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☆番外編集☆
Take me out
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濡れて色の変わった砂の上を、波が来るのを待ち構えては、その波が足元まで来るたび、瑤子はきゃあきゃあと声を上げた。
ったく、子供みたいだな
そう思いながらも、俺はその楽しそうな顔から目が離せないでいた。
『セフレなら』と言われてそうしたはずなのに、何を血迷ったのか、一緒に過ごす3日目の朝を迎えていた。今まで、誰一人としてこんなに長い時間を過ごしたセフレなどいなかったはずなのに。
「ねー! 司は来ないの~? 気持ちいいわよ?」
波の音に負けないように大きな声で瑤子は俺を呼ぶ。俺が選んだスモーキーピンクのフレアワンピースの裾を持ち上げ、足首まで波に浸かっている。時折大きな波がくると、瑤子は慌てて裾をもっと持ち上げて後ずさっていた。
「服濡れそうだし俺はいい」
「えー……」
不満げに声を上げて、瑤子がまた海の方を向いた。
カメラ……。持ってくればよかったな
今、無性に撮りたい気分になる。長い間、仕事でしか写真を撮ることはなくて、自分から誰かを撮りたいなんて思うのは久しぶりだ。波と戯れる瑤子の姿を、記憶だけじゃなく記録しておきたいと思うなんて。
俺は徐にポケットからスマホを取り出した。仮にもプロがスマホのカメラで撮るなんて……と思うが、今撮れるものはこれしかない。
「瑤子!」
俺はその名前を呼ぶ。
「ん? なに~?」
振り向いて笑うその顔にスマホを向けて、俺はシャッターを切る。なんの指示も与えていない、素の笑顔。画面に表示されたその姿を見て、俺から自然に笑みが溢れた。
「あっ! 何勝手に撮ってるのよ!」
瑤子が慌てたようにこちらに走ってくる。まあ、走ってるつもりだろうが、砂に足を取られヨタヨタしながらだが。
「ちょっと!! 見せなさいよ!」
「嫌だね」
俺が高く掲げたスマホを取ろうと、その場で瑤子が必死にピョンピョン跳ねている。
「変な顔してるかも知れないじゃない!」
残念ながら、俺の身長だと瑤子が多少飛んだところで届くはずはない。
「じゃ、キスしてくれたら見せてやる」
俺がそう言うと、瑤子はピタリと止まり、半分悔しそうに俺を見上げた。
だがしばらくして、意を決したように瑤子は俺の下ろしていた左腕に手をかけると、
「えいっ!」
と背伸びをする。
チュッと音がして、触れられたのは……頰。
「どう? したわよ?」
勝ち誇ったように得意げな顔して瑤子は俺を見上げて笑う。
ちっ。場所指定すりゃよかった
約束は約束だ。仕方なく俺はスマホのロックを外して瑤子に渡す。
「ほら」
「勝手に見ていいの?」
「見られて困るもんなんか入ってねぇよ」
俺のスマホの写真フォルダには、元々数枚しか保存されていない。それもほぼ必要なくなったメモ代わりの代物。
瑤子は目の前でその写真フォルダを開けた。
「えっ! これだけしか入ってないの?」
数枚しか表示されない写真を見て瑤子が驚いている。
「スマホで人間なんて初めて撮ったっつーの」
「そうなの⁈」
一段と驚いて瑤子は俺を見上げた。そしてまた視線をスマホに戻すと、さっきの自分を画面いっぱいに表示させてる。
「…………」
その写真を無言で眺めてから、瑤子は画面に指を置く。
「プロの写真消そうとするなんて。度胸あるな、お前」
俺がそう言うと「うっ……」と瑤子が声を漏らした。
「だって! 恥ずかしいじゃない!」
ほんのり紅く染めた顔で俺を見上げて瑤子は俺に抗議する。俺はスマホを瑤子の手から取り上げて、「はい終わり~」とポケットにしまった。
「あっ! もう!」
瑤子が不服そうな顔を見せるのを笑みを浮かべて眺めながら、
「仕方ねぇな。俺も水遊びに付き合ってやるよ」
そう言って手を引くと、波打ち側に向かった。
一頻り遊んで車に戻る。2人とも足は砂まみれだ。
俺は初夏の日差し照らされ、熱気の篭っているだろう車の助手席のドアを開けて、足を外に向けるように瑤子を座らせた。
「ちょっと待ってろ」
そう言うと運転席のドアを開けて、瑤子に背を向けるように座る。その場でもう乾いた砂を適当に払い靴下と靴を履いた。
それから隅にある自動販売機で水を買い、車のトランクに入っていたタオルを取り出した。
助手席側に向かうと、瑤子はそこから見える海をぼんやり眺めていた。
「洗ってやるから。裾持ち上げてろ?」
そう言われて、素直に瑤子は服の裾を膝上まで上げる。その白い脚に付く砂を払い、水で流していく。
「そんなこと、しなくていいのに」
申し訳なさそうな声がしゃがんでいる俺の頭の上に降ってくる。
「やりたいからやってんだ」
瑤子の足を撫でながら砂を落としていると、なんかいけない気分にはなってくるが。
あぁ、あれか。一緒に風呂入った時に似てるのか
そう思うと、ちょっとばかり悪戯心が起こる。
指の間を執拗に洗うと、案の定時々反応するように瑤子の体が揺れる。瑤子から小さく漏れる吐息を聞こえないフリして、タオルで拭き取るとそこに舌を這わせた。
「ひゃあっ!」
さすがに耐え切れなかったのか瑤子がそんな声を上げた。
「もう塩の味はしねーな」
何て言いながら見上げると、
「何すんのよ!!」
と、瑤子は言いながら、オフショルダーの服から覗いている鎖骨辺りまでを真っ赤にしていた。
あー……。今すぐ押し倒してぇ……。今日この服を着ていると言うことは、脱がしてもいいってことだしな
俺は買った時の瑤子の台詞を思い出す。
「ま、今はこれで我慢しとく」
俺は口角を上げニヤリと笑う。
「何考えてんのよ! 変態!!」
瑤子は怒りながら反対を向いてシートの上で丸くなった。
俺はそれを見て大笑いしながら運転席に向かった。
あーあ。ずっとこうしてたいなぁ……
何て、柄にもなく思いながら。
Fin
ったく、子供みたいだな
そう思いながらも、俺はその楽しそうな顔から目が離せないでいた。
『セフレなら』と言われてそうしたはずなのに、何を血迷ったのか、一緒に過ごす3日目の朝を迎えていた。今まで、誰一人としてこんなに長い時間を過ごしたセフレなどいなかったはずなのに。
「ねー! 司は来ないの~? 気持ちいいわよ?」
波の音に負けないように大きな声で瑤子は俺を呼ぶ。俺が選んだスモーキーピンクのフレアワンピースの裾を持ち上げ、足首まで波に浸かっている。時折大きな波がくると、瑤子は慌てて裾をもっと持ち上げて後ずさっていた。
「服濡れそうだし俺はいい」
「えー……」
不満げに声を上げて、瑤子がまた海の方を向いた。
カメラ……。持ってくればよかったな
今、無性に撮りたい気分になる。長い間、仕事でしか写真を撮ることはなくて、自分から誰かを撮りたいなんて思うのは久しぶりだ。波と戯れる瑤子の姿を、記憶だけじゃなく記録しておきたいと思うなんて。
俺は徐にポケットからスマホを取り出した。仮にもプロがスマホのカメラで撮るなんて……と思うが、今撮れるものはこれしかない。
「瑤子!」
俺はその名前を呼ぶ。
「ん? なに~?」
振り向いて笑うその顔にスマホを向けて、俺はシャッターを切る。なんの指示も与えていない、素の笑顔。画面に表示されたその姿を見て、俺から自然に笑みが溢れた。
「あっ! 何勝手に撮ってるのよ!」
瑤子が慌てたようにこちらに走ってくる。まあ、走ってるつもりだろうが、砂に足を取られヨタヨタしながらだが。
「ちょっと!! 見せなさいよ!」
「嫌だね」
俺が高く掲げたスマホを取ろうと、その場で瑤子が必死にピョンピョン跳ねている。
「変な顔してるかも知れないじゃない!」
残念ながら、俺の身長だと瑤子が多少飛んだところで届くはずはない。
「じゃ、キスしてくれたら見せてやる」
俺がそう言うと、瑤子はピタリと止まり、半分悔しそうに俺を見上げた。
だがしばらくして、意を決したように瑤子は俺の下ろしていた左腕に手をかけると、
「えいっ!」
と背伸びをする。
チュッと音がして、触れられたのは……頰。
「どう? したわよ?」
勝ち誇ったように得意げな顔して瑤子は俺を見上げて笑う。
ちっ。場所指定すりゃよかった
約束は約束だ。仕方なく俺はスマホのロックを外して瑤子に渡す。
「ほら」
「勝手に見ていいの?」
「見られて困るもんなんか入ってねぇよ」
俺のスマホの写真フォルダには、元々数枚しか保存されていない。それもほぼ必要なくなったメモ代わりの代物。
瑤子は目の前でその写真フォルダを開けた。
「えっ! これだけしか入ってないの?」
数枚しか表示されない写真を見て瑤子が驚いている。
「スマホで人間なんて初めて撮ったっつーの」
「そうなの⁈」
一段と驚いて瑤子は俺を見上げた。そしてまた視線をスマホに戻すと、さっきの自分を画面いっぱいに表示させてる。
「…………」
その写真を無言で眺めてから、瑤子は画面に指を置く。
「プロの写真消そうとするなんて。度胸あるな、お前」
俺がそう言うと「うっ……」と瑤子が声を漏らした。
「だって! 恥ずかしいじゃない!」
ほんのり紅く染めた顔で俺を見上げて瑤子は俺に抗議する。俺はスマホを瑤子の手から取り上げて、「はい終わり~」とポケットにしまった。
「あっ! もう!」
瑤子が不服そうな顔を見せるのを笑みを浮かべて眺めながら、
「仕方ねぇな。俺も水遊びに付き合ってやるよ」
そう言って手を引くと、波打ち側に向かった。
一頻り遊んで車に戻る。2人とも足は砂まみれだ。
俺は初夏の日差し照らされ、熱気の篭っているだろう車の助手席のドアを開けて、足を外に向けるように瑤子を座らせた。
「ちょっと待ってろ」
そう言うと運転席のドアを開けて、瑤子に背を向けるように座る。その場でもう乾いた砂を適当に払い靴下と靴を履いた。
それから隅にある自動販売機で水を買い、車のトランクに入っていたタオルを取り出した。
助手席側に向かうと、瑤子はそこから見える海をぼんやり眺めていた。
「洗ってやるから。裾持ち上げてろ?」
そう言われて、素直に瑤子は服の裾を膝上まで上げる。その白い脚に付く砂を払い、水で流していく。
「そんなこと、しなくていいのに」
申し訳なさそうな声がしゃがんでいる俺の頭の上に降ってくる。
「やりたいからやってんだ」
瑤子の足を撫でながら砂を落としていると、なんかいけない気分にはなってくるが。
あぁ、あれか。一緒に風呂入った時に似てるのか
そう思うと、ちょっとばかり悪戯心が起こる。
指の間を執拗に洗うと、案の定時々反応するように瑤子の体が揺れる。瑤子から小さく漏れる吐息を聞こえないフリして、タオルで拭き取るとそこに舌を這わせた。
「ひゃあっ!」
さすがに耐え切れなかったのか瑤子がそんな声を上げた。
「もう塩の味はしねーな」
何て言いながら見上げると、
「何すんのよ!!」
と、瑤子は言いながら、オフショルダーの服から覗いている鎖骨辺りまでを真っ赤にしていた。
あー……。今すぐ押し倒してぇ……。今日この服を着ていると言うことは、脱がしてもいいってことだしな
俺は買った時の瑤子の台詞を思い出す。
「ま、今はこれで我慢しとく」
俺は口角を上げニヤリと笑う。
「何考えてんのよ! 変態!!」
瑤子は怒りながら反対を向いてシートの上で丸くなった。
俺はそれを見て大笑いしながら運転席に向かった。
あーあ。ずっとこうしてたいなぁ……
何て、柄にもなく思いながら。
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