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2.吹き荒れるは、春疾風
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(羽瑠ちゃんに……話してみる?)
デーティング中だという話は全くしていない。話せば何かしらアドバイスをくれそうな気はするが、なんだか気恥ずかしい。
「恵舞さん。とにかく飲みに行きましょうよ。スランプを吹き飛ばせ~!」
紗里ちゃんは、わざとらしく腕を上に突き上げる。元気付けようとしてくれる可愛い後輩だ。
「わかった。せっかくだしね。ってことで、今日飲みに行ける人~!」
気の置けないチームのメンバーに軽い調子で尋ねると、向かいの二人と左隣から大きく手が上がる。三人とも行く気満々だ。けれど右隣から手は上がっていない。
「羽瑠ちゃんは?」
「ごめん。今日は先約があるのよ」
「そっか。残念……」
先約があるなら仕方ない。それに羽瑠ちゃんがいたとしても、みんなの前で悩みを打ち明けられるはずもない。
「じゃ、またの機会にね」
「また誘って、恵舞」
「では今日は四人で。私、お店予約しておきますね」
「紗里ちゃん、お願い」
「任せてください!」
会話は一段落し、皆はまた仕事に戻る。私もさっきの書類をパソコンに入力し始めた。この調子なら手持ちの仕事は予定通り今日中に終わりそうだ。
集中していると、意外に時間は早く過ぎていた。入社式は終わったのか、秘書室の社員が数人部屋に戻っている。
彼女たちのデスクは、隅っこに追いやられている私たちとは違い、窓際の景色の良い場所に並んでいる。いつもは会話が聞こえてくることはないが、喋りながらこちら側にあるドリンクサーバーに向かっているのか、段々とその会話が耳に届き始めた。
「ねえねえ、見た? 新部長!」
「見た見た! スタイル抜群のイケメンでしょ?」
「あの若さでハワードでも部長だったんでしょ? 将来有望すぎじゃない?」
テンションを上げ燥ぐ彼女たちの会話に、私はピクリと肩を揺らす。間違いなく、依澄さんのことを話している。ずっと噂になっていたのだから、皆が注目するのは当然だ。
(どんな顔して会えばいいのよ……)
今までは外でしか会うことはなかったが、これからは社内でも顔を合わせることになる。知らないふりをするよう最初に釘を刺してあるが、自分の方が顔に出してしまいそうだ。
今はとにかく気まずい。そう思うとまた溜め息が漏れた。
いつのまにか、秘書室に所属する十人ほどの社員はほぼ入社式から戻ったようだ。室内はザワザワしている。それがピタリと静まり、何事かと顔を上げると、扉から人事部長が入って来るのが見えた。噂の新部長と共に。
デーティング中だという話は全くしていない。話せば何かしらアドバイスをくれそうな気はするが、なんだか気恥ずかしい。
「恵舞さん。とにかく飲みに行きましょうよ。スランプを吹き飛ばせ~!」
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「わかった。せっかくだしね。ってことで、今日飲みに行ける人~!」
気の置けないチームのメンバーに軽い調子で尋ねると、向かいの二人と左隣から大きく手が上がる。三人とも行く気満々だ。けれど右隣から手は上がっていない。
「羽瑠ちゃんは?」
「ごめん。今日は先約があるのよ」
「そっか。残念……」
先約があるなら仕方ない。それに羽瑠ちゃんがいたとしても、みんなの前で悩みを打ち明けられるはずもない。
「じゃ、またの機会にね」
「また誘って、恵舞」
「では今日は四人で。私、お店予約しておきますね」
「紗里ちゃん、お願い」
「任せてください!」
会話は一段落し、皆はまた仕事に戻る。私もさっきの書類をパソコンに入力し始めた。この調子なら手持ちの仕事は予定通り今日中に終わりそうだ。
集中していると、意外に時間は早く過ぎていた。入社式は終わったのか、秘書室の社員が数人部屋に戻っている。
彼女たちのデスクは、隅っこに追いやられている私たちとは違い、窓際の景色の良い場所に並んでいる。いつもは会話が聞こえてくることはないが、喋りながらこちら側にあるドリンクサーバーに向かっているのか、段々とその会話が耳に届き始めた。
「ねえねえ、見た? 新部長!」
「見た見た! スタイル抜群のイケメンでしょ?」
「あの若さでハワードでも部長だったんでしょ? 将来有望すぎじゃない?」
テンションを上げ燥ぐ彼女たちの会話に、私はピクリと肩を揺らす。間違いなく、依澄さんのことを話している。ずっと噂になっていたのだから、皆が注目するのは当然だ。
(どんな顔して会えばいいのよ……)
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今はとにかく気まずい。そう思うとまた溜め息が漏れた。
いつのまにか、秘書室に所属する十人ほどの社員はほぼ入社式から戻ったようだ。室内はザワザワしている。それがピタリと静まり、何事かと顔を上げると、扉から人事部長が入って来るのが見えた。噂の新部長と共に。
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