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年明け最初の撮影日。
司は私の事を心配して、数日前私に来なくていいと告げた。

「大丈夫。行けるから」

そう言ったけど司は折れてくれず、茉紀さんに連絡してまで私を家に居させるように動いた。

何があったのかは、まだ話せていない。けれど司はなんとなく、何かがあっただろう事には気づいているようだった。

今日、司が帰って来たら、全部話そう。今まで言えなかった事も全部。
そう思いながら、他の仕事を片付けた。

正直、メールを開けるのも怖い。征士がいつ連絡してくるか分からないから。毎日震えながらパソコンに向かい、何も来てない事を確認しては安堵する。けれど、これすらも征士の思う壺なのかも知れないと思う。そうやって、恐怖に震える私を想像してはほくそ笑んでいるだ。

でも、私の大事な人達は、私に勇気をくれた。

夕実ちゃんとなっちゃんは、私の話を聞いて、こう言った。

「長門さんと別れるとか考えちゃだめだよ?」

私の考えている事などお見通しとばかりに夕実ちゃんは優しい顔で言う。

「そうだよ?瑤子ちゃん。長門さんは、アイツとは違う。きっと、一生瑤子ちゃんを大事にしてくれる人だと思うよ?知ってるでしょ?俺の勘はよく当たるって」

なっちゃんも、そう笑顔を浮かべて言った。

そして司は……何も言わず、ただそのままの私を受け入れてくれた。折れそうな私の心をあっという間に癒やしてくれて、そして怖くて食べることの出来ない私の身体を簡単に解きほぐしてくれた。
魔法をかけるように。

「ただいま」

司が帰って来て、笑顔でそう言ってくれる。

「お帰りなさい」

私はその顔を見て安心する。

私はあの人にはもう屈しない。何があっても。
司がいるから私はそう思う事ができるんだと、私を宝物のように抱きしめてくれる司の顔を見ながら思った。

「食えそうなもの買ってきた。食うだろ?今日撮ったデータも見るか?」

前と変わらない様子で司は私に笑いかけてくれる。私はそれが、何よりも嬉しかった。

「うん。ありがとう。撮ってきたものすぐ見れるなんて、凄い特権だね」

私が小さく笑みを浮かべて言うと、「当たり前だろ?俺はお前のために撮ってるようなもんだからな?」なんて言いながら、司は頭を撫でてくれた。

「司……あのね。あとで聞いて貰いたい話があるの」

そう言って司を見上げると、なんとなく息を飲んだのが分かる。そして、少し表情を強張らせたあと「分かった」とだけ口にした。
それから私を抱き寄せると、司はゆっくりと、私を腕の中に閉じ込めた。

司が買って帰ったのは、スープとサラダとパンがセットになったもので、私はそれを温めてテーブルに並べた。
まだ体調が戻ったとは言い難い私に、この胃に優しそうなものを選んで買ってきてくれた気遣いが嬉しかった。

たわいもない話をしながらそれを2人で食べて、それから今度は司の仕事用のパソコンの前に移動して、今日のデータを見せてもらった。

最初に聞いていたコンセプトから何もかも変わってて驚いたが、先週の打ち合わせの時に急に変えられたのだと教えられた。

「ま、生意気な担当者を黙らせてやったけどな」

笑いながら司はそう言っているが、確かに、急に変更されたとは思えない程ドラマチックな仕上がりになっていた。

「やっぱり好きだな、司の写真」

そう言って、パソコンの前に座る私の横に、屈むようにして立つ司を見上げた。

「お前にそう言って貰えるなら、写真を続けた甲斐があったのかもな」

そう言って司は目を細めながら、髪の感触を確かめるように私の頭を撫でる。

「これからも、ずっと見せてね」

願うようにそう口にすると、司は柔らかく微笑んだ。

「お前が望むなら、俺はこれからも撮り続ける。この先もずっと」

そう言って、司は私の額に唇を寄せた。

「うん。ずっと……見せてね。司の写真」

私が縋り付くように司の首に腕を回すと、司は私の背中を抱きしめてくれた。

「もちろんだ」

そう言って。


「……司……。私の話、聞いてくれる?」

私は、全てを話す決心を固めて、司にそう告げる。
本当は怖い。でも、話さなきゃって、そう思うから。自分に何があったのか。

神妙な面持ちの司は、私の決意を悟ったように頷いてから、私の手を引いてソファに移動した。
並んで座って、でも体は司の方に向けてその顔を見ると、膝に乗せていた私の手を、司はぎゅっと握ってくれた。

「何から話せばいいのか分からないんだけど……」

そう切り出すと、私はまず先週あった事を話し始めた。
あの、断るはずだった案件。それに、自分が昔付き合っていた人か絡んでいた事。そして、この仕事を受けるように脅されたこと。

「司のご実家の事もあの人は知ってて……。私の動画を送るって……」

口籠るように言うと、司は訝しげに「動画?」と尋ねた。

「その……行為中の……。私、そんなの撮られた記憶がなくて。でも、その頃の事は曖昧で……」

私が視線を外してそう言うと、握っていた司の手に力が入った。

「私、あの人と付き合ってた時、別れる直前なんて、もう惰性で生きてたから」

そう口にしてから司の顔を見ると、その瞳には憤りが現れていた。
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