39 / 76
8
2
しおりを挟む
約2週間ぶりに顔を出したソレイユのクラブハウス。チームは昨日まで休みで、火曜日の今日から練習を再開していた。
仕事が忙しいだけじゃない溜め息を吐きながら廊下を歩いていると、真っ先に俺を見つけたのは、よりにもよってこの人だ。
「朝木君、久しぶりだね」
相変わらず胡散臭い笑顔を浮かべた戸田さんは俺に近づきそう言った。
「そうですね。萌がどこにいるか知ってますか? 色々スケジュール調整いるんですけど」
未だににこの人のことは苦手で、他の人にはでる対人スキルも発揮されない。俺は、社会人としてどうなのかと思うくらい不貞腐れた態度で尋ねた。
「まだトレーニングルームかな。それより朝木君。少し話しをしたいんだけど、時間とってもらえないかな?」
爽やかに話す戸田さんに顔を顰めながら、「いいですよ、今でも」と答えた。
「ん~……。やっぱりじっくり話ししたいから、飲みにでも行かないかい?」
「なんで戸田さんと2人で飲みに行かなきゃいけないんです?」
いっそう不機嫌になり尋ねると、戸田さんは全く堪えることなく笑みを浮かべた。
「じゃあ。彼女、連れてきてもいいから」
「は? 彼女なんて……」
いませんよ、と言うのを遮るように「いないなんて言わさないよ?」とニッコリと笑われる。
「それに……。話したいのはその彼女のこと、だしね?」
戸田さんから、場所も時間も任せると言われ、最大限譲歩した結果、待ち合わせは本社の最寄駅に夜8時となった。
休み明けで仕事は山のように溜まっている。残業するつもりだったのだから、これでも早い時間のつもりだ。
「すみません。お待たせしました」
待ち合わせスポットではあるが、さすがに時間が遅めなこともあり、戸田さんの姿はすぐ見つかった。
「急に悪かったね。店は適当でいい?」
「どこでも構いません」
きっと小洒落た店に連れていかれると思っていたが、着いた場所はよくある居酒屋。ちょうど出て行く客と入れ替わるようにすんなりと席に案内された。
「じゃあ、乾杯」
爽やかな笑顔でジョッキを持つ戸田さんの顔を見て、何に乾杯だよ……と思いながらジョッキを合わせる。
「戸田さんも、こんなところに来るんですね」
目の前で、たこわさをツマミにビールを流し込む姿を見ながら俺は言う。
「意外かい? よく言われるけどね。僕はこんな騒がしい店のほうが好きなんだけどな」
含みのある言いかたに、少し違和感を感じながら「そうなんですね」と返しビールを呷る。
「ところで澪は元気かい?」
当たり前のように尋ねてくる戸田さんに、今更取り繕ってもしかたないと息を吐く。顔を顰めて「元気ですよ。おかげさまで」と皮肉混じりで答えた。
「って。連絡取り合ってるんじゃないんですか? そう聞いてますけど?」
「連絡は取ってるけど、しばらく会ってないし、どうしてるのかな、と思って」
さも当たり前のように戸田さんから返ってきて、俺は疑問をぶつけてみる。
「澪はまだ誰にも話してないって言ってましたけど、戸田さん、何で知ってるんですか?」
「知りたい?」
したり顔で俺に言う戸田さんに、多少イラッとしながら「勿体つけないでもらえますかね」と返した。
「澪がリハビリに通ってる病院に友人がいてね。まぁ、あの病院も僕が紹介したんだけど。で、前に澪が彼氏連れで来たって聞いたから」
「……個人情報漏洩も甚だしいですね。それに何で俺ってわかるんです?」
渋い顔のままビールを呷ると、あっという間にジョッキは空だ。戸田さんはちょうど通りがかった店員に生ビールを2杯頼んでからこちらを向いた。
「友人に朝木君の特徴話したら、何だ知り合いか? って返ってきたからね? よかったね、朝木君」
そう言うと戸田さんはニッコリと笑った。
もし澪から片想いの相手がいると聞いてなければ相当イライラしたことだろう。とは言え、今もこの余裕のある態度に、それなりにイラッとしたままだが。
「で? その、俺の彼女についての話って、いったいなんなんですか?」
とりあえず俺は、さっさと本題に入った。
仕事が忙しいだけじゃない溜め息を吐きながら廊下を歩いていると、真っ先に俺を見つけたのは、よりにもよってこの人だ。
「朝木君、久しぶりだね」
相変わらず胡散臭い笑顔を浮かべた戸田さんは俺に近づきそう言った。
「そうですね。萌がどこにいるか知ってますか? 色々スケジュール調整いるんですけど」
未だににこの人のことは苦手で、他の人にはでる対人スキルも発揮されない。俺は、社会人としてどうなのかと思うくらい不貞腐れた態度で尋ねた。
「まだトレーニングルームかな。それより朝木君。少し話しをしたいんだけど、時間とってもらえないかな?」
爽やかに話す戸田さんに顔を顰めながら、「いいですよ、今でも」と答えた。
「ん~……。やっぱりじっくり話ししたいから、飲みにでも行かないかい?」
「なんで戸田さんと2人で飲みに行かなきゃいけないんです?」
いっそう不機嫌になり尋ねると、戸田さんは全く堪えることなく笑みを浮かべた。
「じゃあ。彼女、連れてきてもいいから」
「は? 彼女なんて……」
いませんよ、と言うのを遮るように「いないなんて言わさないよ?」とニッコリと笑われる。
「それに……。話したいのはその彼女のこと、だしね?」
戸田さんから、場所も時間も任せると言われ、最大限譲歩した結果、待ち合わせは本社の最寄駅に夜8時となった。
休み明けで仕事は山のように溜まっている。残業するつもりだったのだから、これでも早い時間のつもりだ。
「すみません。お待たせしました」
待ち合わせスポットではあるが、さすがに時間が遅めなこともあり、戸田さんの姿はすぐ見つかった。
「急に悪かったね。店は適当でいい?」
「どこでも構いません」
きっと小洒落た店に連れていかれると思っていたが、着いた場所はよくある居酒屋。ちょうど出て行く客と入れ替わるようにすんなりと席に案内された。
「じゃあ、乾杯」
爽やかな笑顔でジョッキを持つ戸田さんの顔を見て、何に乾杯だよ……と思いながらジョッキを合わせる。
「戸田さんも、こんなところに来るんですね」
目の前で、たこわさをツマミにビールを流し込む姿を見ながら俺は言う。
「意外かい? よく言われるけどね。僕はこんな騒がしい店のほうが好きなんだけどな」
含みのある言いかたに、少し違和感を感じながら「そうなんですね」と返しビールを呷る。
「ところで澪は元気かい?」
当たり前のように尋ねてくる戸田さんに、今更取り繕ってもしかたないと息を吐く。顔を顰めて「元気ですよ。おかげさまで」と皮肉混じりで答えた。
「って。連絡取り合ってるんじゃないんですか? そう聞いてますけど?」
「連絡は取ってるけど、しばらく会ってないし、どうしてるのかな、と思って」
さも当たり前のように戸田さんから返ってきて、俺は疑問をぶつけてみる。
「澪はまだ誰にも話してないって言ってましたけど、戸田さん、何で知ってるんですか?」
「知りたい?」
したり顔で俺に言う戸田さんに、多少イラッとしながら「勿体つけないでもらえますかね」と返した。
「澪がリハビリに通ってる病院に友人がいてね。まぁ、あの病院も僕が紹介したんだけど。で、前に澪が彼氏連れで来たって聞いたから」
「……個人情報漏洩も甚だしいですね。それに何で俺ってわかるんです?」
渋い顔のままビールを呷ると、あっという間にジョッキは空だ。戸田さんはちょうど通りがかった店員に生ビールを2杯頼んでからこちらを向いた。
「友人に朝木君の特徴話したら、何だ知り合いか? って返ってきたからね? よかったね、朝木君」
そう言うと戸田さんはニッコリと笑った。
もし澪から片想いの相手がいると聞いてなければ相当イライラしたことだろう。とは言え、今もこの余裕のある態度に、それなりにイラッとしたままだが。
「で? その、俺の彼女についての話って、いったいなんなんですか?」
とりあえず俺は、さっさと本題に入った。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる