駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛

玖羽 望月

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4.五月闇に、忍び寄る

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「…………って、依澄さん? 本気ですか⁈」

 スマホを取り出し、難しい顔でブツブツ言いながら画面を見始めた彼の姿に、ようやく我に返った。

「ん? 駄目なのか?」

 何か問題でもあるのかと言いたげな表情で、依澄さんはこちらを向く。

「だ、だって! 仕事は? それに、どんな理由をつけて出張するの? さすがに無理です!」

 これは本気だ。このままじゃ、仕事を放り出して着いてきそうで、焦りながら強めに口にする。すると彼は、みるみる眉を下げた。

(捨てられた犬みたいな顔されたら、困るよ……)

 それに危うく絆されそうになり、頭を振って続ける。

「リアムのことは、弟みたいにしか思ってないです。宿泊先だって、きっと別になるでしょうし、現地の施設を案内するだけ。だから、心配しないでください」

 依澄さんはまだシュンとしたまま、やおら口を開いた。

「恵舞のことを、信用してないわけじゃない。ちょっと……嫉妬というか、独占欲というか。とにかく、羨ましかったんだ」

 耳まで赤く染めて、顔を逸らす依澄さんを見て思う。

(どうしよう……。可愛い……)

 付き合い始めてから、いや、その前から見せる意外な一面に、枯渇しそうだった乙女心が湧き出す。結局、彼に翻弄されて、転がされてしまうのだ。
 軽く拳を握り口元へ持って行くと、わざとらしく咳払いする。

「とにかく。仕事上で接点なんてないんですから、依澄さんが出張するのは難しいです。でも、土日なら……。一日に往復二便しかないような場所ですけど、来ます、か?」

 来て欲しいなんて、可愛く言えない自分が憎い。けれどこれでも、頑張っていると思いたい。
 顔を上げた彼は、パァッと明るい表情に切り替わる。絶対会社ではしないだろう、弾けるような笑顔だ。

「いいのか?」
「もちろん。私だって、依澄さんと旅行したいです」
「じゃ、計画立てなきゃな。楽しみだ」

 それに笑顔で、大きく頷いた。

 食事が終わり、二人で片付けをして、それからお風呂。遅い時間だからとかこつけて、半ば無理矢理一緒に入ることになった。
 バスタブの中で背中から抱きしめられるというこのシチュエーションは、何度経験してもいまだに慣れない。

「あっ、何、してるんですか!」
「何もしてないよ」

 笑いながら、彼は首に唇を押し当てる。かと思うと、時々刺されたような小さな痛みが走った。

「やっ、ちょっと、依澄さん!」

 何をされたか察してジタバタする。
 自分からは見えないけど、他人からは見える場所。そこに、絶対付けられただろう痕を想像して。
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