恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

文字の大きさ
上 下
73 / 76
12

10

しおりを挟む
 そして暑い夏は過ぎ、涼しくなるにつれ、空は高くなっていった。

「あっ、いっちゃん! 来た来た!」

 扉を開け部屋に入ると、俺に気づいた与織子が真っ先に駆け寄って来た。ゲスト用の淡いピンク色のドレスを着た妹は今日も可愛い。そんな妹は俺の腕を取ると親族のいる部屋の真ん中に引っ張って行った。

「いっちゃん、衣装似合ってる! 王子様みたい!」
「そりゃどうも。なんか恥ずかしいけどな」

 たぶん、二度とこんな格好はしないだろう。全身白のタキシードを着ることなど。もちろん自分で決めたわけでは無い。花嫁の引き立て役は、大人しくその主役に言われるがまま、用意された衣装を着ただけだ。

「お。兄貴。似合ってるじゃん。NO.1ホストって感じ」

 失礼極まりないことを言って出迎えたのは颯太。

「じゃあお前はNO.2の座に甘んじてるホストだな」

 フォーマルスーツを着崩しているせいで、俺よりよっぽどそう見える。

「いち兄、おめでとう! あ、ここ歪んでる。直すね」

 実樹は洒落たスーツ姿で俺の首元を手直ししている。

「サンキュー。さすが実樹だな。どっかの二番目とは違う。これからは弟たちの面倒頼むな」
「ちょっ……兄貴、それどう言う……」
「もちろんだよ。ふう兄の面倒も含めて任された!」

 顔を顰める颯太とニッコリ笑う実樹の相手をしていると、制服姿の弟たちが寄って来た。

「兄ちゃん、すっげー格好いい! 写真撮っていい? 友達に自慢する」

 スマホ片手にはしゃぐのは、末の双子の兄、逸希いつき。そしてその姿を見て溜め息を吐いたのは、弟の理久りく

「兄さん。本日はおめでとうございます。末永くお幸せに」

 タイプ的には逸希は完全に颯太、理久は俺から真面目な部分だけ取り出したみたいな性格だ。

「ありがとな。お前たちとこっちで一緒に暮らせないのは残念だけど、ま、家も近いしいつでも来たらいい」

 今高3の2人は、俺と与織子に入れ替わり、来春颯太たちと同居予定だ。そして俺は澪の家に住み、与織子は、もちろん創一の家。結局全員近所同士になりそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。 ※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。 書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。 ――――――――――――――――――― ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。 傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。 ―――なのに! その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!? 恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆ 「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」 *・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・* ▶Attention ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜

Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。 結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。 ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。 気がついた時にはかけがえのない人になっていて―― 表紙絵/灰田様 《エブリスタとムーンにも投稿しています》

野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

契約結婚のはずが、幼馴染の御曹司は溺愛婚をお望みです

紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
旧題:幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。 夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。 ★第17回恋愛小説大賞(2024年)にて、奨励賞を受賞いたしました!★ ☆改題&加筆修正ののち、単行本として刊行されることになりました!☆ ※作品のレンタル開始に伴い、旧題で掲載していた本文は2025年2月13日に非公開となりました。  お楽しみくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませ。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。

青花美来
恋愛
【幼馴染×シークレットベビー】 東京に戻ってきた私には、小さな宝物ができていた。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...