駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛

4.五月闇に、忍び寄る

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　どこか寂しさを抱えながらのゴールデンウィークは、あっという間に過ぎていた。
　そして連休明けの週末は、当たり前のように二人で過ごした。熱に浮かされたままの私たちは、当然のように離れられず、彼の家で過ごす時間は長くなっていた。
　平日も依澄さんの家に寄るようになり、最初は週に一日だったのが、今は自宅に帰るほうが少ない。彼の家にもどんどん、自分のものが増えていた。

　そうしているうちに季節は、夏へと塗り変わっていた。
　連休前後の繁忙期も落ち着き、今は次のフェーズに入っている。
　それが視察対応。
　宮藤には、海外から視察にくる企業も多い。その相手に同行し対応する、アテンド通訳の仕事が増えてくる季節だ。もちろん、同行するのは日帰りとは限らず、出張をともなうこともある。
　今も、黒岩さんと深瀬くんは遠方に出張中。羽瑠ちゃんは都内を案内中で、部署は閑散としていた。

「うわあ……。降りそうですね」

　立ち上がった紗里ちゃんが、遠くの窓に目を凝らしている。

「今日梅雨入りしたんだっけ？　ここのところ降ったり止んだりだったけど、今日はわりと降るみたいだよ」

　六月も半ばとなり、関東地方は平年より少しだけ遅く梅雨入りを迎えた。これから一カ月ほど、ぐずついた天気が続くと思うと少し憂鬱だ。それでなくても外出が増えるのに。視察は梅雨を避けてくれないだろうかと、毎年思ってしまう。

「やっぱり私、本格的に降り出す前に帰りますね。明日は早出なんで」
「うん。そうして。私は明日午後から出勤。夜に会議通訳入ってるから。明日は羽瑠ちゃんがいてくれるし、大丈夫だと思う」

　立ったままの紗里ちゃんに椅子を向けて話しかけると、彼女は人差し指と親指で輪っかを作り「わかりました」と明るい笑顔を見せた。

　紗里ちゃんが帰り一人きりになると、気を取り直して仕事に集中する。
　夜にかけて雨足は強くなると天気予報は言っていた。手元にある書類が片付いたら、自分も帰ろうと仕事に励んだ。

「よし！　終わりっ！」

　広報課に頼まれていた、社内誌の英語版の校正が出来上がったのは午後五時。締め切りは明日だが、まだ担当者も退社してないはずだ。帰る途中に渡しに行こうと、書類をファイルに入れ、帰宅の準備を始めた。

　広報課は、総務部のある二階下のフロアにある。エレベーターを待つより、階段を降りた方が早い。
　階段を降り、そのフロアに繋がる防火扉を開け廊下へ出る。とすぐに、金髪の男性が大きなスーツケースを傍らに、辺りの様子を伺っているのが目に入った。