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3. 夏の兆しとめぐる想い

7.

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「って……。思い出に浸っている場合じゃないな。ごめん。羽瑠は……妹、なんだ」
「いも……うと……? でも、苗字が……」
「ああ、父親は違う。俺の父に……家に捨てられた母を、救ってくれたのが羽瑠の父なんだ」

 呆気に取られ、言葉を失ったままの自分に近づくと、依澄さんはまだ涙のあとの残る頰を指でなぞった。

「恵舞。本当に……ごめん。俺が浅はかだった。恵舞ならあとで説明しても、わかってくれるだろうって、勝手に思ってた。思い上がりもはなはだしいな。自分の不甲斐なさを、痛いほど思い知ったよ」
 
 何度も謝罪を繰り返すその声は弱々しく、顔を苦しげに歪ませ痛々しい表情をしている。けれど同じくらい、自分も傷ついていて、思うことはたくさん湧き出してくる。

「そう……ですね。確かに、公言するような内容ではない……ですよね。でも、話して欲しかった、です」
「うん……。本当に……ごめん」
「早く話してくれていれば、こんな気持ちになることなかったのにって。込み入った内容ではあるけど、自分はそれを、話してもらえるような立場じゃなかったのかって……悲しかった」
「そう、だよな。いくら謝っても、気は済まないだろうけど……。恵舞のことを、蔑ろにするつもりなんてなかった。それは俺も、羽瑠も、同じだ」

 決して私を軽く扱っていたわけじゃないのは、ちゃんとわかっている。それでも、こんなに大きなショックを受けているのは、彼に対する思いの強さの表れなのかも知れない。
 まだ出会って二か月も経っていなくて、顔を合わせた回数だってすぐに数えられるほどだ。なのに彼に強烈に惹かれていて、もうそれに抗うことができないでいる。
 黙りこくったまま自分の心と対話する私を、彼はまだどこか後ろめたい様子で見つめていた。その、軽く握られていた拳が、ギュッと握られたのが目に入ると、真っ直ぐこちらに視線を送る彼の唇は開かれた。

「恵舞。まだ、話せていないことがあるんだ。一番……大事なことを。最初から素直に言えばよかったなんて、いまさら悔やんでもどうしようもないし、嫌悪されても仕方ない……。けど、聞いて欲しい」

 それはずっと感じていた違和感の正体。時折り見せた、何か言いたげな面持ちにまつわること。それを感じ取り、息を呑んで頷いた。
 
「俺が、事情があり竹篠を名乗るようになったのは、日本に来る直前だ。それまで名乗っていたのは、Howardハワード。……Lukeルーク Izumiイズミ Howardハワード.これが俺の本当の名前だ」
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