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3. 夏の兆しとめぐる想い

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「――恵舞、可愛い……」

 間接照明の、オレンジ色の灯りがほんのりと照らすベッドの上で、依澄さんは艶やかな笑みを浮かべている。そんな彼は、さっきから何度も同じ言葉を繰り返しては、その度にキスの雨を降らせていた。

「んっ……。そっ……んな、こと、言うの、依澄さんだけ、です」
 
 こちらは途切れ途切れで、吐息とともに言葉を紡ぐので精一杯だ。ほんの少し身動ぎするだけで、体の中を満たしている、薄い膜に遮れただけの部分から放たれた刺激が、体中を駆け巡るのだから。余裕なんてなく、必死になって、一糸纏わぬその逞しい体にしがみついている。
 なのに、依澄さんはまだ余裕の表情で口角を上げて、私を見下ろしていた。

「俺だけが、恵舞の可愛いところを知っていればいい。こんな姿……もう誰にも見せるつもり、ないから」

 彼が体を倒し、額に口付けるその動きだけで、お腹の奥が疼きとろとろと何かが溶け出しそうになる。それを感じながら、唇を動かした。

「見せて……んっっ、な、い、です」
「…………何を?」

 不思議そうな口調で尋ねながら、ゆっくりと腰を動かされ、意識する間もなく熱い息が言葉と同時に吐き出される。

「あっン、やっ……! だか、ら……。こんなこと、したのは、依澄さん、だけ、です」

 隠すことでもないと必死に打ち明ける。そのまま聞き流されるのだろうと思っていたのに、彼は息を呑んだ様子で動きをピタリと止めた。

「依澄、さん?」

 なんだろうかと恐る恐る目蓋を開くと、オレンジ色に仄かに照らされたその顔が目に入った。

「え? あ……」

 明らかに照れたような、決まりの悪い表情に驚いていると、それを隠すように覆い被さられた。

「……嫉妬……してた」

 力強く抱きしめている彼の、くぐもった声が耳元から聞こえる。その背中に腕を回し、頭に擦り寄ると囁くように尋ねた。

「……誰に?」
「こんな可愛い恵舞を、見ただろう想像上の男に」

 弱音のような台詞に、どうしようもなくキュンとしてしまう。こんな姿は、きっと自分だけしか見ていないのだと思うと、愛おしさが湧き出した。しっとりした広い背中を、宥めるように摩ると、彼は顔を上げた。

「自分で自分に嫉妬してたんだな。……ごめん。この前は優しくできなくて」
「そんなこと……ないです。だって……」

 その続きを思い浮かべるだけで、顔がカァッと熱くなる。羞恥心から目を逸らすと、依澄さんは頰に唇を押し付け始めた。

「恵舞…… 言って?」

 続く言葉などお見通しとばかりに、笑みを含んだ声で強請られる。意を決して顔を動かすと、目尻を下げた彼の顔がそこにあった。

「凄く……気持ち、よかった……です」

 正直に気持ちを吐露すると、満面の笑みが返ってくる。ルークであり、依澄さんでもある優しい顔だ。

「……俺もだよ、恵舞」

 見つめ合って笑い合う。
 もう、言葉なんていらない。愛していると、態度で表すように深いキスをして、お互いを求め合う。今は何もかも忘れて、彼からの愛撫を受け取り、それに返した。
 二人で高みに昇りつめ、冷めることのない熱い体をベッドに横たえた。

「恵舞……」

 ぼうっとしている私の髪を梳くように撫でる。

「なんですか……?」

 彼の額に光る汗に張り付く髪を掬いながら答えると、その手を取り口元に誘われる。

「もう、二度と離さないから」

 口付けられたのは、左手の薬指。その意味を察したけれど、首を横に振ることなどできなかった。
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