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 もしかしなくても、もしかする……?

 何をされていたのか気づき、私が顔を熱くしていることに気づいたのか、一矢はフッと口から息を漏らす。

「お前があんまり可愛い顔で寝てるのが悪い」
「だからって、寝込みを襲う?」
「襲ってねぇ。いちおう、犬くらいにはができるつもりだ」

 一矢は少し眉を顰めそう言うと、頭を下ろそうとした。

「そのっ……」

 一矢はまた頭を上げ私の顔を不思議そうに覗き込むと、「なんだ?」と尋ねる。

「うちで昔飼ってた犬……。待てはあんまり得意じゃなかったの……」

 その意味をわかってくれるだろうか? 遠回しに言い過ぎた?

 なんだかフリーズしてしまった一矢を前にグルグル考える。
 
 未知の世界を知るのは怖い。でも、知りたい。それを一矢に教えて欲しい。何も持っていない私を、無条件に受け入れてくれるこの人に。

「本当に……。いいのか?」

 戸惑ったように尋ねる一矢に、私は小さく頷く。

「うん……。きて……」

 小さく小さく唇を震わせると、一矢は俯いて大きく息を吐き出した。そして、一呼吸置いて顔を上げるとその顔はさっきまでとは違う、熱を帯びたものだった。

「もう待てって言われても止まらねぇからな?」

 そう言うが早いか、そのあとすぐに私の唇は塞がれていた。

 熱い……。何もかも、全部……

 お互いが触れ合うたび、そこから熱が生まれていく。それはじんわりと体中に広がり、熱を発したときに起こるふわふわとした感覚が意識を混濁させていくようだ。

「凄ぇ、可愛い……」

 そう言いながら何度も唇を合わせて、もっと深く入り込みたいと舌を絡めてくる。

「ぁ、んっ……」

 一度唇が離れても、息を吸っている間にまた塞がれる。舐められ、吸われ、喰まれて、こんな荒々しいキスは今までされなかった。一矢の教えてくれた大人のキスは、まだほんの入り口だったのだと思い知った。

「……苦、し……」

 全力疾走したあとのように浅い息をしながら、無意識に口に出す。一矢はそれを聞き逃さず、顔を上げて私を見た。

「大丈夫か?」

 ぶつかった視線には熱がこもり、まだまだ欲しいと無言のアピールをしている。それを見るだけで、心臓の鼓動はスピードを増すいっぽうだ。

「……大丈夫。息する暇、なかっただけ」

 私が笑みを浮かべると、一矢は「そうか」と安心したような表情を見せてから私の首へ顔を寄せた。
 
 わざとらしいリップ音を立てて、左耳の裏側あたりから、鎖骨に向かって移動する唇。右肩には指がツウッと伝ったかと思うと、浴衣の衿を広げていった。

「あ……んまり、見ない……で?」
「何を?」
「下着……」

 それを聞いて、一矢はフフッと笑いながら鎖骨の下に口付けた。

 広げられた胸元からは、全く可愛くないナイトブラが見えているだろう。今まで機能性しか重視してこなくて、見せることなど意識しなかった。かと言って、あまり意識した下着を買い直すのも、と悶々としてしまい、結局いつもの飾り気のないものになってしまった。

「気にすんな。……中身にしか興味ねぇから」

 私の肌に唇を這わせ笑いながら一矢は言う。その吐息がくすぐったくて身動ぎする私の胸元に、一矢は唇を押し付けた。チリっと肌に刺激が走り、それが治まると一矢は顔を上げ満足そうに笑みを浮かべた。

「ここなら、俺以外見えねぇよな?」

 自分でも覗き込まないと見えづらい場所。そこにはほんのりと紅い印が刻まれている。

「な、に……付けて……」

 私がモゾモゾ動きながら抗議するように言うと、一矢は体を起こした。

「思ったよりちゃんと付くんだな」

 嬉しいそうにそこを指でなぞると、そのまま肩紐に手を滑らせる。

「なあ、これ。どうやって脱がせたらいい?」

 期待に満ち溢れた顔で尋ねられ、私は不意に、散歩前にリードを持ってきたときのエースの顔を思い出した。

「え……? 上からしか……無理かも」

 真面目に答えると、一矢は苦笑いをしたように見えた。

「ん~……じゃ、しかたねぇ」

 そう言って、一矢は布団の上にあぐらをかいて座り込むと、私を抱き起こしその中に座らせた。
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