22 / 76
4
4
しおりを挟む
また酒に手を伸ばした俺を見かねたのか、創一は取り皿に料理を適当に乗せると俺に差し出した。
「次はこれを食ってからにしろ」
渋々その皿を受け取ると、自分の前にそれを置く。その上には、小海老のフリッター、ローストビーフ、ピクルスの盛り合わせ、ラタトゥイユ、具入りの卵焼きなどが、ところ狭しと乗せられていた。
創一は、俺が食べるのを見守るように、じっとこちらを見ていた。
しかたねぇ……。さすがに飲んでばかりなのも体には良くねぇか……
諦めて箸を持つと、なんとなく卵焼きを口に放り込む。
「…………。美味……い」
「なら……よかった」
無意識に俺は口にしていた。ハッとして顔を上げると、創一は少し口角を上げたような気がした。
また残りの卵焼きを口に運び、俺は視線を下に向けると続けた。
「それに……。なんか懐かしい気がする」
どこがどう、と言われると説明はできないが、なんとなく感じたことを口に出すと、創一は訝しげに「懐かしい?」と言っている。
「いや、なんでもねぇ。最近まともなもん食った記憶ねぇしな。すげえ美味い」
久しぶりに感じる空腹感が、さっきの一口が引き金になったように一気に押し寄せてくる。俺はしばらく酒を飲むのも忘れ、食べることに熱中していた。
取り留めもない話をしながら、腹を満たす。いつのまにか創一がワインを開け、それも2本目となっていた。創一は酔った様子もなくいつものように淡々とした表情で俺の話に相槌を打っている。昔からそうだ。俺ばかりが喋って、創一はいつも聞く側だった。
「俺さ、お前に話してないことがあってさ……」
だんだんとふわふわしてきた頭で、そう切り出す。
「話してないこと?」
未だに姿勢を崩すことなく、まっすぐこちらを見て、創一は不思議そうな顔をした。
「あぁ。……俺、今……っつうか、去年の4月から、ソレイユの担当してんだよ」
「ソレイユの?」
「そ。だから、お前の従姉妹とも顔見知り。まぁ、あいつはキャプテンだったし、それなりに接点はあった」
「なんで言わなかった?」
今更すぎて決まりは悪い。なんとなく創一を見れず視線を外し俺は答える。
「お前の友人だって知ったら気を使うかもなって思ったから。だからあいつにも言わなかった」
「そう、か」
創一はそれだけ言うと、持っていたグラスをコトリと置いた。
「あいつは元気にしてるか? 連絡もとってねぇし、それだけが気がかりでな」
そう言うと俺は、気を紛らわせるように残っていたワインを一気に呷った。
「あぁ。元気だ。今はもう普通に歩き回ってる」
「そっか。……よかったな」
俺はホッと肩で息を吐く。
澪の話は、萌ともしない。最初こそ不安そうにしていた萌も、この頃はキャプテンとして自覚も出てきたのか顔つきも変わってきた。そんな萌は、俺と話すときは澪の話題をあえて避けているような気がした。
「全く連絡も取ってねぇし、チームのやつにも話聞かねぇから、ちょっと心配してた。元気なら……それでいい」
創一は何も答えず、しばらく沈黙が訪れる。それを破るように、どこからか携帯の着信音が聞こえてきた。
「悪い、電話だ」
創一は立ち上がると、背後にあるキッチンカウンターに手を伸ばした。
「遠慮なく出ろよ?」
画面の表示を見て一瞬躊躇したように見えた創一に、俺はそう言った。
「あぁ」
それだけ言うと創一はその場で電話を取った。
「……俺だ」
短くそう言うと、その後創一からは短い相槌しか聞こえてこない。聞き耳を立てているわけじゃないが、その素っ気なさに、仕事か? なんて思う。
俺はその間に、すでに綺麗さっぱり平らげた皿を片づけ始めた。まだそう遅い時間じゃないが、早めに飲み始めたからか、今度は眠気が襲い始めている気がする。
「──わかった。今から行く」
創一はそう言って電話を切ると軽く息を吐き出した。
「仕事か?」
「いや……。知人が、困っているから今から来てくれないか、と」
創一はそう答えながら、またカウンターにスマホを置く。
「俺のことは気にせず行ってくれば? 先に皿片付けとくし」
立ち上がり残りの皿を重ねながら俺はそう促す。創一は少し考えてから俺に言う。
「お前も手伝ってくれないか? 重い荷物を運んで欲しいらしい」
「俺? いや、結構酔っ払ってるし、役に立たないぞ?」
「大丈夫だ。来てくれればそれでいい。相手は同じマンションの違う階に住んでるんだ。今から向かう」
珍しく、有無を言わせない口調で創一は言い、俺はそれに従った。エレベーターで上の階に向かい、創一の背中を追いかけながら廊下を進む。
「あっ、創! ごめん、急に呼び出しちゃって。張り切ってお水頼んだのはいいけど、中まで運べなくて」
たどり着いた先。創一の背中越しに聞こえきたその声に、俺は耳を疑った。
「俺が家にいなかったらどうするつもりだったんだ」
全身が強張り動けなくなった俺を置いて、創一はその人の元へ向かう。荷物を確認するように屈んでいたその人は体を起こすと、俺の姿を確認したのか、驚いた表情を見せていた。
「次はこれを食ってからにしろ」
渋々その皿を受け取ると、自分の前にそれを置く。その上には、小海老のフリッター、ローストビーフ、ピクルスの盛り合わせ、ラタトゥイユ、具入りの卵焼きなどが、ところ狭しと乗せられていた。
創一は、俺が食べるのを見守るように、じっとこちらを見ていた。
しかたねぇ……。さすがに飲んでばかりなのも体には良くねぇか……
諦めて箸を持つと、なんとなく卵焼きを口に放り込む。
「…………。美味……い」
「なら……よかった」
無意識に俺は口にしていた。ハッとして顔を上げると、創一は少し口角を上げたような気がした。
また残りの卵焼きを口に運び、俺は視線を下に向けると続けた。
「それに……。なんか懐かしい気がする」
どこがどう、と言われると説明はできないが、なんとなく感じたことを口に出すと、創一は訝しげに「懐かしい?」と言っている。
「いや、なんでもねぇ。最近まともなもん食った記憶ねぇしな。すげえ美味い」
久しぶりに感じる空腹感が、さっきの一口が引き金になったように一気に押し寄せてくる。俺はしばらく酒を飲むのも忘れ、食べることに熱中していた。
取り留めもない話をしながら、腹を満たす。いつのまにか創一がワインを開け、それも2本目となっていた。創一は酔った様子もなくいつものように淡々とした表情で俺の話に相槌を打っている。昔からそうだ。俺ばかりが喋って、創一はいつも聞く側だった。
「俺さ、お前に話してないことがあってさ……」
だんだんとふわふわしてきた頭で、そう切り出す。
「話してないこと?」
未だに姿勢を崩すことなく、まっすぐこちらを見て、創一は不思議そうな顔をした。
「あぁ。……俺、今……っつうか、去年の4月から、ソレイユの担当してんだよ」
「ソレイユの?」
「そ。だから、お前の従姉妹とも顔見知り。まぁ、あいつはキャプテンだったし、それなりに接点はあった」
「なんで言わなかった?」
今更すぎて決まりは悪い。なんとなく創一を見れず視線を外し俺は答える。
「お前の友人だって知ったら気を使うかもなって思ったから。だからあいつにも言わなかった」
「そう、か」
創一はそれだけ言うと、持っていたグラスをコトリと置いた。
「あいつは元気にしてるか? 連絡もとってねぇし、それだけが気がかりでな」
そう言うと俺は、気を紛らわせるように残っていたワインを一気に呷った。
「あぁ。元気だ。今はもう普通に歩き回ってる」
「そっか。……よかったな」
俺はホッと肩で息を吐く。
澪の話は、萌ともしない。最初こそ不安そうにしていた萌も、この頃はキャプテンとして自覚も出てきたのか顔つきも変わってきた。そんな萌は、俺と話すときは澪の話題をあえて避けているような気がした。
「全く連絡も取ってねぇし、チームのやつにも話聞かねぇから、ちょっと心配してた。元気なら……それでいい」
創一は何も答えず、しばらく沈黙が訪れる。それを破るように、どこからか携帯の着信音が聞こえてきた。
「悪い、電話だ」
創一は立ち上がると、背後にあるキッチンカウンターに手を伸ばした。
「遠慮なく出ろよ?」
画面の表示を見て一瞬躊躇したように見えた創一に、俺はそう言った。
「あぁ」
それだけ言うと創一はその場で電話を取った。
「……俺だ」
短くそう言うと、その後創一からは短い相槌しか聞こえてこない。聞き耳を立てているわけじゃないが、その素っ気なさに、仕事か? なんて思う。
俺はその間に、すでに綺麗さっぱり平らげた皿を片づけ始めた。まだそう遅い時間じゃないが、早めに飲み始めたからか、今度は眠気が襲い始めている気がする。
「──わかった。今から行く」
創一はそう言って電話を切ると軽く息を吐き出した。
「仕事か?」
「いや……。知人が、困っているから今から来てくれないか、と」
創一はそう答えながら、またカウンターにスマホを置く。
「俺のことは気にせず行ってくれば? 先に皿片付けとくし」
立ち上がり残りの皿を重ねながら俺はそう促す。創一は少し考えてから俺に言う。
「お前も手伝ってくれないか? 重い荷物を運んで欲しいらしい」
「俺? いや、結構酔っ払ってるし、役に立たないぞ?」
「大丈夫だ。来てくれればそれでいい。相手は同じマンションの違う階に住んでるんだ。今から向かう」
珍しく、有無を言わせない口調で創一は言い、俺はそれに従った。エレベーターで上の階に向かい、創一の背中を追いかけながら廊下を進む。
「あっ、創! ごめん、急に呼び出しちゃって。張り切ってお水頼んだのはいいけど、中まで運べなくて」
たどり着いた先。創一の背中越しに聞こえきたその声に、俺は耳を疑った。
「俺が家にいなかったらどうするつもりだったんだ」
全身が強張り動けなくなった俺を置いて、創一はその人の元へ向かう。荷物を確認するように屈んでいたその人は体を起こすと、俺の姿を確認したのか、驚いた表情を見せていた。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。
汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。
書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。
―――――――――――――――――――
ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。
傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。
―――なのに!
その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!?
恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆
「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」
*・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・*
▶Attention
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜
Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。
結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。
ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。
気がついた時にはかけがえのない人になっていて――
表紙絵/灰田様
《エブリスタとムーンにも投稿しています》
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
契約結婚のはずが、幼馴染の御曹司は溺愛婚をお望みです
紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
旧題:幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。
★第17回恋愛小説大賞(2024年)にて、奨励賞を受賞いたしました!★
☆改題&加筆修正ののち、単行本として刊行されることになりました!☆
※作品のレンタル開始に伴い、旧題で掲載していた本文は2025年2月13日に非公開となりました。
お楽しみくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませ。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる