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20 side T
2.
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結局、瑤子は本当に睦月に話を聞くと、家に帰るなり睦月の家へ行こうとした。
「連絡先知らないから、直接行った方が早いと思って」
なんてシレッと言われて、
「はぁ?お前、よく1人で男の家に行こうとするな?」
と返したが、
「私のこと信用してないの?」
と真顔で返ってきた。
「……して、ます」
真面目に答えながらも、相当怒ってんなーと、仕方なく睦月を呼び出した。もちろん睦月は二つ返事で飛んできて、今家にいる。
ダイニングテーブルに向かい合わせに座って2人が話をしているのを、俺は不貞腐れ気味になりながら、缶ビール片手にリビングのソファから眺めた。
なんせ、『今は岡田さんだけに話し聞きたいから司はあっちへ行ってて!』なんて言われてしまったからだ。
あっち行ってとか子どもかよ……
だが、これ以上怒らせたら本当に契約書を破り捨てられそうで、渋々それに従った。
真剣な眼差しを睦月に向けながら、時々何かを書き留めている。
時折楽しげに2人で笑い合いながら、瑤子が睦月を見る姿に、正直モヤモヤはする。
自分のことを信じてくれと言いながら、自分自身はこの体たらく。
それに、自分のことは棚に上げて何言っているんだか。
多分これから、こんなのはまだ可愛げがある方だと瑤子に思わせてしまうような場面を見せる事になるだろう、と思う。
「司、も~い~よ~」
椅子に座ったまま体をこちらに捻って睦月がそう言う。
かくれんぼじゃねーよ……
俺は冷蔵庫に向かい、冷えたビールを2本取り出すと、瑤子と睦月に差し出した。
「お、サンキュー!」
睦月は受け取ると早速開けて口を付けている。
俺が瑤子の横に座わると、睦月が感心したように口を開いた。
「それにしても、瑤子ちゃん勉強熱心だね~。司の傾向と対策はもう充分じゃない?」
「それは岡田さんが教えてくれたからで。とっても参考になりました」
とってもを強調しながら瑤子はにっこりと笑う。
「悪かったな。俺は参考にならなくて!」
憎まれ口を叩くように言うと、睦月が「まあまあ」と諫めるように言った。
「自分の事って、意外と自分で分からないもんだしさ。その点俺は10年以上も近くで見てたからね。司の事はよ~く知ってるよ?」
したり顔でそう言う睦月に
「なんだよそれ」
と返しながら缶ビールの残りを飲み干す。
「ま、今度試しに司の嫌いな食べ物出してみてね?瑤子ちゃん」
「そんなもんねーよ」
「だから、意外と気付いてないの!」
そう言って睦月はくしゃっとした顔で笑って見せた。
◆◆
10月1日、金曜日。
朝から普通の時間に起きた瑤子は、
「いつもの時間に事務所行かないってソワソワする~」
と言いながら、いつもの始業時間になるとダイニングテーブルでパソコンを立ち上げていた。
俺も同じように斜め向かいに座り、ノートパソコンを開く。
「そういえば……。司に直接行くメールって結構あるの?」
ふと、パソコンの画面に視線を落としたままの瑤子に尋ねられる。
「あー、海外から来たヤツはそっちに転送してないからな。未だにまぁまぁ来てる」
こちらもパソコンに表示されているメールを眺めながら答えた。
「そうなんだ……」
「ま、むこうのは基本お断りだ。返事は楽でいいけどな」
と言いながらも、たまに依頼以外のメールも混ざっているから、一応ちゃんと全部に目は通している。
「こっちに送ってくれていいのに」
そう言って瑤子が顔を上げて不思議そうにこっちを見た。
「いや、全部英語だぞ?」
「あぁ。そっか」
腑に落ちたようにそう言うと、
「ビジネス英語は難しいかもなぁ……」
と呟いた。
「お前、もしかして英語出来るのか?」
「一応大学では英語専攻してたんだけど……。社長からは聞いてないの?」
「聞いてねーよ!じゃあ今から転送するメールに返事書いて俺に送ってみて」
俺は、今見ていたどうでもいい内容のメールを瑤子に転送する。
瑤子はそれを読んでしばらく「うーん……」と呟きながら、キーボードを打ち始めた。
ものの5分で返事が返って来た。
「どう……かな?」
恐る恐る瑤子は俺に尋ねてくる。
「クソッ。淳一が言わなかったのワザとだな!これで充分、と言うか申し分ねーよ」
つくづく、コイツは俺の想像を軽く超えてくる。
前々から仕事の要領は良さそうだったし、俺が何も言わなくても必要な資料を付けてくるような気も回る。
だが、淳一が仕事量を考えて向こうからの分は除外したんだろう。どうせ断るだけだし。
けれど、その断るだけのメールも、結構億劫ではある。
今はそれなりに溜まっていたメールにうんざりしていたところだった。
「あのさ、こっちの分も処理してもらっていいか?全部さっきと同じ返事で構わねーから」
キーボードを叩く瑤子にそう声を掛ける。
「いいわよ?他にする事あるならそっち優先して?」
そう言われて、俺は遠慮なく瑤子にメールを転送した。
しばらくすると、
「ちょっとこの量何⁈」
驚いたように声を上げて、瑤子は俺を睨んでいた。
「悪い悪い」
「悪いって思ってないでしょうが!!」
瑤子はそう言って怒っているが、そんな顔すら可愛いなぁ……と思ってしまう自分がいた。
「連絡先知らないから、直接行った方が早いと思って」
なんてシレッと言われて、
「はぁ?お前、よく1人で男の家に行こうとするな?」
と返したが、
「私のこと信用してないの?」
と真顔で返ってきた。
「……して、ます」
真面目に答えながらも、相当怒ってんなーと、仕方なく睦月を呼び出した。もちろん睦月は二つ返事で飛んできて、今家にいる。
ダイニングテーブルに向かい合わせに座って2人が話をしているのを、俺は不貞腐れ気味になりながら、缶ビール片手にリビングのソファから眺めた。
なんせ、『今は岡田さんだけに話し聞きたいから司はあっちへ行ってて!』なんて言われてしまったからだ。
あっち行ってとか子どもかよ……
だが、これ以上怒らせたら本当に契約書を破り捨てられそうで、渋々それに従った。
真剣な眼差しを睦月に向けながら、時々何かを書き留めている。
時折楽しげに2人で笑い合いながら、瑤子が睦月を見る姿に、正直モヤモヤはする。
自分のことを信じてくれと言いながら、自分自身はこの体たらく。
それに、自分のことは棚に上げて何言っているんだか。
多分これから、こんなのはまだ可愛げがある方だと瑤子に思わせてしまうような場面を見せる事になるだろう、と思う。
「司、も~い~よ~」
椅子に座ったまま体をこちらに捻って睦月がそう言う。
かくれんぼじゃねーよ……
俺は冷蔵庫に向かい、冷えたビールを2本取り出すと、瑤子と睦月に差し出した。
「お、サンキュー!」
睦月は受け取ると早速開けて口を付けている。
俺が瑤子の横に座わると、睦月が感心したように口を開いた。
「それにしても、瑤子ちゃん勉強熱心だね~。司の傾向と対策はもう充分じゃない?」
「それは岡田さんが教えてくれたからで。とっても参考になりました」
とってもを強調しながら瑤子はにっこりと笑う。
「悪かったな。俺は参考にならなくて!」
憎まれ口を叩くように言うと、睦月が「まあまあ」と諫めるように言った。
「自分の事って、意外と自分で分からないもんだしさ。その点俺は10年以上も近くで見てたからね。司の事はよ~く知ってるよ?」
したり顔でそう言う睦月に
「なんだよそれ」
と返しながら缶ビールの残りを飲み干す。
「ま、今度試しに司の嫌いな食べ物出してみてね?瑤子ちゃん」
「そんなもんねーよ」
「だから、意外と気付いてないの!」
そう言って睦月はくしゃっとした顔で笑って見せた。
◆◆
10月1日、金曜日。
朝から普通の時間に起きた瑤子は、
「いつもの時間に事務所行かないってソワソワする~」
と言いながら、いつもの始業時間になるとダイニングテーブルでパソコンを立ち上げていた。
俺も同じように斜め向かいに座り、ノートパソコンを開く。
「そういえば……。司に直接行くメールって結構あるの?」
ふと、パソコンの画面に視線を落としたままの瑤子に尋ねられる。
「あー、海外から来たヤツはそっちに転送してないからな。未だにまぁまぁ来てる」
こちらもパソコンに表示されているメールを眺めながら答えた。
「そうなんだ……」
「ま、むこうのは基本お断りだ。返事は楽でいいけどな」
と言いながらも、たまに依頼以外のメールも混ざっているから、一応ちゃんと全部に目は通している。
「こっちに送ってくれていいのに」
そう言って瑤子が顔を上げて不思議そうにこっちを見た。
「いや、全部英語だぞ?」
「あぁ。そっか」
腑に落ちたようにそう言うと、
「ビジネス英語は難しいかもなぁ……」
と呟いた。
「お前、もしかして英語出来るのか?」
「一応大学では英語専攻してたんだけど……。社長からは聞いてないの?」
「聞いてねーよ!じゃあ今から転送するメールに返事書いて俺に送ってみて」
俺は、今見ていたどうでもいい内容のメールを瑤子に転送する。
瑤子はそれを読んでしばらく「うーん……」と呟きながら、キーボードを打ち始めた。
ものの5分で返事が返って来た。
「どう……かな?」
恐る恐る瑤子は俺に尋ねてくる。
「クソッ。淳一が言わなかったのワザとだな!これで充分、と言うか申し分ねーよ」
つくづく、コイツは俺の想像を軽く超えてくる。
前々から仕事の要領は良さそうだったし、俺が何も言わなくても必要な資料を付けてくるような気も回る。
だが、淳一が仕事量を考えて向こうからの分は除外したんだろう。どうせ断るだけだし。
けれど、その断るだけのメールも、結構億劫ではある。
今はそれなりに溜まっていたメールにうんざりしていたところだった。
「あのさ、こっちの分も処理してもらっていいか?全部さっきと同じ返事で構わねーから」
キーボードを叩く瑤子にそう声を掛ける。
「いいわよ?他にする事あるならそっち優先して?」
そう言われて、俺は遠慮なく瑤子にメールを転送した。
しばらくすると、
「ちょっとこの量何⁈」
驚いたように声を上げて、瑤子は俺を睨んでいた。
「悪い悪い」
「悪いって思ってないでしょうが!!」
瑤子はそう言って怒っているが、そんな顔すら可愛いなぁ……と思ってしまう自分がいた。
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