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「えっ?ミッシェルさんとはそんな出会いだったんですか?」

撮影は無事終わり『良かったら食事でも』と誘われて来たのはミッシェルさんが泊まるホテルにあるレストランの個室。
そこで私は司との出会いを聞いて驚いていた。

「あ、みか・・と呼んで下さい。私の本名です。私も瑤子さんと呼ばせていただきますね」

そう言って画面越しで見ていた人にニッコリと笑われると現実感がまるでないが、司が私をそこから引き戻した。

「いや、お前の本名はみかじゃねーだろ」

そう言う司に、ミッシェルさん……もとい、みかさんは「お兄さんは黙っててください!」と容赦なく言った。

みかさんは、司と知り合った時に名前も教えて貰えなかったとかで、その時に呼んでいた『お兄さん』呼びが抜けないらしい。
司の方はそんなみかさんを見て、「そー言うとこ変わってねーな」と懐かしそうに笑った。

「それにしても……みかちゃん。本当に、あの時偶然にあのお店に入って良かったね」

話題を変えるようにそう言いながら、ニコニコとみかさんに笑顔を向けたのは、みかさんのマネージャーで旦那様の大塚おおつか直也なおやさんだ。

「あの店?」

私が不思議に思い尋ねると、みかさんが口を開いた。

「私達、結婚指輪を買おうと思って、ニューヨークの街をブラブラしてたんです。そこで見つけたジュエリーショップがあって……。そこのオーナーがお兄さんのこと、教えてくれたんです」

さすがに飛躍しすぎてて、いまいち話が見えない。頭の中にハテナを飛ばしていると、直也さんが笑いながら説明してくれた。

「みかちゃん、そのお店の中でカバンの中身をぶちまけたんです。それをオーナーさんが拾ってくれた時にみかちゃんが持ってた雑誌の切り抜きを見て、それを撮ったのが長門さんだと教えて貰ったんです」

私は唖然としながらその話を聞く。偶然にしては出来過ぎで、まるでドラマのようだ。けれど、司だけはそれが当たり前のような顔をして聞いていた。

「まあ、あいつら・・・・に偶然なんて存在しねーしな。呼ばれるべくして呼ばれたんだろ?」

一人だけ納得したように司はそう言った。

「2人とも、お兄さんには近いうちに会えるって言ってたんですけど、そんな予定あるんですか?」

みかさんがスパークリングワインを飲みつつ司に尋ねる。それを聞いた司は、思い切り顔を顰めていた。

「アイツらにはまだ何も言ってねーんだけどな。さすがだな。怖ぇーわ」

珍しく引き気味な司の様子に、私だけ置いてけぼりのような気がする。なんだか、みかさんも直さんも、司のその台詞をなんとも思っていないようだ。

「ねえっ、それってどう言うこと?」

どうしても気になって隣に座る司に小声で尋ねる。

「ん?あー……。今話に出てたショップのオーナーのパートナー。占いが趣味なんだよ」
「占い⁈」

まさか占いの話なんて思わず、そう声を上げてしまう。

「タロットってやつ。あいつ、趣味だっつーわりに怖ぇーくらい当ててくるんだよ」

色々と心当たりがあるのか、司は何かを思い出しているような顔を見せた。

「まあ、彼女の占いは当たりますよね。私も新居決めるの手伝ってもらいました」

そう嬉しそうに言うみかさんに「へー。あいつ、占うか占わないかもタロットで決めてるだろ。中々すんなり占わねーんだけどな」なんて、感心していた。

少しばかりオカルトじみた、非現実的な話を司が信じるなんてちょっと意外に思いながら、私はその話を聞いていた。

「それより、お兄さんはいつニューヨークに来るんですか?良かったらうちに遊びに来ませんか?ね?直くん!」
「はい。大歓迎です。良かったらもっと話を聞かせてもらえないですか?」

みかさんも直さんも目を輝かせて司を誘う姿に、本当にそう思ってくれてるんだな、って感じた。

「結構すぐだぞ?今年の年末年始だし」
「そんなにすぐ?楽しみだねっ!直くん!」

直さんに子供のように無邪気に言っている姿に、なんだか可愛いなぁ、と親近感が湧いた。そして、その様子を微笑ましく見ていると、不意にみかさんはこちらを向いた。

「もちろん瑤子さんも一緒ですよね?」

私は司のマネージャーとしか言っていないのに、やっぱり分かってしまうのか……と頭を抱えてしまいそうになる。

「あぁ。そんな顔しないで下さい。これも占いで教えて貰ったんで」

そう言って微笑むみかさんに、私の顔は引き攣るばかりだった。

みかさんたちと連絡先を交換して、またの再会を約束して私達は彼女達の泊まるホテルを後にした。

最初こそハリウッド女優だと緊張もしたが、最後にはすっかり打ち解け、私達はまるで姉妹みたいな雰囲気になっていた。

「凄く気さくないい人達だったね」

駐車場に置いてあった車に乗り込んで、シートベルトをしながら私は司に笑顔を向けて言った。

「まぁ……そうだな。みかは昔よりは明るくなってたかもな」

そう言って司は私の座る助手席の前にあるダッシュボードを開ける。

「ほら。手、出せ」

ケースから私の指輪を出すと、司は当たり前の様に私に言う。
仕事場にはしていけない自分の指輪を、車で外して置いておくのがすっかりルーティンになっている。しかも、仕事が終わり車に乗ると、それを司が私に付けるところも込みで。

「にしても……私、てっきり司はすぐにでも婚姻届出しに行こうって言い出すのかと思ってた」

私の指に指輪を嵌め終わり、私を見る顔は少し不満そうだ。

「あのなぁ……。そんな事出来るならとっくにやってるだろーが。俺はこう見えて結構思慮深いんだ」
「思慮深い……」

司の口から意外な言葉が飛び出して、私は思わず反芻してしまう。

「お前もかよ。ったく、一体俺はどんな男だよ」

今日あった色んなやりとりを思い出すかのように司は顔を顰めて言った。

「俺様のドSだと思ってた……」

本当はそれだけじゃないって知ってるけど、ついうっかりそう口に出してしまった。

「ふーん……」

まだ私の前にある美しい顔が、楽しげだけど意地悪そうに微笑む。

「帰ったら覚悟しとけよ?」

それだけ言うと、唇に軽く触れて司は運転席に戻った。

「なっ!何を⁈私、明日も打ち合わせ!」

私は慌てて言うが、司の方はシートベルトをしながら笑っている。

「俺様のドSに何言っても無駄じゃね?」

そう言いながら司は車のエンジンをかけた。

ちょっとばかり……自分の失言を反省しながら、私は項垂れて家に帰った。
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