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その後、順調に……とはいかなかったけど、慣れない料理以外の仕事に悪戦苦闘しながらも1か月が過ぎ、2か月目も過ぎようとしていた。
私はとある家の前に着くと、インターフォンを鳴らした。
「はーいっ!」
勢いよく玄関が開くと、中から元気の良い声とともに変わらない笑顔が現れた。
「久しぶり。萌」
「澪さーん! いらっしゃーい!」
抱きつかんばかりにそう言うと、萌は私を中に促した。
「って、戸田さん?」
通されたリビングのソファには、寛いだ様子の戸田トレーナーが座って手を振っていた。
「澪、いらっしゃい」
「いらっしゃいって……。えっ?」
まさか……この2人が?
驚いたまま突っ立っていると、お茶を入れた萌がトレーを持ってやってきた。
「今日は紹介者として一緒に話を聞いてくれるって」
「そうそう。萌が変な契約を結ばないように紹介者として責任あるしね?」
「……変なって。面白がってるだけでしょう?」
溜め息を吐きながら私はローテーブルの前に座る。ソファはそんなに大きくなく、さすがに戸田さんの横に座るわけにはいかない。
「にしても澪さん、聞きましたよぉ! 金さえ積めば澪さんの美味しいご飯が食べ放題って!」
私の斜め横に座り、萌はニコニコしながら明るい声を出す。
「食べ放題ではないから……」
呆れながら私は萌に返す。いったい戸田さんから何を聞いたのやら。
私の始めた料理代行サービス。
身内と言っていいような相手にだけ行っていたそれも、次のステップに移った。
そして一矢が連れてきた最初の顧客は、戸田さんのご実家だった。そこから口コミ、と言っていいのかわからないけど、是非うちも、と熱望したのが萌だったのだ。
萌の入れてくれたお茶で喉を潤すと、さっそくバッグから資料を取り出した。
このサービスの仕組みから価格表や注意事項などを纏めたものだ。勝手知ったる萌が相手でもそこは仕事。あとで齟齬が生じないよう、ちゃんと説明をしておかなければならない。
「ここまでで何かわからないことはある?」
一通り説明し終わると萌に尋ねる。萌は「うーん」と口元に指を当てて考えていた。
「澪さんが作りに来てくれてるとき、一緒に料理教えてもらうのってありですか?」
「えっ? 教えるの?」
「だって、一生澪さんにご飯作ってもらうわけにいかないでしょ? なら自分でもできるようになりたいなぁって」
萌の言い分もわかる。萌は今まで実家暮らしで、最近一人暮らしを始めた。慣れない料理に悪戦苦闘した結果、渡に船とばかりに私に頼んできたのだから。
「それはいいけど……、別料金よ?」
一矢には、口を酸っぱくして言われたのは『商売はボランティアじゃねぇからな。ちゃんと線引きしろよ』ってことだった。だから私も、創にも一矢にも、妥協せずに料理を提供して、ダメな部分は指摘してもらっていた。
「さすが澪さん。厳しいなぁ。わかりました。料理教室込みで見積もりお願いします!」
真面目な表情でペコリと頭を下げたあと、萌は顔を上げると戸田さんを見た。
「で、いいですよね? 戸田さん!」
「……よくできました」
子どもを誉めるようにニッコリ笑う戸田さんに、戸田さん……この場に必要だった? と私は不思議に思った。けれど、そのあと戸田さんがいた理由を見に染みて痛感した。
「じゃあ、僕は、そのメニューについての要望なんだけど……」
戸田さんが今度は私を見てニッコリと笑った。
私はとある家の前に着くと、インターフォンを鳴らした。
「はーいっ!」
勢いよく玄関が開くと、中から元気の良い声とともに変わらない笑顔が現れた。
「久しぶり。萌」
「澪さーん! いらっしゃーい!」
抱きつかんばかりにそう言うと、萌は私を中に促した。
「って、戸田さん?」
通されたリビングのソファには、寛いだ様子の戸田トレーナーが座って手を振っていた。
「澪、いらっしゃい」
「いらっしゃいって……。えっ?」
まさか……この2人が?
驚いたまま突っ立っていると、お茶を入れた萌がトレーを持ってやってきた。
「今日は紹介者として一緒に話を聞いてくれるって」
「そうそう。萌が変な契約を結ばないように紹介者として責任あるしね?」
「……変なって。面白がってるだけでしょう?」
溜め息を吐きながら私はローテーブルの前に座る。ソファはそんなに大きくなく、さすがに戸田さんの横に座るわけにはいかない。
「にしても澪さん、聞きましたよぉ! 金さえ積めば澪さんの美味しいご飯が食べ放題って!」
私の斜め横に座り、萌はニコニコしながら明るい声を出す。
「食べ放題ではないから……」
呆れながら私は萌に返す。いったい戸田さんから何を聞いたのやら。
私の始めた料理代行サービス。
身内と言っていいような相手にだけ行っていたそれも、次のステップに移った。
そして一矢が連れてきた最初の顧客は、戸田さんのご実家だった。そこから口コミ、と言っていいのかわからないけど、是非うちも、と熱望したのが萌だったのだ。
萌の入れてくれたお茶で喉を潤すと、さっそくバッグから資料を取り出した。
このサービスの仕組みから価格表や注意事項などを纏めたものだ。勝手知ったる萌が相手でもそこは仕事。あとで齟齬が生じないよう、ちゃんと説明をしておかなければならない。
「ここまでで何かわからないことはある?」
一通り説明し終わると萌に尋ねる。萌は「うーん」と口元に指を当てて考えていた。
「澪さんが作りに来てくれてるとき、一緒に料理教えてもらうのってありですか?」
「えっ? 教えるの?」
「だって、一生澪さんにご飯作ってもらうわけにいかないでしょ? なら自分でもできるようになりたいなぁって」
萌の言い分もわかる。萌は今まで実家暮らしで、最近一人暮らしを始めた。慣れない料理に悪戦苦闘した結果、渡に船とばかりに私に頼んできたのだから。
「それはいいけど……、別料金よ?」
一矢には、口を酸っぱくして言われたのは『商売はボランティアじゃねぇからな。ちゃんと線引きしろよ』ってことだった。だから私も、創にも一矢にも、妥協せずに料理を提供して、ダメな部分は指摘してもらっていた。
「さすが澪さん。厳しいなぁ。わかりました。料理教室込みで見積もりお願いします!」
真面目な表情でペコリと頭を下げたあと、萌は顔を上げると戸田さんを見た。
「で、いいですよね? 戸田さん!」
「……よくできました」
子どもを誉めるようにニッコリ笑う戸田さんに、戸田さん……この場に必要だった? と私は不思議に思った。けれど、そのあと戸田さんがいた理由を見に染みて痛感した。
「じゃあ、僕は、そのメニューについての要望なんだけど……」
戸田さんが今度は私を見てニッコリと笑った。
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