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☆番外編1☆

それまでとそれからと 10.

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「待たせたな」

そう言って戻って来た司がさっきと同じ姿でホッとした。雑誌から抜け出た様な格好のその姿をもうちょっと見ていたかったし。
そしてその姿に気を取られ、司の手にしているものが目に入っていなかった。

「じゃ、撮るか」

カメラを掲げて、司は満面の笑みを見せる。

だから最後に咲月ちゃんはメイクを直してくれたのか……と思いつつ、岡田さんと希海さんの前でもそんな顔してくれたら良かったのに……と私は少し残念な気持ちになっていた。


私達の写真撮影は、式が終わった後そのままチャペルで行われた。もちろんすぐに、崩れたメイクは咲月ちゃんが直してくれ、そして私達は多数のゲストの前で写真を撮る事になったのだ。

「ちょっと司!!少しは笑ってくれる⁈」
「笑ってる!!」

岡田さんにそう言われて返す司が、もちろん笑っているわけはない。

「そんなんじゃ結婚式の写真に見えないからさ!楽しい事でも思い浮かべるとか!何かないの⁈」

岡田さんにシャッターを切りながらそう言われた司は、私の顔を見てしばらく考えてからニヤリと笑った。

「そんな悪人面は要求してないからね!!」

その場には、そんな岡田さんの叫びと、希海さんの盛大な溜め息と、ゲストの笑い声が響いたのだった。


「私一人の写真なんてよかったのに……」

私にカメラを向ける司にそう言うと、「写真っつーか、撮りたかったんだ!写真は俺が一人で眺めるし、なんなら俺の棺桶に入れればいいだろ?」なんて言いながらシャッターを切っている。

「にしても、こんなお喋りしながらで良いの?何かこうして欲しいとか……ない?」
「普通で……いや、普通が、いい。仕事じゃねーし」

司は喋りながら、自分自身を見上げている私を撮っている。

「あー……。そうだな。一つだけ。立てるか?」

一旦カメラを置くと、司は私の手を引いて立ち上がらせて、窓際に連れて行く。窓と並ぶように私の体を横向きにすると、少し後退りこちらを眺める。
またこちらに戻ると少し体の動かして、また後退る。

なんかもう、仕事してるみたいになってるけど?

あまりにも真剣に、たぶん構図や写り方を考えているのだろう。ドレスも整えて、最後に私の両手を取った。

「手はこうな?」

手でドレスを押さえ、お腹を抱えるように組まれる。さっきまでは隠れて見えなかっただろう、私の大きくなったお腹の形がよく分かる。

「じゃ、そのままでいろよ?」

そう言って司はカメラを取りに行き、そして少し後ろからそれを構えた。

「……泣くなよ。親子初めてのツーショットだぞ?」
「これでも笑ってるって」

そう言って、私は涙を零しながら笑顔を作った。



寝室に移動して、名残り惜しいけどドレスを脱ぐ事にした。
やっぱりうちの寝室より広い部屋に、サイズはうちのと変わらない大きさのベッド。そしてその上には、雑誌やネットでしか見た事ない、薔薇の花びらが散らしてあるディスプレイがなされてあった。

「何かハネムーンみたいだね!」

それを見て私がそう言うと、司は私の肩を抱き寄せながら頰に唇を寄せて言う。

「俺はそのつもりだけど?」

ちょっとくすぐったくて、私は肩をすくめながら司からのキスを受け取る。

「どこ行こうか考えたけど、旅先で何かあってもと思ったら無茶苦茶近場しか思いつかなかった。近すぎだったか?」
「ううん。こんな素敵なお部屋に泊まれるなんて思ってなかったから嬉しい」

そう言うと私は、肩を抱き寄せたままこちらを見下ろしている司の頰に同じようにキスを返した。

「ちなみに明日も泊まる」
「そうだと思った」

私はそう言って司に笑って返した。


「疲れたか?」

背中越しにドレスのファスナーを下ろす司の気配を感じる。

「ううん?大丈夫。最近は凄く調子いいの」

背を向けたまま私は答える。

「そうか。なら、遠慮はいらないな」

そう言うと、司は元から開いていた背中に唇を落とし、ワザらしく大きくリップ音を響かせる。

「ちょっとっ!」

身動ぎしようしてもドレスが阻んで動けない。

「この瞬間をずっと待ち侘びてたんだから、少しは好きにさせてくれてもいいだろ?」

司が唇を寄せたまま喋るから、吐息が背中を擽る。

「っぁ……」

久しぶりの感覚が背中から全身に伝わり思わず小さく声が漏れた。

「式の間も写真撮られてる間も、早く脱がせてぇな、って思ってた」
「だからあんな顔したの?もう!」

私が呆れている間に、司はファスナーを下ろしきり、ドレスの隙間に手を入れて私の体を撫でながらそれを脱がして行く。パサリとドレスが落ちると、足元に円を描くように広がった。

司はブライダルインナー姿になった私の肩を掴むと体を回転させる。そのままその顔を見上げた私の唇に、司の唇が降ってくる。
最初はほんの少し触れるだけ。そして、今度は感触を味わうようにゆっくりと吸われる。

「……んっ……」

こんな風に触れられるのは久しぶりで、吐息を漏らしながら司の腕にしがみついた。それから何度も何度も、喰むようなキスを繰り返してから、ようやく司は離れると、私を見つめていた。

私を求める熱く揺らぐ瞳。
こんな顔を見るのは一体いつ振りだろう。もう、当分先まで求められる事はないかも知れないと思っていた。けれど、変わらず司は私が欲しいと求めてくれる。
私はそれに安堵しながら、その顔を見上げていた。
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