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4.五月闇に、忍び寄る

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 曇り空の下を歩き、リアムたちの宿泊しているホテルに向かった。
 このエリアでは、指折りの老舗ラグジュアリーホテル。ロビーラウンジには、優雅にティータイムを楽しむ客もいれば、私たちと同じようにビジネスだと思われる客もいた。

「やっぱり、スイーツは日本のものに限るね!」

 ラウンジの目玉の一つらしき、季節限定、数量限定のケーキを頬張りながら、リアムはご満悦の様子だ。
 その姿を横目に、私はジェイクと向かい合い、テーブルにタブレットを広げて打ち合わせを進めていた。

「では、このような予定で。アテンド予定者のプロフィールは、後ほどメールでお送りします」

 チームで決めたスケジュールを伝えると、ジェイクは特に問題ないといった様子で小さく頷いた。だが不満が出たのは、その隣りからだ。

「え~! 全部エマが来てくれるんじゃないの?」
「ごめんなさい。急な話だったからスケジュールの都合があって。でも業界に精通してるし、私より有能な人だから。本当は北海道にも行ってもらいたかったんだけど、そこは予定が合わなくて」

 いくら旧知の仲だとはいえ、ビジネスはビジネス。いくらなんでも、全てリアムの都合に合わせるわけにはいかない。
 やんわりと理由を告げると、不服そうな表情をしながらも、「仕方ないか」とのんでくれたようだ。
 けれど話しはそれで終わらなかった。

「じゃあ、エマ。ここからは、友人としてのお願いなんだけど……」

 目尻を下げ、子犬のような可愛らしい表情でリアムは切り出す。

「明日、ディナーに付き合ってくれないかな。懐かしい話もしたいし。もちろん、ジェイクも一緒に」

 そういう誘いはあるだろうと予想はできた。私だって、十五年会っていなかったとはいえ、リアムは大切な友人だ。話したいことはたくさんある。それに、二人きりではない。ジェイクと交友を深められるのは、これからのビジネスにプラスになるかも知れない。
 考えこんだ私に、リアムはニコリと笑うと続ける。

「エマも、誰か連れてきてくれていいよ。例えば……夫、とか」
「夫? 私、結婚していないわよ」

 結婚していてもおかしくない年齢ではあるが、指輪をしているわけでもない。どうして急に、と不思議に思いつつ返すと、リアムは逆にキョトンとしていた。

「じゃあ、ボーイフレンド? 紹介して欲しいな」

 そう言い切られてハッとする。ここに来る前、無意識に自分がしていた行動を思い出して。

(見られた……って、こと?)

 さっき髪を結び直してしまった。いつもと同じように、真後ろに一つに。
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