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34 side T

3.

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トレーを手にリビングに戻ると、瑤子は暖炉の前でブランケットを被ったまま丸くなっている。
俺の気配を感じたのか「あ、灯りは付けないで」と声がした。
その通りにして、そのまま瑤子の元まで行くと隣に並んで座った。

「ほら」

そう言ってカップを渡すと、「ありがとう」と瑤子はそれを受け取りまた暖炉を向く。

「暖炉の火って、何か落ち着くね。何か眠たくなってきちゃう」

そう言う瑤子の顔はオレンジ色に染まり、瞳にはユラユラと炎が写し出されて揺らめいている。

「まだ寝るなよ?」

笑いながら自分のカップを持つと口を付けた。

「あったかいね」

そう言って、瑤子はこてんと俺の腕に寄り添うように凭れかかった。

「そうだな」

しばらく2人とも黙ったまま、目の前で揺らぐ炎を見つめる。そんな時間でさえ愛おしくて幸せに感じてしまう日が来るなんてな、と小さく息を漏らして笑うと、瑤子が不思議そうに俺を見上げた。

「どうかした?」
「……いーや。なんでも」

そう言ってはぐらかすと、「もー!笑ってたじゃない」と瑤子も幸せそうに笑う。

「あ、そうだ。あのね。司に渡したいものがあるの」

そう言うと、瑤子はカップをトレーに置いてゆっくり立ち上がった。
そして、最初から置いてあったツリーの元に向かった。
その下に置いてある沢山の箱の山から一つ取り出すと、それを持って戻って来た。

「これ……」

そう言って、何故か気後れするかのように俺にそれを差し出した。

「私からのクリスマスプレゼント。これくらいしか浮かばなくて、全然大したものじゃないんだけど……」

そう言う瑤子の顔は憂いを含んでいる。

「馬鹿だな。俺が喜ばないって思ってんの?」

安心させるように俺は瑤子の頭をゆっくりと撫でる。
未だに見え隠れするトラウマの一つ、なんだろうなと俺は感じた。
きっと、瑤子にトラウマを植え付けた男は、貰った物に対しても何か言っていたのだろう。

「俺はお前から貰うものは何でも嬉しいよ」

そう返しながら頬に手をやると、瑤子はその手に自分の手を重ねて俺を見た。

「その辺に落ちてる石でも?」
「ふっ。なんだよそれ?……でも、そうだな。お前が俺の為に拾って来てくれるならそれも悪くない」

ようやく安心したように「石じゃないから、開けてみて?」と瑤子は笑った。

クリスマスらしい赤と緑の包装紙を剥がし、現れた箱を開ける。

「どう……かな?」

瑤子は躊躇いがちにそう口にする。

「嬉しいよ。そろそろ欲しいと思ってた」

中には、深い臙脂色の柔らかそうなマフラーに、黒い皮の手袋が入っていた。

「大事にする」

そう言って手袋を箱から出して嵌めてみると、測ったようにピッタリだ。
上質な皮製で、柔らかくて手に馴染んで使いやすそうだ。
そう思いながら俺が手を握ったり開いたりするのを、瑤子は心配そうに眺めている。

「これなら運転してる時でも使えるかもな」
「良かった……。普段どっちもしないから、もしかしてしない主義とかかな?って心配だったの」

ホッとしている様子の瑤子に、俺は笑いながら「しない主義ってなんだよ」と明るく返す。
それからマフラーを取り出して、「巻いてくれねーの?」と瑤子に渡した。

「もう!仕方ないなぁ」

笑いながら瑤子はそれを受け取ると、俺に近づいて首にそっとそれを巻いてくれる。俺の肌に触れたその感触は、まるで瑤子の髪に触れた時のように心地よい。

「はい。どう?あったかい?」

膝立ちになった瑤子は、俺を見下ろすように笑いながら尋ねる。

「あぁ。あったけーよ。お前のくらいに」

そう言いながら背中に手を回して、俺の方に誘導するように少しだけ引き寄せる。

「何言ってるのよ!」

何が言いたいのか分かったのか、恥ずかしそうにしながらも、瑤子は俺の肩に両手を置くてゆっくり顔を近づけて来た。

「キスしてもいい?」

いつもとは反対に、俺を見下ろしたまま瑤子は俺に尋ねる。

「ダメって言ってもするんだろ?」

その答えに、小さく息を漏らして笑うと「うん」と頷いて、そのまま唇を重ねた。

いつもなら、俺からするような貪るように求めてくるキスを瑤子にされて、俺はそれに答える。

このまま押し倒したら、この前の二の舞になるんだけど

と頭の片隅で思いながら、お互いを求めて熱い吐息を絡め合う。
ようやく唇を離して、瑤子はうっとりした様な顔を俺に見せたかと思うと、そのまま俺の首にしがみついてくる。

「どうした?」

その体を抱きとめて瑤子に尋ねると、首にしがみついたまま瑤子は答えた。

「好きだなぁって実感してた」

ふふっと笑う振動が首に伝わり、俺は瑤子の背中をキツく抱きしめる。

「俺は……」

そこで一旦言葉を止めると、瑤子は「うん」と返事をする。

「愛してる。この世のどこを探しても、きっとお前以外愛せる人間なんていない」

それの返事と言わんばかりに、無言のまま瑤子は腕に力を入れた。

「なぁ。俺からも渡したいものあるんだけど、受け取ってくれるか?」

瑤子はそのままコクンと頷いて、ようやく力を緩めると俺の前に座り直した。
すでに瞳を潤ませて、泣きそうな顔をしている瑤子に、今どうしても渡さなきゃならねーものが俺にはあった。
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