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18 side T

3.

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案内された個室に向かい合って座ると、料理の品書きは瑤子に渡して、俺はアルコールの方を眺める。

一見すると普通の店に見えて、酒の種類を見ると中々にこだわりはあるらしい。
全ての飲み物は数種類用意があり、どれも魚に合いそうなものが揃っていた。

瑤子の方は、目の前で目を輝かせて「どれにしよう?あー、これもいいな~」なんて1人で呟いている。

「決まった?」

俺がそう尋ねると、瑤子はパッと顔を上げた。

「司は好きなものないの?」
「ない」
「嫌いなものは?」
「それもない」

俺が即答すると、瑤子は眉を下げて「それじゃ困るんだけど……」と言う。

「お前の好きなもの頼めばいいだろ?」
「えー?何かそれも申し訳ないと言うか。あえて言うなら、みたいなものないの?」

困ったような表情のまま尋ねてくる瑤子の顔を、頬杖をついたままじっと眺めて俺は口を開く。

「俺が好きなものは……お前」

シレッとそう言うと、しばらく間が空き、

「……。そんな事、今聞いてないっっ!!」

と、みるみるうちに顔を上気させて瑤子が叫ぶ。

「はははっ!本当に揶揄い甲斐あるな!」

俺が声を上げて笑いながらそう言うと、

「もう知らないっ!!」

と瑤子は怒りながらそっぽを向いた。

「ま、嘘ではないからな」

畳み掛けるようにそう言うと、瑤子は俯き「分かってるわよ……」と呟いた。

そうこうしているうちに、割烹着を来た年配の女性がやって来て、それぞれ適当に注文した。

先に白ワインのグラスが目の前に置かれる。瑤子も同じものでいいと言うから2つ。
俺はそれを持ち上げて目の高さに掲げると、「じゃ、何に乾杯する?」と尋ねた。

「えっと……。お部屋の片付けお疲れ様?」

瑤子も同じようにグラスを掲げてそう言う。

「部屋見たのか。じゃあそれで」

俺がそう言うと瑤子は続けた。

「あとは……。今更だけど、お帰りなさい」

おずおずと首を傾けて言うその顔に、俺も目を細めながら答える。

「……ただいま」

瑤子もふわりと微笑み、グラスを軽く合わせるとワインを口に含んだ。

料理が運ばれてくると、瑤子は小さな歓声を上げる。
子供のようにワクワクした顔で、「ねっ?食べていい?」なんて尋ねながら。

「どうぞ?好きなだけ」

ずっと頰杖をついたまま、「このイカ!むちゃくちゃ甘い~!」とか「このサンマのお刺身ヤバイっっ」とか言いながら燥ぐ瑤子の顔を俺は眺めた。

本当に……旨そうに食うな

微笑ましくそう思っていると、瑤子が顔を上げる。

「何?どうかした?」
「いや?旨そうに食うなって見てただけ」

その言葉に、瑤子は少しだけ視線を外すと

「そう見えてるなら……良かった」

と安心したように呟いた。

「で、考えてくれた?」

しばらく食事をしながら取り留めもない話をして、酒もいい感じに入った頃。
俺が唐突にそう言うと、何の事?みたいな顔して瑤子はこちらを見た。

「何とか3日で片付けた。まぁ、結局お前に手伝って貰ってたけどな」

瑤子は何も言わないが、本のタワーはいつの間か棚に収められていたし、適当に入れた服の山も、キチンとクローゼットとチェストに並べられていた。

「このまま、うちに住んでくれる?」

俺は真剣にそう伝える。
その視線に応えるように、真っ直ぐに瑤子はこちらを見ていたが、戸惑ったように瞳が揺らいで瞼を伏せた。

「……嫌……か?」

瑤子はそのままふるふると首を振ると、「嫌じゃないよ」と小さく言った。

「ただ……このまま貴方に溺れていきそうで、ちょっと怖いなって」

アルコールにもほとんど染まっていなかった白い肌が、そこですうっと紅をさす。

俺は無言で立ち上がり、瑤子の方に回る。ゆったりとした2人掛けの木のベンチ。俺が並ぶと少し窮屈になった。

ここが完全個室で良かったかも知れない。多分大勢の目があっても、この状況なら同じを事していたはずだから。

隣にやって来た俺に、何事かと見上げたその唇を無理やり塞いだ。

「⁈」

お構いなしに左手で腰を引き寄せ、右手は瑤子の後頭部を固定した。

「ふっっ!ぅ……っ」

お互い何杯飲んでたか分からない白ワインの味がほんのりとする唾液を混ぜ合う。

試され続けた俺の理性は簡単に崩れ去り、結局こんな事になってしまっている。
俺は瑤子に言いたい。

俺はとっくにお前に溺れてると。

たった一つの言葉で、タガが外れたようにお前を貪って、場所も考えずにもっともっとお前が欲しいと思うくらいに求める。

「んんっ……」

小さく漏れる声に唆られて、舌をジュッと強く吸うと、俺の腕に掴まっていた瑤子の手に力が入る。
俺は少しだけ唇を離すと、

「早く帰って続きしたい」

なんて囁き、瑤子はそれに

「うっ……」

と小さく声を漏らした。

「ダメ?」

強請るように俺が囁くと、瑤子の口から

「ダメ……じゃ、ない……」

と返事が返ってきた。

どうしようもなく可愛いその声にいとも簡単に突き動かされて、半ば強引に店を後にした。

「電車で帰るんじゃないの?」と尋ねて来る瑤子を「また今度な」と言いながら、止まっていたタクシーに押し込んだ。

呆れたように俺を見る瑤子の手を取り指を絡め合うように繋ぐと、仕方ないなぁみたいな顔を見せて、こてんと俺の肩に頭を乗せた。

ほんと、俺は溺死寸前だ。全く

夜の街を走る車の中で、俺はそんな事を思った。

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