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42 side T
4.
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警察署から出た俺は、そのまま真っ直ぐ帰ろうと思っていたが、瑤子がどうしてもまどかと話がしたいと言うから付き合った。いや、正確には、2人で話がしたいからと、俺は別行動を強いられた。
「まあまあ、いいじゃないの。たまには女同士、つもる話もあるじゃないの」
別に蚊帳の外にされて不機嫌になったわけじゃないが、それなりに顔には出ていたようで、まどかにそう言われてしまった。
「分かってる。どっか適当に走ってくるから帰る時連絡しろ」
駐車場で分かれて、俺は当てもなく車を走らせる。まだティータイムにも早いような時間帯。どうせ、一旦喋り出したら話は尽きないだろう。
2時間は平気でかかりそうだな……
一度家に戻ってまた出ようかと考えた時、ふと最近連絡してこないヤツの顔を思い出して、ハンズフリーにしたスマホから電話を架けてみた。
『こんな真っ昼間にどうしたの~?』
電話に出るなりそう言う睦月に、「いや?お前今何やってんだ?」と尋ねる。
『し、ご、と!今現場。司こそ何か用だった?』
「用はねーな。暇つぶし中。なあ、現場って何処だ?」
『それって暇つぶしにここに来るって事だよね』
睦月は半ば呆れるような声で、溜め息と共にそう吐き出しつつも、睦月はどのスタジオにいるかを教えてくれた。
「じゃ、今から顔出す。お前が撮ってるところ、久しぶりに見てぇしな」
現場が今走っている方向と全く違うなら諦めようかと思ったが、幸いな事に進行方向のほんの15分程の場所だった。睦月には災いかも知れねーけど、と思いながらも、睦月が撮っているところを見たいって言うのは偽りじゃない。
『まぁ、そんなに暇ならおいでよ。……失恋したなら励ますから』
最後に小声で言う睦月に、「お前じゃないんだから失恋なんかしてねーよ!」と返すと「俺だって、もう失恋するのはごめんだから!」と語気を強め返して来た。
いい歳した男2人が何言い合ってんだと自分に呆れつつ電話を切り、俺はそのまま車を走らせた。
俺も何度か使った事のあるスタジオ。
その建物に入り、撮影しているだろう場所に向かうと、奥から談笑する気配がして来た。
睦月らしい現場だよな、と思う。アイツがいると場が明るくなる。人を惹きつける才能があるのは、俺よりアイツの方だと思う。本人がそれに気付こうとしないのは欠点なのかも知れないが。
「へっ?司?」
モニターの近くで睦月と話していた輪の中から、本日の主役が顔を上げてそんな声を出す。
「……そんなに笑ってたらメイク崩れるぞ。香緒」
「僕にはさっちゃんが付いてるので大丈夫です!」
何故か得意げに香緒はそう答えた。
「一体、その格好……。何度目だ」
「えーと。仕事では3度目だよ?」
そう言って香緒は、プリンセスラインのウェディングドレスの裾を持ち上げた。一応、性別は男の香緒にさすがに胸などあるはずもなく、オフショルダーではなく袖のあるタイプ。それでも何の違和感もなくそれを着こなしている。
瑤子なら、どんなドレスが似合うだろうか。何て、ふと考えてしまう。
式は挙げない、と瑤子は言うが、本当はやりたいのではないだろうか。せめてアイツの身内や友人達に見せてやりたい……。俺は柄にもなくそんな事を思ってしまった。
「やっと念願叶って睦月君に撮って貰えるんだよ!って……僕を見ながら他の人の事考えるの止めてくれるかな?」
顔を顰めながらそう言う香緒に我に帰り「悪ぃ……」と口にする。
「いいんだけどね。そんな司を見る日が来るなんて思ってなかったし」
「確かに。自分でも思ってなかったさ」
俺がそう返すと、香緒は花が綻ぶように笑う。ほんの数ヶ月前まで見せる事がなかった笑顔。今の香緒は、本当に幸せそうで、俺はそれに安堵していた。
「香緒~。セッティング終わったよ~。テスト入るね」
他のスタッフに指示を出していた睦月が俺達の元にやって来てそう言うのを、俺はニヤリと笑いながら見る。
「あ。司、今ちょっと悪い事考えたでしょ!」
俺の顔を見て引き気味に睦月がそう言うと、
「「テスト撮らせろ」」
と俺達の声が重なった。
「だと思った!そんなに暇だったの?瑤子ちゃんは一体どうしたのさ!」
「……まどかと話あるからって……。する事ねーんだよ。前はお前が俺のテスト撮ってたじゃねーか。たまには趣向を変えてみるのもいいだろ?」
渋々、溜め息を吐きながら睦月は「もー!仕方ないなぁ。こんな事、2度とないかも知れないから特別ね!」と持っていたカメラを差し出した。
「ちゃんとお前風に撮るから」
笑いながら俺がカメラを受け取ると、睦月は側に黙って立っていた綿貫に声を掛けた。
「さっちゃん。一緒にモニター見てよ?」
そう言って少し離れた場所にあるモニターに向かう2人を見て、そう言えばコイツらも顔見知りか、と何となく様子を伺う。
「ふぅん……」
それに香緒が「どうしたの?」と尋ねてくる。
「いや?何でもねーよ」
睦月が香緒と仕事を始めたのは10月のはずだ。そして、睦月が誰かの事を気にし始めたのはその後すぐ。
そう言うことか、と思いながら睦月の顔を盗み見る。
ま、いいんじゃねーの?
俺はそう思いながら、香緒の待つ場所に足を向けた。
「まあまあ、いいじゃないの。たまには女同士、つもる話もあるじゃないの」
別に蚊帳の外にされて不機嫌になったわけじゃないが、それなりに顔には出ていたようで、まどかにそう言われてしまった。
「分かってる。どっか適当に走ってくるから帰る時連絡しろ」
駐車場で分かれて、俺は当てもなく車を走らせる。まだティータイムにも早いような時間帯。どうせ、一旦喋り出したら話は尽きないだろう。
2時間は平気でかかりそうだな……
一度家に戻ってまた出ようかと考えた時、ふと最近連絡してこないヤツの顔を思い出して、ハンズフリーにしたスマホから電話を架けてみた。
『こんな真っ昼間にどうしたの~?』
電話に出るなりそう言う睦月に、「いや?お前今何やってんだ?」と尋ねる。
『し、ご、と!今現場。司こそ何か用だった?』
「用はねーな。暇つぶし中。なあ、現場って何処だ?」
『それって暇つぶしにここに来るって事だよね』
睦月は半ば呆れるような声で、溜め息と共にそう吐き出しつつも、睦月はどのスタジオにいるかを教えてくれた。
「じゃ、今から顔出す。お前が撮ってるところ、久しぶりに見てぇしな」
現場が今走っている方向と全く違うなら諦めようかと思ったが、幸いな事に進行方向のほんの15分程の場所だった。睦月には災いかも知れねーけど、と思いながらも、睦月が撮っているところを見たいって言うのは偽りじゃない。
『まぁ、そんなに暇ならおいでよ。……失恋したなら励ますから』
最後に小声で言う睦月に、「お前じゃないんだから失恋なんかしてねーよ!」と返すと「俺だって、もう失恋するのはごめんだから!」と語気を強め返して来た。
いい歳した男2人が何言い合ってんだと自分に呆れつつ電話を切り、俺はそのまま車を走らせた。
俺も何度か使った事のあるスタジオ。
その建物に入り、撮影しているだろう場所に向かうと、奥から談笑する気配がして来た。
睦月らしい現場だよな、と思う。アイツがいると場が明るくなる。人を惹きつける才能があるのは、俺よりアイツの方だと思う。本人がそれに気付こうとしないのは欠点なのかも知れないが。
「へっ?司?」
モニターの近くで睦月と話していた輪の中から、本日の主役が顔を上げてそんな声を出す。
「……そんなに笑ってたらメイク崩れるぞ。香緒」
「僕にはさっちゃんが付いてるので大丈夫です!」
何故か得意げに香緒はそう答えた。
「一体、その格好……。何度目だ」
「えーと。仕事では3度目だよ?」
そう言って香緒は、プリンセスラインのウェディングドレスの裾を持ち上げた。一応、性別は男の香緒にさすがに胸などあるはずもなく、オフショルダーではなく袖のあるタイプ。それでも何の違和感もなくそれを着こなしている。
瑤子なら、どんなドレスが似合うだろうか。何て、ふと考えてしまう。
式は挙げない、と瑤子は言うが、本当はやりたいのではないだろうか。せめてアイツの身内や友人達に見せてやりたい……。俺は柄にもなくそんな事を思ってしまった。
「やっと念願叶って睦月君に撮って貰えるんだよ!って……僕を見ながら他の人の事考えるの止めてくれるかな?」
顔を顰めながらそう言う香緒に我に帰り「悪ぃ……」と口にする。
「いいんだけどね。そんな司を見る日が来るなんて思ってなかったし」
「確かに。自分でも思ってなかったさ」
俺がそう返すと、香緒は花が綻ぶように笑う。ほんの数ヶ月前まで見せる事がなかった笑顔。今の香緒は、本当に幸せそうで、俺はそれに安堵していた。
「香緒~。セッティング終わったよ~。テスト入るね」
他のスタッフに指示を出していた睦月が俺達の元にやって来てそう言うのを、俺はニヤリと笑いながら見る。
「あ。司、今ちょっと悪い事考えたでしょ!」
俺の顔を見て引き気味に睦月がそう言うと、
「「テスト撮らせろ」」
と俺達の声が重なった。
「だと思った!そんなに暇だったの?瑤子ちゃんは一体どうしたのさ!」
「……まどかと話あるからって……。する事ねーんだよ。前はお前が俺のテスト撮ってたじゃねーか。たまには趣向を変えてみるのもいいだろ?」
渋々、溜め息を吐きながら睦月は「もー!仕方ないなぁ。こんな事、2度とないかも知れないから特別ね!」と持っていたカメラを差し出した。
「ちゃんとお前風に撮るから」
笑いながら俺がカメラを受け取ると、睦月は側に黙って立っていた綿貫に声を掛けた。
「さっちゃん。一緒にモニター見てよ?」
そう言って少し離れた場所にあるモニターに向かう2人を見て、そう言えばコイツらも顔見知りか、と何となく様子を伺う。
「ふぅん……」
それに香緒が「どうしたの?」と尋ねてくる。
「いや?何でもねーよ」
睦月が香緒と仕事を始めたのは10月のはずだ。そして、睦月が誰かの事を気にし始めたのはその後すぐ。
そう言うことか、と思いながら睦月の顔を盗み見る。
ま、いいんじゃねーの?
俺はそう思いながら、香緒の待つ場所に足を向けた。
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