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 プライベートの連絡先を貰ったその日。私は一人部屋のソファに転がり悩んでいた。

 なんて送ったら……いいんだろ?

 そういえば、27にもなるのに今まで彼氏はともかく、男友達すらいたことはない。男の人相手にプライベートでメッセージを送ったことなんてない。……いや、一人だけいる。

 私はその相手とのメッセージのやりとりを遡って眺めてみた。一番最近、と言ってももう一月近く前のはこうだ。

『出張の土産を明日持って行く。叔母様に伝えておいてくれ』

 私が送られてきたそれに、OKとスタンプを送り返しただけで終わっている。その前のやりとりはこうだった。

『北海道に出張に行くことになった。土産は何がいい?』

 私は、『これ。よろしく』と、地域限定のお菓子の画像とURLを送りつけただけだった。

 な……なんなの? このやりとり……

 いくら相手が気心の知れた一つ年下の従兄弟、そうだとしても、これはさすがに可愛げがなさすぎる。自分のことなのに、今更ながら愕然としてしまった。

 だから私はもう数十分も、メッセージの画面を開いたまま何の文字も打てずにいた。

 可愛くないと思われてもしかたないけど、今更可愛くみせるのも無理な話だ。そんなことをしたところで、気持ち悪がられるに違いないだろうし。
 悩んでもしょうがない、と私は簡単に仕事のときと変わらないメッセージを送る。
 なんとかやりとりをして、一矢とご飯を食べに行くのは日曜の夕方に決まった。ほんの、数日後だ。

 そしてその約束の日。
 練習はほぼ1日中だけど、終わるのは夕方4時だからまだ早いほうだ。
 練習中気を抜くと浮き足立ってしまいそうで、今日のことは考えないようにしていた。でもそれも終わると途端に意識してしまう。

 とりあえず、いったん頭もクールダウンしなきゃ

 待ち合わせまで時間はある。できるだけ更衣室でみんなとかち合わないようにしたい。絶対に着替えたらツッコまれそうな服装。それに、ちゃんとメイクもしたい。さすがにいつものような、『あとは家に帰るだけだし』って言う適当な服装とメイクで向かう勇気はない。

 私は、事務仕事残ってたはずと、着替えもせず事務所に真っ直ぐ向かった。
 

 誰もいない……よね?

 さすがにそろそろ用意しなきゃと更衣室に向かうと、時間を潰したのが功を奏したのか、最後に帰って行くメンバーとすれ違った。そこから身支度を整え、恐る恐る玄関に向かい辺りを見渡してホッと息を吐いた。

よかった。誰にも会わずにすんだ……

 後ろめたいことをしているわけじゃないけど、普段と違う服装で帰る私を見て、茶化してくる人間は一人や二人じゃないはずだ。
 後ろからくる人もいないことに安心して自動扉を抜け歩き出すと、背中側から耳馴染みのある声が飛んできた。

「澪さーん! 今帰り~?」

 なんで……

 頭を抱えながら振り返ると、自動扉出た反対側の奥に人影が見えた。もちろんそれは、今日一番遭遇したくなかった相手。萌は、跳ねながら私に手を振っていて、横には戸田さんが立っていた。

「まだいたんだ。気づかないうちに帰ったのかと思った」

 立ち止まった私の元に駆けてくると、萌は屈託のない笑顔を浮かべた。

「ちょっと事務仕事片付けてて」

 時間はあまりないから、歩き出しながら答えると、萌は私についてきた。

「大変ですねぇ、キャプテンって」

 ちょっと待って! なんで着いてくるの?

 と内心焦っている私を他所に、萌はしみじみとそんなことを言っている。

「それより萌は、戸田さんに用事があったんじゃないの?」

 歩くスピードを少し上げると、萌は私の歩調に合わせた。

「もう終わりました。そろそろ帰ろうかって言ってたところです。ね? 戸田さん?」

 歩きながら振り返り萌が言うと、後ろから「そうだね」と戸田さんの声が聞こえる。

 なんで戸田さんまで着いてきちゃうのよ!

 自分の間の悪さを呪いたい。見つかってしまうのは運命だったのだろうか、とため息を吐く。
 けれど、ここで別れられるはずだ。通りに出て右に行くと最寄り駅。私は左に行きたい。待ち合わせは同じ路線の一駅先。電車に乗るより歩いたほうが早いからだ。

「じゃ、じゃあ……私、こっちだから」

 一度立ち止まると、私はいつもと反対側を指さす。

「そうですか……」

 一瞬、シュンとした顔になったかと思うとすぐに萌は笑顔になり言った。

「じゃあ私も今日はそっちです!」
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