36 / 38
2.吹き荒れるは、春疾風
14
しおりを挟む
主にキッチン用品を扱うショップを探すと、そこに向かう。
自分は普段寄ることのない店で戸惑うな、依澄さんはどこか楽しそうだ。レストランで使うような鉄板プレートを見つけ、「これ、いいな」なんて言いながらカゴに入れている。
他に、デザートプレートやスーププレート、サラダボウルなど。それ以外にもナイフやフォークなどのカトラリーセットを、どんどんカゴに放り込んでいて、かなり重そうだ。
そして最後に、依澄さんはカップの並ぶコーナーに私を連れて行った。
「グラスは二つあるが、カップはないんだ。恵舞はティーカップがいい? マグカップがいい?」
うーん、と悩みながら眺める。棚には柄の美しいカップ&ソーサーや、普段使い出来そうなマグカップまで色々取り揃っている。
「私は……気軽に使えるマグカップですね」
「じゃあ好きなの選んで。恵舞専用にするから」
依澄さんはニッコリ笑って、カップを眺める私の顔を覗き込んだ。
「専用って、今日しか使わないかも知れないのに?」
「食事で釣って恵舞が家に来てくれるなら、いくらでも作るけど?」
まだ食べたわけじゃないが、絶対美味しいはず。それには心惹かれるが、二つ返事で行きます、なんて言えるはずはない。
「そうやって口説いても無駄です。とりあえず選びますけど、依澄さんが使ってください」
素知らぬ顔で返しながら、私は棚に並ぶ一つを指差した。
青をベースに、黄色いレモンが大きく描かれている柄。どこか地中海を思わせるテイストのマグカップだ。
「……レモン、好きなのか?」
「好きと言うか……。子どもの頃、レモネードスタンドをやってて。それを思い出して」
レモネードスタンドは、アメリカではポピュラーなチャリティイベント。夏になるといつも、ボランティアをしていた教会の前で催されていた。
子どもたちがレモネードを作り販売するもので、売り上げ金は寄付するのだが、その先も子どもたちで毎年話し合って決めていた。
そしてその日は、町中の人が買いに来てくれるのだが、町外に住むルークは、そのためだけに買いに来てくれたのだ。
『This is so good!』
十二才の私は、初めて自分が作ったレモネードを飲んでそう言ってくれたルークに恋をしたのだ――。
「いいよ。これにしよう」
ふわりと笑う依澄さんの顔が、ルークと重なりドキリとする。
黒髪で黒い瞳の依澄さんと、ダークブロンドでアンバーの瞳だったルーク。同じ顔なのに、見た目は違う。
なのにどうしてだろう。今はとても似ている。そう思った。
自分は普段寄ることのない店で戸惑うな、依澄さんはどこか楽しそうだ。レストランで使うような鉄板プレートを見つけ、「これ、いいな」なんて言いながらカゴに入れている。
他に、デザートプレートやスーププレート、サラダボウルなど。それ以外にもナイフやフォークなどのカトラリーセットを、どんどんカゴに放り込んでいて、かなり重そうだ。
そして最後に、依澄さんはカップの並ぶコーナーに私を連れて行った。
「グラスは二つあるが、カップはないんだ。恵舞はティーカップがいい? マグカップがいい?」
うーん、と悩みながら眺める。棚には柄の美しいカップ&ソーサーや、普段使い出来そうなマグカップまで色々取り揃っている。
「私は……気軽に使えるマグカップですね」
「じゃあ好きなの選んで。恵舞専用にするから」
依澄さんはニッコリ笑って、カップを眺める私の顔を覗き込んだ。
「専用って、今日しか使わないかも知れないのに?」
「食事で釣って恵舞が家に来てくれるなら、いくらでも作るけど?」
まだ食べたわけじゃないが、絶対美味しいはず。それには心惹かれるが、二つ返事で行きます、なんて言えるはずはない。
「そうやって口説いても無駄です。とりあえず選びますけど、依澄さんが使ってください」
素知らぬ顔で返しながら、私は棚に並ぶ一つを指差した。
青をベースに、黄色いレモンが大きく描かれている柄。どこか地中海を思わせるテイストのマグカップだ。
「……レモン、好きなのか?」
「好きと言うか……。子どもの頃、レモネードスタンドをやってて。それを思い出して」
レモネードスタンドは、アメリカではポピュラーなチャリティイベント。夏になるといつも、ボランティアをしていた教会の前で催されていた。
子どもたちがレモネードを作り販売するもので、売り上げ金は寄付するのだが、その先も子どもたちで毎年話し合って決めていた。
そしてその日は、町中の人が買いに来てくれるのだが、町外に住むルークは、そのためだけに買いに来てくれたのだ。
『This is so good!』
十二才の私は、初めて自分が作ったレモネードを飲んでそう言ってくれたルークに恋をしたのだ――。
「いいよ。これにしよう」
ふわりと笑う依澄さんの顔が、ルークと重なりドキリとする。
黒髪で黒い瞳の依澄さんと、ダークブロンドでアンバーの瞳だったルーク。同じ顔なのに、見た目は違う。
なのにどうしてだろう。今はとても似ている。そう思った。
応援ありがとうございます!
13
お気に入りに追加
128
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる