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4.五月闇に、忍び寄る
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置き去りになっていた仕事を片付けたり、明日の視察のために資料を探したりしているうちに、時間はまもなく午後六時。そろそろ予定されていた会議の時間だ。
タブレットや筆記具などの必要な持ち物を、持ち歩き用のトートバッグ入れると席を立った。
(依澄さんに連絡入れとこう……)
お互い、普段は仕事の話をすることは少ない。残業だってあるし、急かすような気がして帰宅時間さえ尋ねることはない。でも今日は、絶対にリアムのことを聞いておきたい。
会議室のある階に着くと、廊下の隅に立ち止まりスマホを取り出す。
"お疲れ様です。今日、お話ししたいことがあるんですが、お時間ありますか? 私は今から会議なので、退社は八時頃の予定です"
相変わらず、可愛らしさのカケラもない文面だが仕方ない。そのメッセージを送り、ゆっくり歩きながら画面を見ていると、既読の文字が浮かび上がった。そしてすぐ返信があった。
"俺も同じくらい。一緒に帰る?"
「いっっ、しょ⁈」
依澄さんが入社してからそんな誘いを受けたことはない。驚いて手元の画面に向かって声を上げると、下に向けていたスマホの先にヌッと黒い革靴が現れた。
「歩きスマホとは、いただけないな」
頭上から淡々とした低い声が聞こえて、慌てて顔を上げる。
「いず……っ、竹篠部長! お疲れ様です!」
自分は階段を使ったが、彼はエレベーターだったようだ。その彼の後ろには、会議室に入っていく社員が見えた。
自分の後ろから来る人間はおらず、依澄さんはそれを踏まえてか表情を緩める。
「俺も同じ会議に出席する。知らなかっただろ」
小声で話しかける彼は、いつも私に見せる、悪戯っぽい笑みを浮かべる。それに無言でブンブン頷くと、依澄さんはいっそう表情を崩した。
「今日はうちに来ないか? 話しは帰ってからゆっくりしよう」
「そう、させてください。でも……」
一緒に帰るということは、彼の車でということだ。誰かに見られるのではないかと心配になる。
「ビルのエントランスを出て、右側の路地に車止めとくから。会社出る時連絡して」
何も言わなくても察してくれた依澄さんに、「わかりました」と笑顔で返す。そんな私を見て、彼から小さな笑い声が漏れていた。
エレベーターホールからガヤガヤと話し声が聞こえ始めると、それに合わすように彼は表情を切り替える。着任の挨拶のときのような、堂々たる姿だ。
「では、雪代さん。お手並み拝見といこうかな」
それに引き攣りながら、「お手柔らかに……」と返し、会議室に向かう彼の背中を追った。
タブレットや筆記具などの必要な持ち物を、持ち歩き用のトートバッグ入れると席を立った。
(依澄さんに連絡入れとこう……)
お互い、普段は仕事の話をすることは少ない。残業だってあるし、急かすような気がして帰宅時間さえ尋ねることはない。でも今日は、絶対にリアムのことを聞いておきたい。
会議室のある階に着くと、廊下の隅に立ち止まりスマホを取り出す。
"お疲れ様です。今日、お話ししたいことがあるんですが、お時間ありますか? 私は今から会議なので、退社は八時頃の予定です"
相変わらず、可愛らしさのカケラもない文面だが仕方ない。そのメッセージを送り、ゆっくり歩きながら画面を見ていると、既読の文字が浮かび上がった。そしてすぐ返信があった。
"俺も同じくらい。一緒に帰る?"
「いっっ、しょ⁈」
依澄さんが入社してからそんな誘いを受けたことはない。驚いて手元の画面に向かって声を上げると、下に向けていたスマホの先にヌッと黒い革靴が現れた。
「歩きスマホとは、いただけないな」
頭上から淡々とした低い声が聞こえて、慌てて顔を上げる。
「いず……っ、竹篠部長! お疲れ様です!」
自分は階段を使ったが、彼はエレベーターだったようだ。その彼の後ろには、会議室に入っていく社員が見えた。
自分の後ろから来る人間はおらず、依澄さんはそれを踏まえてか表情を緩める。
「俺も同じ会議に出席する。知らなかっただろ」
小声で話しかける彼は、いつも私に見せる、悪戯っぽい笑みを浮かべる。それに無言でブンブン頷くと、依澄さんはいっそう表情を崩した。
「今日はうちに来ないか? 話しは帰ってからゆっくりしよう」
「そう、させてください。でも……」
一緒に帰るということは、彼の車でということだ。誰かに見られるのではないかと心配になる。
「ビルのエントランスを出て、右側の路地に車止めとくから。会社出る時連絡して」
何も言わなくても察してくれた依澄さんに、「わかりました」と笑顔で返す。そんな私を見て、彼から小さな笑い声が漏れていた。
エレベーターホールからガヤガヤと話し声が聞こえ始めると、それに合わすように彼は表情を切り替える。着任の挨拶のときのような、堂々たる姿だ。
「では、雪代さん。お手並み拝見といこうかな」
それに引き攣りながら、「お手柔らかに……」と返し、会議室に向かう彼の背中を追った。
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