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ついさっきも聞いたそのワード。
その意味を、さっきは尋ねる事無く店を後にしたから、一体何を指していたのか分からないままだ。

目の前のその人は、カップを置くと私に近づいて来た。
私より10センチほど背は高く、まるで妖精のような透明感のある顔で私を見下ろしていた。
いや、私の顔を、と言うより別のところを見ているような気がする。

どこ見てるんだろ……

何をどう尋ねればいいか分からず戸惑っていると、その人の左手がすうっと持ち上がり私の右の耳に触れる。

「これ、とっても似合ってる」
「えっ?」

体が固まったように動けないでいると、後ろから司の声が聞こえて来た。

「おいっ!何やってんだ!」

もちろん英語でそう言ったのは、この人に向けて言ったからだろう。
その人は美しい瞳を私の後ろにいるだろう司に向けると、楽しそうに笑った。
そして、不意に私を両手で抱き寄せて、耳にそのまま唇を寄せた。

「っ!!」

ツカツカと急ぐ足音と、テーブルにグラスがタンっと置かれる音が聞こえ、司が私達の間に割って入る。

「お前!何でここにいるんだ!レイ!」

司の腕に後ろから閉じ込められながら、私はその言葉を聞く。

レ……イ?

混乱し過ぎて頭が回らず呆然とその人を見ると、「あ~あ。残念」と笑いながらレイは言った。

「残念じゃねー!お前いい加減にしろ!」
「え~。だって、ツカサがEmpressを独り占めするからさ~」

悪びれる様子もなくレイはテーブルに戻り、またカップを持ち上げた。

「だから、アンも言ってたそのEm pressって一体なんなんだよ?」

司は腕を緩めて、私を横から引き寄せるようにしてテーブルに向かう。

「あぁ。アンには会ったんだ」
「お前に会いに行ったんだろーが!」

超不機嫌そうな様子で司は答えている。
司に1m以内に近寄るなって言われたそばから、すでにそれ以上に近づかれていた。それどころか、耳にキス……いや、正確には、触れたのは私の耳にあるピアスに、だった。

「あっ、そう。街歩いてたら、たまたま知り合いがこのチケット譲ってくれたんだよ。ちょうど良かったね」
「お前にたまたま何てあるわけねーだろ!どうせ分かってたんだろ?俺がここに現れるだろうって」

何か、こんな内容の会話を最近聞いた気がする。
そうだ。ミカさん達と話をした時に『アイツらに偶然はない』って言ったのは司だ。そのアイツらとは、アンとレイの事だったんだ。

そういえば、アンが眺めていたカード。
あれは、タロットカード……だった。
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