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2.吹き荒れるは、春疾風
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そんな依澄さんの作るものが、美味しくないわけはない。本人は「焼くだけなんだから誰でもできる」なんて言っていたが、自分が料理して同じようにできる気がしない。
ジュージューと音を立てる鉄板には、昔住んでいたアメリカの田舎町に唯一あった、ステーキハウスで出されているものくらい大きな肉が乗っている。付け合わせにはマッシュポテトにコーン、ブロッコリーと、グリルした芽キャベツ。とにかく豪華だ。
(確かあれも……誕生日だったっけ)
両親と初めてステーキハウスを訪れたのは、七才くらいだっただろうか。大きなステーキに目を輝かせているのは今日も同じだったのか、向かいの依澄さんにクスクス笑われていた。
「腹減っただろ。食べよう」
「はい。いただきます」
手を合わせてからナイフとフォークを手にする。
火が通り過ぎないように調節してあったのか、ナイフをいれたお肉は、ちょうどミディアムと程よい焼き加減だ。
一口サイズに切ったお肉を口に運ぶと、その味付けに不思議な感覚を覚えた。
「どう?」
様子を伺うように依澄さんに尋ねられる。
「……美味しい、です。けど……」
放心したように口を開く私に、依澄さんは訝しげに「けど、どうした?」と返す。
「なんだか……懐かしい味です。昔住んでた、アメリカにあった店と似てて……」
それを聞いて、彼はホッとしたように表情を緩める。
「そうか。俺が一番うまいと思ってる店の味を真似たんだ。恵舞に喜んでもらえて、通い詰めた甲斐があった」
「通い詰めたんですか? それで再現できるのは凄いですね」
柔らかな表情に誘われるように、小さく笑いながら口にする。
「通い詰めて、レシピを聞いたからな。恵舞にお墨付きをもらえたし、俺も食べるとするか」
依澄さんはようやくフォークを手にすると、真っ先にブロッコリーを突き刺した。
「もしかして、苦手なものは先に片付けておきたいタイプですか?」
「そういうこと。楽しみはあとでじっくり楽しみたいし」
意味深にニヤリと笑ったかと思うと、依澄さんはブロッコリーを口に入れた。
どんな顔をするのか興味津々で眺めてしまう。咀嚼し、飲み込んだだろう彼は、意外そうに目を開く。
「結構美味い。これならいくらでも食べられそうだ」
「でしょう? 芽キャベツだって、きっと気に入りますって」
彼に笑顔を向けると、「なら……」と今度は芽キャベツをフォークに刺した。かと思うと、突然それの柄の部分をこちらに向ける。
「今度は恵舞が食べさせて」
その顔は、期待に満ちた満面の笑みをたたえていた。
ジュージューと音を立てる鉄板には、昔住んでいたアメリカの田舎町に唯一あった、ステーキハウスで出されているものくらい大きな肉が乗っている。付け合わせにはマッシュポテトにコーン、ブロッコリーと、グリルした芽キャベツ。とにかく豪華だ。
(確かあれも……誕生日だったっけ)
両親と初めてステーキハウスを訪れたのは、七才くらいだっただろうか。大きなステーキに目を輝かせているのは今日も同じだったのか、向かいの依澄さんにクスクス笑われていた。
「腹減っただろ。食べよう」
「はい。いただきます」
手を合わせてからナイフとフォークを手にする。
火が通り過ぎないように調節してあったのか、ナイフをいれたお肉は、ちょうどミディアムと程よい焼き加減だ。
一口サイズに切ったお肉を口に運ぶと、その味付けに不思議な感覚を覚えた。
「どう?」
様子を伺うように依澄さんに尋ねられる。
「……美味しい、です。けど……」
放心したように口を開く私に、依澄さんは訝しげに「けど、どうした?」と返す。
「なんだか……懐かしい味です。昔住んでた、アメリカにあった店と似てて……」
それを聞いて、彼はホッとしたように表情を緩める。
「そうか。俺が一番うまいと思ってる店の味を真似たんだ。恵舞に喜んでもらえて、通い詰めた甲斐があった」
「通い詰めたんですか? それで再現できるのは凄いですね」
柔らかな表情に誘われるように、小さく笑いながら口にする。
「通い詰めて、レシピを聞いたからな。恵舞にお墨付きをもらえたし、俺も食べるとするか」
依澄さんはようやくフォークを手にすると、真っ先にブロッコリーを突き刺した。
「もしかして、苦手なものは先に片付けておきたいタイプですか?」
「そういうこと。楽しみはあとでじっくり楽しみたいし」
意味深にニヤリと笑ったかと思うと、依澄さんはブロッコリーを口に入れた。
どんな顔をするのか興味津々で眺めてしまう。咀嚼し、飲み込んだだろう彼は、意外そうに目を開く。
「結構美味い。これならいくらでも食べられそうだ」
「でしょう? 芽キャベツだって、きっと気に入りますって」
彼に笑顔を向けると、「なら……」と今度は芽キャベツをフォークに刺した。かと思うと、突然それの柄の部分をこちらに向ける。
「今度は恵舞が食べさせて」
その顔は、期待に満ちた満面の笑みをたたえていた。
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