恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

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 大安吉日、10月の土曜日午前。
 見上げれば、真っ青な秋空に、絵に描いたような雲が浮かんでいるのが見える。

 式場の庭にあるチャペル。そこにはもう先にゲストが向かい、次は俺の番だった。

いよいよ、だな……

 式場に来て、先に2人で親族に挨拶を済ませたあと、着替えに向かってから澪には一度も会っていない。
 ドレス姿を見に行く! と控室に飛んで行った与織子からは、『もう、すっごく綺麗だった! マーメイドドレスがあんなに似合う人、他にいないよ!』と興奮気味に聞かされた。

『泣かないでね!』

 と言い残した先に行った与織子を、お前の時のほうが泣きそうだ、なんて思いながら見送る。正直今は、ちゃんと式をやり遂げなきゃならねぇと思うと緊張のほうが大きい。
 それは澪も同じだったようだ。
 俺の待つチャペルの扉が開き、枚田社長、いや義父ちちと歩く澪の顔は、それはそれは緊張していた。久しぶりに、試合中みたいな顔で俺の横に立っていたから。

「すっげえ綺麗だ」

 澪にようやく言えたのは、式も滞りなく終わり、先にゲストがチャペルを出て行くのを眺めていたころ。
 与織子の言っていたマーメイドの意味は、澪が歩いてくる姿を見て理解した。人魚のヒレのように裾が広がったドレス。背の高い澪によく似合ってる。だが、肩どころか背中までかなりあいている。よく創一がこれを許したなと思ってしまうくらいだ。

「ありがと。転ばないか気が気じゃなくて」

 俺が上げたベールを揺らして、澪はホッとしたように笑った。

「だからずっと神妙な顔してたのか?」
「一矢だって! 見たことないくらい真面目な顔してたじゃない」

 クスクス笑う澪は俺の腕に掴まり、ゆっくりと隣を出口に向かって歩いていた。

「ま、もう終わったし。あとはなんとかなるだろ」

 式さえ終わればあとは披露宴。座ってりゃなんとかなる。肩の荷が下りた気分で言うと、澪は指にグッと力を入れた。

「私にはもう一仕事残ってるもの」

 また緊張した面持ちで澪は前を向く。画面越しで見ていた、美しい横顔だ。

「いったい、何と戦うんだよ」
「そうね。世界で活躍するエースストライカーかな?」

 澪はそんなことを言った。
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