143 / 247
33
3.
しおりを挟む
目の前にあった缶を開けると、そこには色とりどりのアイシングクッキーが入っていた。
クリスマスがモチーフのようで、ツリーやサンタの姿がある。
司は顔を顰めて「やっぱりこれかよ……」と呟いていた。
見た目は可愛いが、食べたらちょっと甘そうだなぁと思いながらそれを眺めた。
「食べるか?」
缶を差し出され、せっかくだからと一つ詰まむ。それを一口齧ると、意外と甘過ぎなくて美味しい。
「美味しいよ?」
私がそう言うと、「なら良かった」と司は答える。
そういえば、司がチョコレートの入っているお菓子以外を食べているところを見たことがないような気がする。
私もそうお菓子の買い置きをする方でもないし、もしかしたらクッキー自体あまり好きではないのか、とその顔を見て思った。
「こっちじゃ、クリスマスと言えばクッキーなんだ」
コーヒーを口に運びながら、司はポツポツとこっちでのクリスマスの話を始めた。
懐かしそうに、オーナーさんやこっちの友人達と過ごした思い出話をする司に耳を傾ける。
そこにはだいたい岡田さんが現れて、岡田さんの事が正直羨ましい。ずっと間近で司の事見てたんだなって、少しだけ妬けた。
コーヒーブレイクも終わり、そろそろ荷物を片付けようと、スーツケースを持って部屋を移動する。
連れて行かれた主寝室は、予想通りの広い部屋。
日本のものより大きいキングサイズのベッドに、こっちでは当たり前だと言う部屋に付いているバスルーム。
前住んでた家より広そうだ……
とその部屋を眺めて私は思った。
気を取り直して、続きのウォークインクローゼットに向かう。
すでに司はそこで荷物を広げていた。
今の家で、こうやって荷物を広げていた司を見たのは、まだほんの3ヵ月と少し前。でも、なんだかすでに懐かしい。
そして、その時と一つ違うのは、司が出している荷物をケースに詰めたのは私だと言う事だ。
最初は自分でやると頑張っていた司だけど、入れたいものが全部入らないと頭を抱え出し、見かねて私は手を出した。
とりあえず一旦全部出して入れ直すと、何とか全部入り少しだけスペースが空いた。
「……何で?」
魔法でも見せられたように、司が目を丸くして私を見て言う。
「コツあるのよ!」
そんな風にして入れた荷物を今は出しているが、そこには入れた覚えのないものが積み上げられていた。
「何?これ?」
タワーのようになっているそれに近づいて確かめてみると、すぐに何か分かった。
それは全部、レンジで温めると食べられるご飯のパックだった。
「いつの間にこんなの入れたの?と言うか、いつ買ったの?」
3個が1つにパックされたそれが、5つは積まれている。
大抵一緒に買い物行くから、何を買ったのか知ってるつもりだったけど、こんなにたくさん司が買っていた覚えはない。
「これか?睦月からの餞別。絶対にご飯が恋しくなるだろうからって」
さも当たり前のように言いながら、司は衣類を出している。
「え?そんな?10日程だよ?」
私が目を丸くしながら言うと、司は真顔でこちらを向いた。
「あめーな。6年前にこっちに住み始めた時、睦月は3日、さすがの俺も1週間でギブだった。本当、あの時ばかりは自分が日本人なのを実感したぞ?」
確かに……毎日当たり前にご飯を食べている。1日食べない事はあっても、何日もお米を食べないなんて、そう言えば経験した事はない。
「でも、こっちにもお米売ってるんじゃないの?日本食のスーパーあるって聞くし」
私がそう尋ねると、司は「この家に炊飯器はねーぞ」と答えた。
言われてみれば、日本の家庭には当たり前にあるものが、アメリカの家庭にあるとは限らない。
「そっか。そうだよね。でも、6年前はどうしたの?」
「さすがに炊飯器買いに行ったんだけどさ。日本のメーカーの売ってるなんて知らなかったから、普通にこっちのやつ買ってきたんだよ。そしたら、食べられねーことはないけど、これじゃねーってのが出来上がった」
笑いながらそう司は言うが、それは何というか……かなりお気の毒様だ。
「だから、お前が困らねーようにって睦月が持って来た。ちなみにこれもあるぞ?」
そう言って司は袋に入った何かを私に差し出した。
受け取って中を見ると、そこには小さくパッケージされたインスタントのお味噌汁の素が入っていた。
「岡田さん……ほんと、気が利く人だねぇ……」
私がしみじみ言うと、少し呆れたように司は口を開く。
「アイツは、誰にでもそうだからダメなんだ」
「なんで?」
そこで司は少し溜め息を吐いた。
「あのな。俺がお前にやるような事を他の奴にもやってたらどう思う?」
「それはー……ちょっと嫌かも」
私にも、ちょっとした独占欲くらいある。目の当たりにしてるから分かる、私とそれ以外の人に対する差。けど、その差を無くすと言われたら、さすがに嫌だ。
「睦月には特別感ねーんだよ。だからアイツはいつも振られるんだ」
確かに、岡田さんは誰に対しても態度を変える人じゃないけど、付き合っている相手にも同じとなると、さすがにその相手に同情したくなった。
クリスマスがモチーフのようで、ツリーやサンタの姿がある。
司は顔を顰めて「やっぱりこれかよ……」と呟いていた。
見た目は可愛いが、食べたらちょっと甘そうだなぁと思いながらそれを眺めた。
「食べるか?」
缶を差し出され、せっかくだからと一つ詰まむ。それを一口齧ると、意外と甘過ぎなくて美味しい。
「美味しいよ?」
私がそう言うと、「なら良かった」と司は答える。
そういえば、司がチョコレートの入っているお菓子以外を食べているところを見たことがないような気がする。
私もそうお菓子の買い置きをする方でもないし、もしかしたらクッキー自体あまり好きではないのか、とその顔を見て思った。
「こっちじゃ、クリスマスと言えばクッキーなんだ」
コーヒーを口に運びながら、司はポツポツとこっちでのクリスマスの話を始めた。
懐かしそうに、オーナーさんやこっちの友人達と過ごした思い出話をする司に耳を傾ける。
そこにはだいたい岡田さんが現れて、岡田さんの事が正直羨ましい。ずっと間近で司の事見てたんだなって、少しだけ妬けた。
コーヒーブレイクも終わり、そろそろ荷物を片付けようと、スーツケースを持って部屋を移動する。
連れて行かれた主寝室は、予想通りの広い部屋。
日本のものより大きいキングサイズのベッドに、こっちでは当たり前だと言う部屋に付いているバスルーム。
前住んでた家より広そうだ……
とその部屋を眺めて私は思った。
気を取り直して、続きのウォークインクローゼットに向かう。
すでに司はそこで荷物を広げていた。
今の家で、こうやって荷物を広げていた司を見たのは、まだほんの3ヵ月と少し前。でも、なんだかすでに懐かしい。
そして、その時と一つ違うのは、司が出している荷物をケースに詰めたのは私だと言う事だ。
最初は自分でやると頑張っていた司だけど、入れたいものが全部入らないと頭を抱え出し、見かねて私は手を出した。
とりあえず一旦全部出して入れ直すと、何とか全部入り少しだけスペースが空いた。
「……何で?」
魔法でも見せられたように、司が目を丸くして私を見て言う。
「コツあるのよ!」
そんな風にして入れた荷物を今は出しているが、そこには入れた覚えのないものが積み上げられていた。
「何?これ?」
タワーのようになっているそれに近づいて確かめてみると、すぐに何か分かった。
それは全部、レンジで温めると食べられるご飯のパックだった。
「いつの間にこんなの入れたの?と言うか、いつ買ったの?」
3個が1つにパックされたそれが、5つは積まれている。
大抵一緒に買い物行くから、何を買ったのか知ってるつもりだったけど、こんなにたくさん司が買っていた覚えはない。
「これか?睦月からの餞別。絶対にご飯が恋しくなるだろうからって」
さも当たり前のように言いながら、司は衣類を出している。
「え?そんな?10日程だよ?」
私が目を丸くしながら言うと、司は真顔でこちらを向いた。
「あめーな。6年前にこっちに住み始めた時、睦月は3日、さすがの俺も1週間でギブだった。本当、あの時ばかりは自分が日本人なのを実感したぞ?」
確かに……毎日当たり前にご飯を食べている。1日食べない事はあっても、何日もお米を食べないなんて、そう言えば経験した事はない。
「でも、こっちにもお米売ってるんじゃないの?日本食のスーパーあるって聞くし」
私がそう尋ねると、司は「この家に炊飯器はねーぞ」と答えた。
言われてみれば、日本の家庭には当たり前にあるものが、アメリカの家庭にあるとは限らない。
「そっか。そうだよね。でも、6年前はどうしたの?」
「さすがに炊飯器買いに行ったんだけどさ。日本のメーカーの売ってるなんて知らなかったから、普通にこっちのやつ買ってきたんだよ。そしたら、食べられねーことはないけど、これじゃねーってのが出来上がった」
笑いながらそう司は言うが、それは何というか……かなりお気の毒様だ。
「だから、お前が困らねーようにって睦月が持って来た。ちなみにこれもあるぞ?」
そう言って司は袋に入った何かを私に差し出した。
受け取って中を見ると、そこには小さくパッケージされたインスタントのお味噌汁の素が入っていた。
「岡田さん……ほんと、気が利く人だねぇ……」
私がしみじみ言うと、少し呆れたように司は口を開く。
「アイツは、誰にでもそうだからダメなんだ」
「なんで?」
そこで司は少し溜め息を吐いた。
「あのな。俺がお前にやるような事を他の奴にもやってたらどう思う?」
「それはー……ちょっと嫌かも」
私にも、ちょっとした独占欲くらいある。目の当たりにしてるから分かる、私とそれ以外の人に対する差。けど、その差を無くすと言われたら、さすがに嫌だ。
「睦月には特別感ねーんだよ。だからアイツはいつも振られるんだ」
確かに、岡田さんは誰に対しても態度を変える人じゃないけど、付き合っている相手にも同じとなると、さすがにその相手に同情したくなった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
289
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる