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24 side T

4.

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エレベーターの階数表示を見上げると、一階に止まっている。そのまましばらくその行き先眺めたが、他のエレベーターを含めてバーのある階に向かうエレベーターは無かった。

誰だ……?

今まで会った事があるなら覚えているはずだ。だが、記憶の中にあんな雰囲気の男はいない。と言う事は、俺の事を一方的に知っていると言う事か。

様子を見るようスタッフに頼んでいて良かった。そう思いながらも足早に荷物を入れたスーツケースを車から出し、一階のフロントでそれを預けキーを受け取ると、すぐに瑤子の元へ向かった。

「お帰りなさいませ」

さっきのスタッフに出迎えされ、俺は変わった事はないか尋ねるが、「特には何もございませんでした」と返事が返って来て安堵した。その場で会計を部屋付けにしてから俺は席に向かう。

窓には、その向こう側を眺めている瑤子の顔が映っていた。そして、そこに映る俺の姿を見つけたのか後ろを振り返った。

「お帰り。早かったね」

いつもの顔で笑いかけられて、心底ホッとする。さっきのヤツは、ただ何か言いたかっただけなんだろうか。たまたま俺を見かけて声を掛けただけ……。

辺りを見回してもその姿は無く、あいつの帰りに偶然同じエレベーターに乗り合わせた。そう思いたい。

「もういいか?」

席に座る事なく瑤子に尋ねると、

「うん。結構飲んだから酔ったかも」

なんて少しだけ紅く染まった顔で笑う。

「そんな訳ないだろ?」

そう言いながら手を差し出すと、瑤子は俺の手を取った。

「私だって酔う事くらいあるんだから!」
「はいはい。じゃあ行くぞ」

軽口を叩きながらも、繋いだ手を握りしめ出口に向かう。

エレベーターホールにはさっきとは打って変わって数人の客がいて、さっきの男とは明らかに接点の無さそうな雰囲気だったので安心して到着したエレベーターに乗る。と言っても、結構すぐ降りることになるが。

バーから数階降りたフロアに降り立ち、部屋に向かって進む。

「えっ?まさか……」
「そのまさか、だ」

カードキーを挿してドアを開けて、部屋の明かりをつける。見慣れているようで、やはり整然とした部屋を見ると別の場所のようにも思う。

「つい最近までここに住んでたはずなのにもう懐かしいな」
「だね」

そう言って瑤子は窓際に向かい、俺は冷蔵庫に向かうと炭酸水を取り出す。俺はその場で蓋を開けて喉を潤すと、ソファーの前にあるテーブルにそれを置いてから窓の外を見る瑤子の隣に並んだ。

「何か、季節が変わると外の雰囲気も変わるんだね」

俺の方を見上げて無邪気に笑う瑤子の顔に俺は両手を添えると、そのまま黙って唇を重ねた。
焦らす様に軽く触れるだけのキスを何度か繰り返してから瑤子の顔を見る。

「何?物足りない?」

その顔を見て笑いながらそう言うと、言い当てられたからか恥ずかしそうに顔を赤らめる。
黙ったまま瑤子は俺の腕の下から背中に手を回し、ギュッとしがみついてくる。

「司はずるいよ」
「何が?」

俺も腕の中に瑤子を閉じ込めて、頭を後ろから撫でる。

「だって……」

そこまで言うと一呼吸置き、意を決したように続きを口にする。

「その姿、もの凄く似合ってる。格好良すぎて一緒に歩くだけで緊張したんだよ?」

全く予想していなかった突拍子もない内容に、俺は肩を揺らして笑ってしまう。

「なんだよそれ?あー、ほんとお前は可愛いな」
「もう!そんなに笑わないでくれる?」

胸の中から真上を見るように、俺の顔を見上げて瑤子がむくれているのを見ながら俺は額にキスを落とす。

「俺は、お前が綺麗すぎて、連れ歩いて自慢したいのが半分、誰にも見せたくないってのが半分だな」

そう言って顔の至るところに唇で触れていく。くすぐったそうに顔を顰めながらも、俺にされるがままそのキスを受けてくれる。

「あのね……。一つお願いがあるんだけど」

躊躇いがちにそう口にする瑤子の耳に唇を付けて、「なんだ?」と囁くと、反応するように肩が揺れる。

「……写真……」
「写真?」
「撮らせて!司の!」
「は?俺?」

そう言えば、俺は撮られる事は少ない。撮らせる相手もせいぜい希海か睦月で、ほぼ練習台。こんなにストレートに撮らせてなんて言われる事はまあ、稀だし撮らせた事もないかも知れない。

「いや……その……」

つい口籠ると、不思議そうに瑤子は俺を見てから、何かを察したように意味深な顔して笑う。

「分かった!写真撮られるの苦手なんでしょ?」

さすがにバレたか

「あー、そうだよ。ほんと、撮られるやつの気が知れねーくらい苦手。皆よくあんな平気な顔して撮られてるなーって思ってる」

ふふっと笑いながら、瑤子は俺の腕を引く。

「はいはい。とりあえずここ座って」

そう言って瑤子はソファーまで俺を引っ張って行き、そこに座らせられる。それから自分のバッグに向かい、スマホを取り出して来た。

「ほんとに撮るのか?」

前屈み気味になり自分の膝で腕を支えながら頬杖をついてその様子を眺めてそう言う。

「だって!もしかしたらそんな姿の司、もう2度と見られないかも知れないじゃない!」

さも当たり前みたいな顔で、そう言ってから瑤子は少し離れて俺の前に立つとスマホを向ける。

「はーい!笑って笑って~」

そう言う瑤子に俺は一言言う。

「笑えるか!」
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