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3. 夏の兆しとめぐる想い

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 依澄さんが着替えに行っているあいだに、カレー用のお皿を出し、盛り付けの準備を始める。そこでようやく、自分がしでかしたことに気づいた。

「これじゃ……足りない……」

 炊飯器の前でしゃもじを手に呆然とする。
 家でご飯を炊くときは、家族三人だから三合だと機械的に炊いていた。だから何も考えず、二合でいいかなんて思ったけど、炊き上がったご飯の量は、カレーを食べるには明らかに足りない。一皿分ずつならなんとかなるが、おかわりはできそうにない。ルーはたくさんあるのに、どうしようと途方に暮れていた。

「どうした?」

 シンプルな白いTシャツにグレーのスエットと、ラフな格好で戻って来た依澄さんが、放心したままの私に呼びかける。

「あ……。ご飯が、足りないかもって……」
「ん?」

 彼は炊飯器を覗き込むと、「ん~」と小さく唸る。

「冷凍してるご飯を温めようか。たくさんあるし」
「そんなのが……」
「いつもそう食べないし、時間があるときに炊いて、冷凍してるんだ」

 ポカンとしたまま彼を見上げる。自分なんかより、はるかに高い生活力に、肩身が狭くなる。

「じゃ、ご飯入れてもらっていいか? ルーは俺が入れるよ」
「は、はい!」

 平然と言う彼に、慌てて返事をしてお皿にご飯を盛る。依澄さんには気持ち多めに。彼は渡された皿にルーをかけると、その皿を両手にこちらを向いた。

「運ぶのはこれだけ?」

 他意がないのはわかっている。けれどカレーに気を取られ、それ以外何も用意していない自分に愕然としていた。

「すみません……。それだけで……。サラダとか、用意すればよかったですね」

 決まりが悪くて彼の顔が見られない。視線を逸らすと、彼がカウンターにお皿を置くのが見えた。

「どうして謝るんだ? ちょうどいい。作り置きしてあるのを食べてくれないか? 家を空ける前に食べ切らないとって、思ってたところだ」

 依澄さんは慰めるような優しい声色で、私の頭をポンポンと撫でる。その手が離れたところで顔を上げると、彼は物柔らかな笑みを浮かべた。

「カレーをテーブルに運んでもらっていい? 冷蔵庫にあるものを適当に出してくるから、座って待ってて」
「……はい」

  弱々しく返事をしながら頷くと、キッチンを出てダイニング側からカウンターに向かう。皿を持ちながら向こう側に視線を移すと、依澄さんは鼻歌でも歌わんばかりに上機嫌で冷蔵庫を開けていた。

(呆れられてはないみたいだけど……)

 自分自信に呆れながら軽く息を吐き出すと、私はテーブルに向かった。
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