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☆番外編3☆
emotional 1*
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「んっ、ぁ、んんっ」
声を押し殺し、歯を食いしばりながら、私は押し寄せる波をやり過ごしていた。もう何度目だろう?私の中を満たしているものがほんの少し動くだけで、その波は荒波となって向かってくるようだ。
「声。我慢したかったら、俺の肩でも首でも噛んでろ」
ゆるゆると腰を揺らしながら、司は私の耳元で小さく囁く。私がどうしてこんなに声を上げられないのか、わかっているから。
私たちが使うこのベッドからほんの数歩先には、壱花の眠るベビーベッドがある。もう夜中で、今はぐっすり眠っているけど、いつ目を覚ますかわからない。あまり大きな声を上げて、起こしてしまったら……と気が気じゃない。
壱花はもう1歳9ヵ月。赤ちゃん、と言う時期は過ぎ、何をしているかまではわからなくても、さすがにこんなところを目撃されるのは気まずい。
前にも一度、真っ最中に起きた壱花が、自分のベッドの上で何故だか笑い出し、2人で固まってしまったことがある。もちろんその日はそれでお終いで、司は盛大に溜め息を吐いていた。
「ん、んぅっ!」
激しくはなく、逆にゆるゆると善いところを擦られ、そのもどかしさが快感に変わる。
「やっぁ、んんんっ」
お腹の奥から押し寄せる甘い痺れに、必死で声を堪えながら司の首にしがみつく。
今日だけは……起きないで……
私はそんなことを願う。
「ぁ、ん、またっ、くるっっ」
身体中が自分の意志から離れて震え出す。お腹の底からやってくる大きなうねりが私を飲み込もうとしていた。
「俺も……。そろそろ……ヤバイ」
囁くように息を吐き出すその声が耳を擽り、身体を揺らす熱は一段と高くなる。
「ん、んんんっ!」
私が叫びだしそうになるのを遮るように、司に唇を塞がれる。必死にその背中にしがみつき、私は高みへと昇り詰めた。
◆◆
長門の家で初めて迎えた8月の早朝。暦の上ではもう秋で、まだ日が登り始めて間もないこの時間は、その気配をなんとなく感じる。けれど、庭で鳴く蝉の声がまだまだ夏だと言わんばかりに激しく主張していた。
「じゃあ……。いってらっしゃい」
遠くにそれを聞きながら、私は司を見上げた。
「あぁ。行ってくる。壱花のこと、頼むな?」
そう言っていつもと変わらない笑顔を見せると、司は私の頭をくしゃくしゃに撫でた。
「……うん。任せて?」
私も笑顔を見せる。いや、見せているつもり、だった。なのに、司はそんな私を見て少し悲しげな表情を浮かべた。
「……そんな顔されたら……。連れて行きたくなるだろ」
広い玄関先で、私は司の腕の中に閉じ込められる。いつものように、これから仕事に向かう司を心配させないよう笑顔で見送らなきゃいけないのに、今日はそれができなかった。
もう、2年近く前のこと。
司は、親交のあったハリウッド女優のみかさんに誘われて、ニューヨークで彼女を撮影したことがある。それがきっかけで、また海外での仕事が増えてきた。すでに何度かニューヨークやパリでの仕事もこなしてきた。そして、今日からはミラノでの仕事に向かうのだ。
期間は……1ヶ月。こんなに長期に渡るのは初めてだ。そう。私が司と出会って3年と少しの間で、こんなに離れてしまうのは、これで2度目。1度目はまだ正式に付き合いだす前だ。
たった1ヵ月。それだけなのに、自分で思っていた以上に、司と離れてしまうのが不安だったみたいだ。だから、今日の私はいつものように笑顔を作ることができなかった。
「ごめんなさい……。大丈夫。私のことは気にしないで。お仕事頑張ってきてね」
私は、司の背中に手を回して、その温もりを確認するように胸に体を埋めた。
「あぁ」
それ以上は何も言わず、司は私を抱きしめてから家をあとにした。
そして私は、その姿を黙って見送ることしかできなかった。
声を押し殺し、歯を食いしばりながら、私は押し寄せる波をやり過ごしていた。もう何度目だろう?私の中を満たしているものがほんの少し動くだけで、その波は荒波となって向かってくるようだ。
「声。我慢したかったら、俺の肩でも首でも噛んでろ」
ゆるゆると腰を揺らしながら、司は私の耳元で小さく囁く。私がどうしてこんなに声を上げられないのか、わかっているから。
私たちが使うこのベッドからほんの数歩先には、壱花の眠るベビーベッドがある。もう夜中で、今はぐっすり眠っているけど、いつ目を覚ますかわからない。あまり大きな声を上げて、起こしてしまったら……と気が気じゃない。
壱花はもう1歳9ヵ月。赤ちゃん、と言う時期は過ぎ、何をしているかまではわからなくても、さすがにこんなところを目撃されるのは気まずい。
前にも一度、真っ最中に起きた壱花が、自分のベッドの上で何故だか笑い出し、2人で固まってしまったことがある。もちろんその日はそれでお終いで、司は盛大に溜め息を吐いていた。
「ん、んぅっ!」
激しくはなく、逆にゆるゆると善いところを擦られ、そのもどかしさが快感に変わる。
「やっぁ、んんんっ」
お腹の奥から押し寄せる甘い痺れに、必死で声を堪えながら司の首にしがみつく。
今日だけは……起きないで……
私はそんなことを願う。
「ぁ、ん、またっ、くるっっ」
身体中が自分の意志から離れて震え出す。お腹の底からやってくる大きなうねりが私を飲み込もうとしていた。
「俺も……。そろそろ……ヤバイ」
囁くように息を吐き出すその声が耳を擽り、身体を揺らす熱は一段と高くなる。
「ん、んんんっ!」
私が叫びだしそうになるのを遮るように、司に唇を塞がれる。必死にその背中にしがみつき、私は高みへと昇り詰めた。
◆◆
長門の家で初めて迎えた8月の早朝。暦の上ではもう秋で、まだ日が登り始めて間もないこの時間は、その気配をなんとなく感じる。けれど、庭で鳴く蝉の声がまだまだ夏だと言わんばかりに激しく主張していた。
「じゃあ……。いってらっしゃい」
遠くにそれを聞きながら、私は司を見上げた。
「あぁ。行ってくる。壱花のこと、頼むな?」
そう言っていつもと変わらない笑顔を見せると、司は私の頭をくしゃくしゃに撫でた。
「……うん。任せて?」
私も笑顔を見せる。いや、見せているつもり、だった。なのに、司はそんな私を見て少し悲しげな表情を浮かべた。
「……そんな顔されたら……。連れて行きたくなるだろ」
広い玄関先で、私は司の腕の中に閉じ込められる。いつものように、これから仕事に向かう司を心配させないよう笑顔で見送らなきゃいけないのに、今日はそれができなかった。
もう、2年近く前のこと。
司は、親交のあったハリウッド女優のみかさんに誘われて、ニューヨークで彼女を撮影したことがある。それがきっかけで、また海外での仕事が増えてきた。すでに何度かニューヨークやパリでの仕事もこなしてきた。そして、今日からはミラノでの仕事に向かうのだ。
期間は……1ヶ月。こんなに長期に渡るのは初めてだ。そう。私が司と出会って3年と少しの間で、こんなに離れてしまうのは、これで2度目。1度目はまだ正式に付き合いだす前だ。
たった1ヵ月。それだけなのに、自分で思っていた以上に、司と離れてしまうのが不安だったみたいだ。だから、今日の私はいつものように笑顔を作ることができなかった。
「ごめんなさい……。大丈夫。私のことは気にしないで。お仕事頑張ってきてね」
私は、司の背中に手を回して、その温もりを確認するように胸に体を埋めた。
「あぁ」
それ以上は何も言わず、司は私を抱きしめてから家をあとにした。
そして私は、その姿を黙って見送ることしかできなかった。
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