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2.吹き荒れるは、春疾風

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 主にキッチン用品を扱うショップを探すと、そこに向かう。
 自分は普段寄ることのない店で戸惑うな、依澄さんはどこか楽しそうだ。レストランで使うような鉄板プレートを見つけ、「これ、いいな」なんて言いながらカゴに入れている。
 他に、デザートプレートやスーププレート、サラダボウルなど。それ以外にもナイフやフォークなどのカトラリーセットを、どんどんカゴに放り込んでいて、かなり重そうだ。
 そして最後に、依澄さんはカップの並ぶコーナーに私を連れて行った。

「グラスは二つあるが、カップはないんだ。恵舞はティーカップがいい? マグカップがいい?」

 うーん、と悩みながら眺める。棚には柄の美しいカップ&ソーサーや、普段使い出来そうなマグカップまで色々取り揃っている。

「私は……気軽に使えるマグカップですね」
「じゃあ好きなの選んで。恵舞専用にするから」

 依澄さんはニッコリ笑って、カップを眺める私の顔を覗き込んだ。

「専用って、今日しか使わないかも知れないのに?」
「食事で釣って恵舞が家に来てくれるなら、いくらでも作るけど?」

 まだ食べたわけじゃないが、絶対美味しいはず。それには心惹かれるが、二つ返事で行きます、なんて言えるはずはない。

「そうやって口説いても無駄です。とりあえず選びますけど、依澄さんが使ってください」

 素知らぬ顔で返しながら、私は棚に並ぶ一つを指差した。
 青をベースに、黄色いレモンが大きく描かれている柄。どこか地中海を思わせるテイストのマグカップだ。

「……レモン、好きなのか?」
「好きと言うか……。子どもの頃、レモネードスタンドをやってて。それを思い出して」

 レモネードスタンドは、アメリカではポピュラーなチャリティイベント。夏になるといつも、ボランティアをしていた教会の前で催されていた。
 子どもたちがレモネードを作り販売するもので、売り上げ金は寄付するのだが、その先も子どもたちで毎年話し合って決めていた。
 そしてその日は、町中の人が買いに来てくれるのだが、町外に住むルークは、そのためだけに買いに来てくれたのだ。

This is so good!とても美味しいよ

 十二才の私は、初めて自分が作ったレモネードを飲んでそう言ってくれたルークに恋をしたのだ――。

「いいよ。これにしよう」

 ふわりと笑う依澄さんの顔が、ルークと重なりドキリとする。
 黒髪で黒い瞳の依澄さんと、ダークブロンドでアンバーの瞳だったルーク。同じ顔なのに、見た目は違う。
 なのにどうしてだろう。今はとても似ている。そう思った。
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