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 約2週間ぶりに顔を出したソレイユのクラブハウス。チームは昨日まで休みで、火曜日の今日から練習を再開していた。

 仕事が忙しいだけじゃない溜め息を吐きながら廊下を歩いていると、真っ先に俺を見つけたのは、よりにもよってこの人だ。

「朝木君、久しぶりだね」

 相変わらず胡散臭い笑顔を浮かべた戸田さんは俺に近づきそう言った。

「そうですね。萌がどこにいるか知ってますか? 色々スケジュール調整いるんですけど」

 未だににこの人のことは苦手で、他の人にはでる対人スキルも発揮されない。俺は、社会人としてどうなのかと思うくらい不貞腐れた態度で尋ねた。

「まだトレーニングルームかな。それより朝木君。少し話しをしたいんだけど、時間とってもらえないかな?」

 爽やかに話す戸田さんに顔を顰めながら、「いいですよ、今でも」と答えた。

「ん~……。やっぱりじっくり話ししたいから、飲みにでも行かないかい?」
「なんで戸田さんと2人で飲みに行かなきゃいけないんです?」

 いっそう不機嫌になり尋ねると、戸田さんは全く堪えることなく笑みを浮かべた。

「じゃあ。彼女、連れてきてもいいから」
「は? 彼女なんて……」

 いませんよ、と言うのを遮るように「いないなんて言わさないよ?」とニッコリと笑われる。

「それに……。話したいのはその彼女のこと、だしね?」

 戸田さんから、場所も時間も任せると言われ、最大限譲歩した結果、待ち合わせは本社の最寄駅に夜8時となった。
 休み明けで仕事は山のように溜まっている。残業するつもりだったのだから、これでも早い時間のつもりだ。

「すみません。お待たせしました」

 待ち合わせスポットではあるが、さすがに時間が遅めなこともあり、戸田さんの姿はすぐ見つかった。

「急に悪かったね。店は適当でいい?」
「どこでも構いません」

 きっと小洒落た店に連れていかれると思っていたが、着いた場所はよくある居酒屋。ちょうど出て行く客と入れ替わるようにすんなりと席に案内された。

「じゃあ、乾杯」

 爽やかな笑顔でジョッキを持つ戸田さんの顔を見て、何に乾杯だよ……と思いながらジョッキを合わせる。

「戸田さんも、こんなところに来るんですね」

 目の前で、をツマミにビールを流し込む姿を見ながら俺は言う。

「意外かい? よく言われるけどね。僕はこんな騒がしい店のほうが好きなんだけどな」

 含みのある言いかたに、少し違和感を感じながら「そうなんですね」と返しビールを呷る。

「ところで澪は元気かい?」

 当たり前のように尋ねてくる戸田さんに、今更取り繕ってもしかたないと息を吐く。顔を顰めて「元気ですよ。おかげさまで」と皮肉混じりで答えた。

「って。連絡取り合ってるんじゃないんですか? そう聞いてますけど?」
「連絡は取ってるけど、しばらく会ってないし、どうしてるのかな、と思って」

 さも当たり前のように戸田さんから返ってきて、俺は疑問をぶつけてみる。

「澪はまだ誰にも話してないって言ってましたけど、戸田さん、何で知ってるんですか?」
「知りたい?」

 したり顔で俺に言う戸田さんに、多少イラッとしながら「勿体つけないでもらえますかね」と返した。

「澪がリハビリに通ってる病院に友人がいてね。まぁ、あの病院も僕が紹介したんだけど。で、前に澪が彼氏連れで来たって聞いたから」
「……個人情報漏洩も甚だしいですね。それに何で俺ってわかるんです?」

 渋い顔のままビールを呷ると、あっという間にジョッキは空だ。戸田さんはちょうど通りがかった店員に生ビールを2杯頼んでからこちらを向いた。

「友人に朝木君の特徴話したら、何だ知り合いか? って返ってきたからね? よかったね、朝木君」

 そう言うと戸田さんはニッコリと笑った。
 もし澪から片想いの相手がいると聞いてなければ相当イライラしたことだろう。とは言え、今もこの余裕のある態度に、それなりにイラッとしたままだが。

「で? その、についての話って、いったいなんなんですか?」

 とりあえず俺は、さっさと本題に入った。


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