曇ったままだ。
「そう、なんだがな。自分がそうしていたように、ウィリアムも自分を偽っているんじゃないかって、引っ掛かったんだ」
依澄さんはハワードから離れて、初めて自分らしくいられるようになったと言っていた。似た立場のリアムに、同じ匂いを感じたのかも知れない。
フロントガラスの向こうに映る信号の色が、青に切り替わる。ゆっくりと進み出した車の列をみながら、彼は再びハンドルを握る。
「確かに……私には、子どもの頃のまま接している気がします。それは私が、ハワードという色眼鏡で見ないから。それだけ……なんだと思います」
確証はないけれど、リアムの態度はそんな振る舞いのように思えた。
「恵舞の言う通りかもな。俺が気にしすぎなだけで。だが、何か変わったことがあれば、すぐに言えよ?」
交差点に差し掛かり、ウィンカーを左に出しながら彼は言う。
「はい。……って、依澄さん。私の家、右です」
「ん? 気が変わった。やっぱり帰さない」
明るい笑い声を混ぜながら、彼はさらりと口にした。
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