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1.始まりの春
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「ゲームって……。いったい……」
唖然としたまま口にすると、彼はまるで最初から決まっていたように話し出した。
「簡単だ。お互いのことを知るためのゲーム。それぞれの好みを当て合う。それだけ」
薄らと笑顔を浮かべてそう言うと、彼はそのゲームの概要を説明しだした。
ゲームは一日に一人一回まで、面前でのみ有効。当たれば1ポイントで、先に10ポイント取ったほうが勝ち。人生を賭けた真剣勝負なのだから、答えを偽るのはなし。偽ったことが判明したら、ゲームオーバーで負けが決定。それから、ゲームを楽しむため、その都度、敗者は勝者に賞品を送ること。
――などを、彼は淡々と話した。
「賞品って……?」
「高額なものはNG。そうだな、上限は50ドルにしよう。基本、お金のかからないことで。……どうする?」
テーブルに頬杖をつき、彼はニヤリと笑みを浮かべる。
(どう……しよう……)
このゲームに乗っていいものか悩む。祖父に仕組まれいるのでは? と疑心暗鬼にもなるが、諦めるという言葉は嘘ではない気もする。
「……わかり……ました。約束ですよ? 私が勝ったら、そこで終わりにしてくれるんですよね」
「神に誓って」
彼は即答し表情を緩める。そしておもむろにテーブルに置いてあった、コース料理のメニューカードを手に取った。
「じゃあ、ゲームを始めようか」
「いきなりですか?」
「気が乗らないなら後日にするけど? ただしそのぶん、決着が着くまでに時間が掛かることになるが?」
悠然とした口調で言う彼に、素直に従うのもなんだか癪に障る。けれど彼の言う通りで、先延ばしにすればするほど、勝敗が決まるまでに時間が経っていくだろう。
「わかりました! で、どうすればいいんですか?」
腹を括って尋ねると、彼はフッと小さく息を漏らして言った。
「恵舞。ペンを持っていないか?」
「ペン……? 持ってます。少し待ってください」
いつもバッグに入れているボールペンがある。それを取り出すと、彼に差し出した。
お気に入りのメーカーの、二色のボールペンにシャープペンが一体になっているもの。それを受け取り確認すると、彼はまた私にそれを戻した。
「ちょうどいい。今から、このメニューカードに、恵舞が一番美味しいと思ったものを赤で、俺が美味しいと思っただろうものを黒で。それぞれ丸で印を付けてくれ」
カードを手で挟み、掲げるように彼は言う。最初からこのクエスチョンを考えていたなら、自分は不利だ。彼の食べている様子など、全く観察していないのだから。
「もしかして、はなから問題考えてました? それなら私が不利では?」
不服そうに顔を顰めて訴えると、彼は間髪入れずに「いや?」と答える。
「今思いついた。自分が何が一番美味いと思ったか、これから考えるところだし。恵舞だってそうだろ?」
言われてみればその通りで、どれも美味しくて、これが一番だと口にも顔にも出していない。
「確かに……」
その返事を聞くと、彼は立ち上がり、自分の前に置かれているドルチェの皿を持ち上げた。数種類から選べるもので、彼はティラミスと焼き菓子を選んでいた。
「少し席を外すから。ゆっくり考えておいて。答え合わせは場所を変えてしよう。そのとき賞品も聞く」
間近まで来ると、私の選んだドルチェの横に置きながら言う。
「まだ食べられるよな? これもよろしく」
平然とそう言うと、彼は踵を返して部屋を出て行った。
「……ハンデってわけ?」
食べないということは、選択肢からこれは外れるということだ。それに、私が今から食べるものを選ぶかも知れないのに、それを見ようともしないのだ。
「ぜっったい、当てるんだから!」
急に燃えてくる。溶けかけのジェラートを口に運びながら、メニューを眺めた。
コースは、前菜に始まり、パスタ、魚、肉、最後にドルチェ。自分でもどれか一つ選ぶのは難しい。
ドルチェのジェラートとパンナコッタを平らげると、ペンを握る。まずは赤色でメニューの一つを囲んだ。
問題はここからだ。彼の答えが何なのか、どう考えても出てこない。
(全部、美味しそうに食べてたんだよなぁ……)
思い返しても、苦手そうなものは浮かばない。かと言って、特別美味しそうな表情をしていたものもない。
二つ目のドルチェの皿をつつきながら、うんうん唸ってしまう。最終的に肉か魚かで散々悩んで一つを黒で囲んだ。
「どうか、当たりますように!」
目の前に置いたカードに向かい、拝むように手を合わせてからそれをバッグにしまった。
それを見計らっていたように、彼は戻ってくると席に着く。そして置いてあったペンを手にすると、あっさりと印を付けていた。
「考えなくてよかったんですか?」
ペンを返す彼に尋ねると、彼は飄々とした表情を見せる。
「こういうのは勘に頼ったほうが当たりそうだ。まだ時間は大丈夫だろ? ドライブでもしよう」
まだ八時過ぎで、親が心配すると言い訳するような時間ではない。それにこれから、答え合わせもあるのだ。
「わかりました」
渋々とそう返事をしていた。
唖然としたまま口にすると、彼はまるで最初から決まっていたように話し出した。
「簡単だ。お互いのことを知るためのゲーム。それぞれの好みを当て合う。それだけ」
薄らと笑顔を浮かべてそう言うと、彼はそのゲームの概要を説明しだした。
ゲームは一日に一人一回まで、面前でのみ有効。当たれば1ポイントで、先に10ポイント取ったほうが勝ち。人生を賭けた真剣勝負なのだから、答えを偽るのはなし。偽ったことが判明したら、ゲームオーバーで負けが決定。それから、ゲームを楽しむため、その都度、敗者は勝者に賞品を送ること。
――などを、彼は淡々と話した。
「賞品って……?」
「高額なものはNG。そうだな、上限は50ドルにしよう。基本、お金のかからないことで。……どうする?」
テーブルに頬杖をつき、彼はニヤリと笑みを浮かべる。
(どう……しよう……)
このゲームに乗っていいものか悩む。祖父に仕組まれいるのでは? と疑心暗鬼にもなるが、諦めるという言葉は嘘ではない気もする。
「……わかり……ました。約束ですよ? 私が勝ったら、そこで終わりにしてくれるんですよね」
「神に誓って」
彼は即答し表情を緩める。そしておもむろにテーブルに置いてあった、コース料理のメニューカードを手に取った。
「じゃあ、ゲームを始めようか」
「いきなりですか?」
「気が乗らないなら後日にするけど? ただしそのぶん、決着が着くまでに時間が掛かることになるが?」
悠然とした口調で言う彼に、素直に従うのもなんだか癪に障る。けれど彼の言う通りで、先延ばしにすればするほど、勝敗が決まるまでに時間が経っていくだろう。
「わかりました! で、どうすればいいんですか?」
腹を括って尋ねると、彼はフッと小さく息を漏らして言った。
「恵舞。ペンを持っていないか?」
「ペン……? 持ってます。少し待ってください」
いつもバッグに入れているボールペンがある。それを取り出すと、彼に差し出した。
お気に入りのメーカーの、二色のボールペンにシャープペンが一体になっているもの。それを受け取り確認すると、彼はまた私にそれを戻した。
「ちょうどいい。今から、このメニューカードに、恵舞が一番美味しいと思ったものを赤で、俺が美味しいと思っただろうものを黒で。それぞれ丸で印を付けてくれ」
カードを手で挟み、掲げるように彼は言う。最初からこのクエスチョンを考えていたなら、自分は不利だ。彼の食べている様子など、全く観察していないのだから。
「もしかして、はなから問題考えてました? それなら私が不利では?」
不服そうに顔を顰めて訴えると、彼は間髪入れずに「いや?」と答える。
「今思いついた。自分が何が一番美味いと思ったか、これから考えるところだし。恵舞だってそうだろ?」
言われてみればその通りで、どれも美味しくて、これが一番だと口にも顔にも出していない。
「確かに……」
その返事を聞くと、彼は立ち上がり、自分の前に置かれているドルチェの皿を持ち上げた。数種類から選べるもので、彼はティラミスと焼き菓子を選んでいた。
「少し席を外すから。ゆっくり考えておいて。答え合わせは場所を変えてしよう。そのとき賞品も聞く」
間近まで来ると、私の選んだドルチェの横に置きながら言う。
「まだ食べられるよな? これもよろしく」
平然とそう言うと、彼は踵を返して部屋を出て行った。
「……ハンデってわけ?」
食べないということは、選択肢からこれは外れるということだ。それに、私が今から食べるものを選ぶかも知れないのに、それを見ようともしないのだ。
「ぜっったい、当てるんだから!」
急に燃えてくる。溶けかけのジェラートを口に運びながら、メニューを眺めた。
コースは、前菜に始まり、パスタ、魚、肉、最後にドルチェ。自分でもどれか一つ選ぶのは難しい。
ドルチェのジェラートとパンナコッタを平らげると、ペンを握る。まずは赤色でメニューの一つを囲んだ。
問題はここからだ。彼の答えが何なのか、どう考えても出てこない。
(全部、美味しそうに食べてたんだよなぁ……)
思い返しても、苦手そうなものは浮かばない。かと言って、特別美味しそうな表情をしていたものもない。
二つ目のドルチェの皿をつつきながら、うんうん唸ってしまう。最終的に肉か魚かで散々悩んで一つを黒で囲んだ。
「どうか、当たりますように!」
目の前に置いたカードに向かい、拝むように手を合わせてからそれをバッグにしまった。
それを見計らっていたように、彼は戻ってくると席に着く。そして置いてあったペンを手にすると、あっさりと印を付けていた。
「考えなくてよかったんですか?」
ペンを返す彼に尋ねると、彼は飄々とした表情を見せる。
「こういうのは勘に頼ったほうが当たりそうだ。まだ時間は大丈夫だろ? ドライブでもしよう」
まだ八時過ぎで、親が心配すると言い訳するような時間ではない。それにこれから、答え合わせもあるのだ。
「わかりました」
渋々とそう返事をしていた。
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