16 / 76
3
4
しおりを挟む
料理は萌が、飲み物はそれぞれがオーダーし、まず飲み物が揃うと皆手に取った。
「じゃあ、乾杯しましょう! 一矢さんの誕生日にかんぱ~い!」
チームでも、こういうときでもムードメーカーの萌が明るく声を上げると真ん中にグラスを掲げた。
「おめでとう、朝木君」
「あの、おめでとう……」
口々にそう言うと、一矢は気恥ずかしそうに視線を外し「あ、り……がとうございます」と答えた。その照れくさそうな顔は、ちょっとかわいいかも、と私は一矢を盗み見ていた。
「さ、食べましょうよ! お腹、空きました!」
思っていたよりどの皿もボリュームがあり、テーブルの上には所狭しと料理が並んでいた。
私はまず、前菜の盛り合わせから、生ハムのマリネを口に運んだ。塩気と程よい酸味が相まって凄く良い。
「これ……美味しい……」
思わずそう言うと、一矢は自分が褒められたように「だろ?」と笑った。
「このピザも美味しいです! 一矢さん!」
本当に空腹だったようで、いきなりがっつりとピザに齧り付くと萌も笑顔で言っている。
「よかったな。たくさん食えよ?」
優しい顔付きで萌に笑いかける一矢に、少しモヤモヤしてしまう。そんな顔、私には見せないのに、なんて、私は心が狭い。
「そういえば朝木君。さっき、昼間散々ケーキ食べた、なんて言ってたけど、誰と食べたんだい?」
戸田さんは、白ワインの入ったグラスを傾けながら、ニコニコと尋ねている。
「その話し、蒸し返します?」
一矢は、途端に嫌そうな顔で戸田さんを見た。
「あ、私も聞きたい! デートですか? デート!」
恋バナをしたいのか、萌はワクワクした表情で一矢を見た。
「だからデートじゃねぇ。実家帰ってたんだ。日曜だし、久しぶりに兄弟全員集まって妹の作った飯とケーキ食っただけだ」
「へ~。一矢さん、妹さんいるんですね。兄弟全員って、他にもいるんですか?」
さすがに、他のメンバーとそんな話しはしないみたいだ。私は何度も聞かされた兄弟のことを、萌は知らないようだった。一矢は簡単に2人に兄弟の説明をしていた。
「6人兄弟の長男! どおりですごくお兄ちゃん感あると思った」
萌は納得したように言っている。
「確かにね。長男って感じする」
戸田さんも萌に同意するように言ってから「僕もお兄ちゃんだけどね?」と笑った。
「……でしょうね」
渋い顔して返す一矢に、戸田さんは「弟は朝木君と同じ年なんだ」と返し、一矢は一層渋い顔をしていた。
「はいっ! はいっ! 私は妹です! お兄ちゃんいます!」
猛アピールするように萌は手を挙げる。私はもちろんそれを知っている。ちびちびとワインクーラーのグラスに口をつけながら、私は黙って向かいの様子を眺めていた。
「あ~。だろうな。で、そのお兄ちゃんとは結構歳離れてんじゃねぇの?」
「なんでわかったんですか⁈」
目を丸くしている萌に、一矢は吹き出して笑っている。
「見りゃわかるだろ。スッゲェ妹感あるし。可愛がられたんだろうなって」
「いやぁ、お恥ずかしい」
萌はわざとらしく頭を掻きながら続けた。
「ってことは、一矢さんも妹さんのこと可愛がってるんですか?」
「当たり前だろうが。妹はな、むちゃくちゃ可愛いんだ。まぁ、お前も可愛いぞ? 小さいころの妹見てるみたいで」
一矢は少年のようにニカっと笑うと、萌に向かいそう言った。
「小さいころは余計だと思いますよ!」
頰を膨らませて抗議する萌に、「悪りぃ悪りぃ」と一矢は笑いながら相手をしていた。私はそれを、遠くを見つめるように眺めていた。
こんなふうに、一矢と話したことなんてない。可愛いなんて、言われたこともない。
私は目の前で燥ぎ合う2人を、グラスを持ったままぼんやりと見つめていた。
「澪? 大丈夫? 元気ないけど」
私に体を寄せた戸田さんに小さく尋ねられ我に返った。
「大丈夫です。あんまりお腹空いてないなぁって」
取り繕うよう返す私を、戸田さんはまだ心配そう見ている。
「飲むなら食べたほうがいいよ? 澪、お酒あんまり強くないでしょ?」
戸田さんは私の手からするりとグラスを抜くと、それをテーブルに置く。そんなに飲んでいたつもりじゃないのに、無意識に口に運んでいたのか、もうほぼ空だった。
「はは……。そうですね。また戸田さんに迷惑かけたら大変!」
乾いた笑いを漏らしながら答えた。キャプテンになったばかりのころ、本社のお偉いさん方との懇親会で、勧められるがままにお酒を飲み、酔った私を介抱してくれたのは戸田さんだ。さすがにあんな醜態、二度と晒したくない。
「ピザでも食べようかな?」
私は明るくそう言ってピザの乗る皿に手を伸ばす。
「悩み事があるなら、いつでも相談にのるよ?」
前を向いている私の耳に、そんな言葉が届く。チーズがこぼれないよう持ち上げながら、「やだなぁ、ないですって。悩みなんて」と笑いながら答えた。
「そう? ならいいけど」
素っ気なくそう言うと、戸田さんはワイングラスを持ち上げた。
「じゃあ、乾杯しましょう! 一矢さんの誕生日にかんぱ~い!」
チームでも、こういうときでもムードメーカーの萌が明るく声を上げると真ん中にグラスを掲げた。
「おめでとう、朝木君」
「あの、おめでとう……」
口々にそう言うと、一矢は気恥ずかしそうに視線を外し「あ、り……がとうございます」と答えた。その照れくさそうな顔は、ちょっとかわいいかも、と私は一矢を盗み見ていた。
「さ、食べましょうよ! お腹、空きました!」
思っていたよりどの皿もボリュームがあり、テーブルの上には所狭しと料理が並んでいた。
私はまず、前菜の盛り合わせから、生ハムのマリネを口に運んだ。塩気と程よい酸味が相まって凄く良い。
「これ……美味しい……」
思わずそう言うと、一矢は自分が褒められたように「だろ?」と笑った。
「このピザも美味しいです! 一矢さん!」
本当に空腹だったようで、いきなりがっつりとピザに齧り付くと萌も笑顔で言っている。
「よかったな。たくさん食えよ?」
優しい顔付きで萌に笑いかける一矢に、少しモヤモヤしてしまう。そんな顔、私には見せないのに、なんて、私は心が狭い。
「そういえば朝木君。さっき、昼間散々ケーキ食べた、なんて言ってたけど、誰と食べたんだい?」
戸田さんは、白ワインの入ったグラスを傾けながら、ニコニコと尋ねている。
「その話し、蒸し返します?」
一矢は、途端に嫌そうな顔で戸田さんを見た。
「あ、私も聞きたい! デートですか? デート!」
恋バナをしたいのか、萌はワクワクした表情で一矢を見た。
「だからデートじゃねぇ。実家帰ってたんだ。日曜だし、久しぶりに兄弟全員集まって妹の作った飯とケーキ食っただけだ」
「へ~。一矢さん、妹さんいるんですね。兄弟全員って、他にもいるんですか?」
さすがに、他のメンバーとそんな話しはしないみたいだ。私は何度も聞かされた兄弟のことを、萌は知らないようだった。一矢は簡単に2人に兄弟の説明をしていた。
「6人兄弟の長男! どおりですごくお兄ちゃん感あると思った」
萌は納得したように言っている。
「確かにね。長男って感じする」
戸田さんも萌に同意するように言ってから「僕もお兄ちゃんだけどね?」と笑った。
「……でしょうね」
渋い顔して返す一矢に、戸田さんは「弟は朝木君と同じ年なんだ」と返し、一矢は一層渋い顔をしていた。
「はいっ! はいっ! 私は妹です! お兄ちゃんいます!」
猛アピールするように萌は手を挙げる。私はもちろんそれを知っている。ちびちびとワインクーラーのグラスに口をつけながら、私は黙って向かいの様子を眺めていた。
「あ~。だろうな。で、そのお兄ちゃんとは結構歳離れてんじゃねぇの?」
「なんでわかったんですか⁈」
目を丸くしている萌に、一矢は吹き出して笑っている。
「見りゃわかるだろ。スッゲェ妹感あるし。可愛がられたんだろうなって」
「いやぁ、お恥ずかしい」
萌はわざとらしく頭を掻きながら続けた。
「ってことは、一矢さんも妹さんのこと可愛がってるんですか?」
「当たり前だろうが。妹はな、むちゃくちゃ可愛いんだ。まぁ、お前も可愛いぞ? 小さいころの妹見てるみたいで」
一矢は少年のようにニカっと笑うと、萌に向かいそう言った。
「小さいころは余計だと思いますよ!」
頰を膨らませて抗議する萌に、「悪りぃ悪りぃ」と一矢は笑いながら相手をしていた。私はそれを、遠くを見つめるように眺めていた。
こんなふうに、一矢と話したことなんてない。可愛いなんて、言われたこともない。
私は目の前で燥ぎ合う2人を、グラスを持ったままぼんやりと見つめていた。
「澪? 大丈夫? 元気ないけど」
私に体を寄せた戸田さんに小さく尋ねられ我に返った。
「大丈夫です。あんまりお腹空いてないなぁって」
取り繕うよう返す私を、戸田さんはまだ心配そう見ている。
「飲むなら食べたほうがいいよ? 澪、お酒あんまり強くないでしょ?」
戸田さんは私の手からするりとグラスを抜くと、それをテーブルに置く。そんなに飲んでいたつもりじゃないのに、無意識に口に運んでいたのか、もうほぼ空だった。
「はは……。そうですね。また戸田さんに迷惑かけたら大変!」
乾いた笑いを漏らしながら答えた。キャプテンになったばかりのころ、本社のお偉いさん方との懇親会で、勧められるがままにお酒を飲み、酔った私を介抱してくれたのは戸田さんだ。さすがにあんな醜態、二度と晒したくない。
「ピザでも食べようかな?」
私は明るくそう言ってピザの乗る皿に手を伸ばす。
「悩み事があるなら、いつでも相談にのるよ?」
前を向いている私の耳に、そんな言葉が届く。チーズがこぼれないよう持ち上げながら、「やだなぁ、ないですって。悩みなんて」と笑いながら答えた。
「そう? ならいいけど」
素っ気なくそう言うと、戸田さんはワイングラスを持ち上げた。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜
Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。
結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。
ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。
気がついた時にはかけがえのない人になっていて――
表紙絵/灰田様
《エブリスタとムーンにも投稿しています》
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。
汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。
書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。
―――――――――――――――――――
ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。
傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。
―――なのに!
その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!?
恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆
「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」
*・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・*
▶Attention
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
契約結婚のはずが、幼馴染の御曹司は溺愛婚をお望みです
紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
旧題:幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。
★第17回恋愛小説大賞(2024年)にて、奨励賞を受賞いたしました!★
☆改題&加筆修正ののち、単行本として刊行されることになりました!☆
※作品のレンタル開始に伴い、旧題で掲載していた本文は2025年2月13日に非公開となりました。
お楽しみくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませ。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる