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3. 夏の兆しとめぐる想い

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「補い……合う……」

 依澄さんの言葉を小さく反芻する。
 そんなこと、考えたこともなかった。ずっと、ちゃんと家事ができなければいけないと思い込んでいた。だから仕事を言い訳にして、結婚に憧れることすらしてこなかったのかも知れない。それに今更気付かされ、衝撃を受けていた。
 放心したまま依澄さんを見つめていると、彼は表情を和らげる。

「俺だって、苦手なことくらいある。もし二人とも苦手なら、力を合わせればいいと思っているよ」

 なんて懐が深いのだろう。その器の大きさに、胸がジンと熱くなる。自己否定していた私を肯定し、手を差し伸べてくれている。
 それは、自分が好きになったルークそのものの姿でもある。幼い自分の、取るに足らないような小さな悩みを真剣に聞いてくれて、いつも背中を押してくれたのは、紛れもなく今目の前で優しく自分を見つめている彼なのだから。

「そう……ですね。私も、依澄さんとそうやって過ごしていきたいです」

 凝り固まった気持ちが解けていくのがわかる。ようやく自然に、笑いながら話せていた。

「だから、教えてください。依澄さんの得意なこと、苦手なこと。私のも聞いて欲しいです」
「ああ。まだまだお互い、知らないことだらけだからな。食べながら話そう。恵舞の作ったカレー、本当に美味いぞ」

 明るく返す依澄さんは、戯けるように言ってまたカレーを口に運ぶ。

「はい。私も食べます。人生初の、最初から最後まで自分で作った料理を」

 少し冷めたカレーライスを掬い、恐る恐る口に運ぶ。震える手でスプーンを口に持っていくと、一気に口に放り込んだ。

「え……。美味しい……」

 さっきまであんなに粗探しした料理が、驚くほど美味しく感じる。目を見開いて前を向くと、彼は少年みたいな屈託のない笑顔を見せた。

「なっ? 美味いだろ?」
「はい。とっても」

 じわりと瞳が熱を持つ。涙が出そうなのを堪えて、またカレーライスを口に運んだ。

 依澄さんはあっと言う間に一皿目を食べ終え、いそいそとおかわりを入れに行っている。私は噛み締めるようにカレーを食べ、時々ピクルスに箸を伸ばした。
 程よい酸味が口をサッパリさせ、いくらでも食べられそうだ。自家製だなんて、言われなければ気づかないレベルで美味しい。

「そういえば。依澄さんは、誰に料理を教えてもらったんですか?」

 テーブルに戻り、二皿目のカレーを食べ始めた彼にふと尋ねてみる。彼の育った環境から言って、家族でないのは確かだろう。

「ん? ああ、実は――」
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