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3. 夏の兆しとめぐる想い
5.
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あまりにも神妙な面持ちだったからか、彼の表情が強張った。そんな必要はないのに。むしろ怖がっているのは自分のほうだ。
今からする質問の答えが、安心できるものになるのか確証なんてない。羽瑠ちゃんとのことなんて、聞けるはずもないし、どこで誰と会っていようが、それは彼の自由だ。でも、醜く嫉妬している自分がいる。ルークが女の子と歩いているのを見て、嫉妬していたあの頃と何一つ成長していない自分にうんざりしてしまう。
それでも聞かなくては。そう気持ちを奮い立たせて唇を開く。
「依澄さんは……デーティングを、何人か同時に、したことがありますか?」
遠回しかも知れないけど、今はこう尋ねるので精一杯だ。YESと返ってきたとき、冷静でいられる自信はないけれど。
彼は唖然とした様子だ。まさかそんなことを尋ねられるなんて、思ってもいなかったようだ。薄く開いた唇から声は発せられず、ただ目を見開いていた。
「まさか……とは、思うけど」
驚愕したままの表情で、彼はようやく言葉を発す。けれどそれに続く言葉は、予想とは全く違うものだった。
「恵舞は、そう……したいのか?」
意表を突かれるように質問に質問で返される。ワンテンポ遅れてその意図を掴むと、慌てて両手を振り打ち消した。
「違います! 私はそんなことしません。デーティングの経験だって、数えるほどしかないんですから!」
必死に返す私に、依澄さんはどこかホッとしながらも、落胆したように暗い表現をみせた。
「俺も……しない。けど俺は恵舞に、そう思わせるようなことをしたってこと、だよな」
「それは……」
決まりが悪くなり口籠もりながら視線を落とす。こんな思わせぶりなことを聞いておいて、何もないですなんて不審がられるだろう。こういう状態を袋のねずみというのかと、痛感していた。
「恵舞。何かあるなら言ってくれ。不安があるなら取り除きたいんだ」
きっと彼は、真摯に向き合おうとしてくれている。それを痛いほど感じて顔を上げた。
真剣な眼差しがこちらを見つめている。もう流されるしかないみたいだ。たとえこれが愛じゃなくても、もうとっくに彼に溺れていて、そこから抜け出せそうにないのだから。
「見た人が……いるんです」
「見た? いったい何を……」
恐る恐る口に出す。見間違いだと、彼の口から聞きたい一心で。
「……羽瑠ちゃんと、歩いているところを」
誰だ、それは。そう言って欲しかった。なのに。
「羽瑠と?」
彼は確かに、親しげにその名前を呼んだ。
今からする質問の答えが、安心できるものになるのか確証なんてない。羽瑠ちゃんとのことなんて、聞けるはずもないし、どこで誰と会っていようが、それは彼の自由だ。でも、醜く嫉妬している自分がいる。ルークが女の子と歩いているのを見て、嫉妬していたあの頃と何一つ成長していない自分にうんざりしてしまう。
それでも聞かなくては。そう気持ちを奮い立たせて唇を開く。
「依澄さんは……デーティングを、何人か同時に、したことがありますか?」
遠回しかも知れないけど、今はこう尋ねるので精一杯だ。YESと返ってきたとき、冷静でいられる自信はないけれど。
彼は唖然とした様子だ。まさかそんなことを尋ねられるなんて、思ってもいなかったようだ。薄く開いた唇から声は発せられず、ただ目を見開いていた。
「まさか……とは、思うけど」
驚愕したままの表情で、彼はようやく言葉を発す。けれどそれに続く言葉は、予想とは全く違うものだった。
「恵舞は、そう……したいのか?」
意表を突かれるように質問に質問で返される。ワンテンポ遅れてその意図を掴むと、慌てて両手を振り打ち消した。
「違います! 私はそんなことしません。デーティングの経験だって、数えるほどしかないんですから!」
必死に返す私に、依澄さんはどこかホッとしながらも、落胆したように暗い表現をみせた。
「俺も……しない。けど俺は恵舞に、そう思わせるようなことをしたってこと、だよな」
「それは……」
決まりが悪くなり口籠もりながら視線を落とす。こんな思わせぶりなことを聞いておいて、何もないですなんて不審がられるだろう。こういう状態を袋のねずみというのかと、痛感していた。
「恵舞。何かあるなら言ってくれ。不安があるなら取り除きたいんだ」
きっと彼は、真摯に向き合おうとしてくれている。それを痛いほど感じて顔を上げた。
真剣な眼差しがこちらを見つめている。もう流されるしかないみたいだ。たとえこれが愛じゃなくても、もうとっくに彼に溺れていて、そこから抜け出せそうにないのだから。
「見た人が……いるんです」
「見た? いったい何を……」
恐る恐る口に出す。見間違いだと、彼の口から聞きたい一心で。
「……羽瑠ちゃんと、歩いているところを」
誰だ、それは。そう言って欲しかった。なのに。
「羽瑠と?」
彼は確かに、親しげにその名前を呼んだ。
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