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番外編: jeweler's witches(依澄side)
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「Hi! いらっしゃい」
最初に出迎えたのは、赤毛の長い髪が印象的な女性だ。その彼女に名前を告げると、にこやかな笑顔が返ってきた。
「レイの言うとおり。あなた、なかなか面白いわね。でも、自分を偽りすぎると痛い目みるわよ?」
またも呆気に取られる。さすが、魔女たち、と言われるだけある。彼女もまた魔法を使うようだ。そしてその言葉は自分の痛いところを突いていて、苦笑いを浮かべてしまう。
「アン~……。コーヒー頼むよ……」
奥から、クールだった前とは打って変わってボサボサ頭で眠そうな彼女が現れた。
そういえば、名前を聞いていなかったが、金髪の彼女がレイチェルで、赤毛の彼女がアンナなのだろう。
レイチェルは自分に気づくと、口角を上げた。
「――どう? 問題ない?」
ベルベット調のトレイに置かれたペンダントに視線を落とす。
彼女に会う手筈は整えた。だがはたしてその後、これを渡す機会が訪れるのか、そもそも渡そうと思えるのか。全て不明瞭なままだ。
「ああ。問題ないようだ」
「OK これはジュエリーの鑑定書。それから請求書」
差し出された書類を受け取り確認する。ジュエリーに詳しくはないが、それでもその石の名前はすぐにわかる。世界で一番高価な石だ。
「これほどイエローが濃いものはなかなか手に入らないんだけど、ラッキーだったよ。イメージ通りでしょ?」
まるで彼女のことを知っているように、レイチェルは満足そうに話す。何一つ情報を与えていないというのに。
「ああ」
短く答えて請求書に視線を移すと、それ相応の金額が表示されていた。
ジム曰く、『言い値だけど、その人に見合ったものが用意される』らしい。もちろん自分には問題なく支払える額だが、これを渡せたとしても、本人には金額を知られないほうが得策だろう。
「じゃあ、包んでおくわね。ハッピーになれるように、特別におまじないをかけておいてあげる」
アンナがウインクしながらトレイを持ち上げる。ただのジョークでも、彼女が言うだけでオカルトじみてしまう。
カードで支払いを済ませると、二人は商品を渡しにショーケースの向こうから出てきた。
「Good luck.うまくいくといいね」
「私がさっき言ったこと、忘れないでね」
淡々とした表情で口元だけ緩ませるレイチェルと、再び釘を刺すアンナに向かって頷く。
「ありがとう。また報告に来るよ。たとえ、うまくいかなくても」
そう返すと、二人は顔を見合わせて笑う。
「そうだね。また来てよ。うまくいかなかった人の話は聞いたことがないから新鮮だ」
「そうね。それはそれで、興味あるわ」
口々に言う彼女たちに面食らう。そして察した自分は笑みを浮かべた。
「では、聞き飽きた話になるかな。また会える日を楽しみにしている」
「日本の話も聞かせてよ。友人たちが住む国なんだ」
「ああ。では、また」
二人と握手を交わし、店をあとにする。
そして歩きだし、しばらくしてから気づいた。自分は彼女たちに、日本に行くと話していないことを。
(さすがは、魔女だな)
いつかこの話を、彼女にできるだろうか。そうなればいいと、その顔を思い浮かべて空を仰ぎ見た。
Fin
最初に出迎えたのは、赤毛の長い髪が印象的な女性だ。その彼女に名前を告げると、にこやかな笑顔が返ってきた。
「レイの言うとおり。あなた、なかなか面白いわね。でも、自分を偽りすぎると痛い目みるわよ?」
またも呆気に取られる。さすが、魔女たち、と言われるだけある。彼女もまた魔法を使うようだ。そしてその言葉は自分の痛いところを突いていて、苦笑いを浮かべてしまう。
「アン~……。コーヒー頼むよ……」
奥から、クールだった前とは打って変わってボサボサ頭で眠そうな彼女が現れた。
そういえば、名前を聞いていなかったが、金髪の彼女がレイチェルで、赤毛の彼女がアンナなのだろう。
レイチェルは自分に気づくと、口角を上げた。
「――どう? 問題ない?」
ベルベット調のトレイに置かれたペンダントに視線を落とす。
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「ああ。問題ないようだ」
「OK これはジュエリーの鑑定書。それから請求書」
差し出された書類を受け取り確認する。ジュエリーに詳しくはないが、それでもその石の名前はすぐにわかる。世界で一番高価な石だ。
「これほどイエローが濃いものはなかなか手に入らないんだけど、ラッキーだったよ。イメージ通りでしょ?」
まるで彼女のことを知っているように、レイチェルは満足そうに話す。何一つ情報を与えていないというのに。
「ああ」
短く答えて請求書に視線を移すと、それ相応の金額が表示されていた。
ジム曰く、『言い値だけど、その人に見合ったものが用意される』らしい。もちろん自分には問題なく支払える額だが、これを渡せたとしても、本人には金額を知られないほうが得策だろう。
「じゃあ、包んでおくわね。ハッピーになれるように、特別におまじないをかけておいてあげる」
アンナがウインクしながらトレイを持ち上げる。ただのジョークでも、彼女が言うだけでオカルトじみてしまう。
カードで支払いを済ませると、二人は商品を渡しにショーケースの向こうから出てきた。
「Good luck.うまくいくといいね」
「私がさっき言ったこと、忘れないでね」
淡々とした表情で口元だけ緩ませるレイチェルと、再び釘を刺すアンナに向かって頷く。
「ありがとう。また報告に来るよ。たとえ、うまくいかなくても」
そう返すと、二人は顔を見合わせて笑う。
「そうだね。また来てよ。うまくいかなかった人の話は聞いたことがないから新鮮だ」
「そうね。それはそれで、興味あるわ」
口々に言う彼女たちに面食らう。そして察した自分は笑みを浮かべた。
「では、聞き飽きた話になるかな。また会える日を楽しみにしている」
「日本の話も聞かせてよ。友人たちが住む国なんだ」
「ああ。では、また」
二人と握手を交わし、店をあとにする。
そして歩きだし、しばらくしてから気づいた。自分は彼女たちに、日本に行くと話していないことを。
(さすがは、魔女だな)
いつかこの話を、彼女にできるだろうか。そうなればいいと、その顔を思い浮かべて空を仰ぎ見た。
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