駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛

玖羽 望月

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3. 夏の兆しとめぐる想い

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 依澄さんはすでに、ロビーラウンジに席を予約してくれていた。まだ少し時間があるからと、ロビーにあるベンチに腰掛けて羽瑠ちゃんを待つことにした。
 そのあいだに彼は、親子水入らずの会食の話をしてくれた。本場の和食は別格で両親は感激していたとか、自分も和食を作ってみたいが、忙しくて本格的なものにはまだ挑戦できていないとか。
 料理などほとんどしてこなかった自分には、少し耳が痛い。どちらかと言えば片付けるほうが得意。いつか私の手料理を食べてみたいと言われたら、どうすればいいんだろうと考えると顔が引き攣ってしまう。
 そんなとき、遠くから「恵舞!」と自分を呼ぶ声がして、そちらに顔を向けた。
 ホテルのロビーを横切るように歩く羽瑠ちゃんは、シックなネイビーのロングワンピース姿だ。元がモデル並の容姿なのだから、周りの人は芸能人でもいるみたいに、チラチラと彼女を見ていた。

「羽瑠ちゃん!」

 その場で立ち上がり、小さく手を振る彼女に手を振りかえす。硬かった表情を和らげると、羽瑠ちゃんは小走りでこちらに駆け寄ってきた。

「ごめんね、恵舞」

 目の前までやってくると、羽瑠ちゃんは私に抱きついて謝る。

「そんなに謝らないで。そんなに簡単に話せる内容じゃないんだし、依澄さんからちゃんと聞いて、納得したから」

 落ち着かせるように彼女の細い背中をさすると、強張っていた体が少し緩んだ気がした。

「良かった……。恵舞に嫌われたら、どうしようかと思った……」

 彼女らしからぬ気弱な姿を元気付けるように、回した腕に力を込める。

「羽瑠ちゃんを嫌いになるなんてないよ。これからも、大事な友だちだよ」
「うん。ありがとう、恵舞」

 私たちが気持ちを確かめ合っているのを、依澄さんは隣りに立って見守ってくれていたようだ。ちょうど良いタイミングで、彼は切り出した。

「二人とも、そろそろ時間だぞ。店に入ろう」

 そう促され顔を上げると、羽瑠ちゃんの肩越しから、こちらに向かってくる男性の姿が目に入った。
 それは自分もよく知る、羽瑠ちゃんの大学時代からの友人の一人。仲が良かったというあと二人の友人たちも含め、何度も遊びに行ったことのある仲だ。

「えっ……と。羽瑠ちゃん。なんでここに、そうくんがいるの?」

 ダークグレーのスーツを着て、長めの茶髪を遊ばせている彼は、その見た目通りの軽い調子で手を振り上げた。

「よっ! 恵舞ちゃん、久しぶり」

 ポカンと口を開ける私に、羽瑠ちゃんは苦笑いを浮かべていた。
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