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16 side T
4*.
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瑤子が床に散らばった洗濯物を抱えて、「もうない?ついでに洗うわよ?」と俺に声をかける。
「んー……たぶん」
部屋を出ようとしている瑤子にそう返すと、
「じゃあ洗濯機回して、先にお風呂入らせてもらうね」
と聞こえて、慌てて「俺も一緒に入る!」振り向いたが、もうそこに瑤子の姿はなかった。
だが、この部屋の状態でそれを許して貰える気もしない。
それに実のところ、俺はさっきから探し物をしているのだ。
結構最初に中に入れてしまったため、なかなか出てこない小さな箱。
とりあえず、瑤子にやろうと思ってフランスで買ったワインやお菓子はキッチンへ持って行き、適当に放り込まれていた貰い物の本は壁面の書棚に立てた。
そうやって一つひとつ片付けて、ようやく探し物を見つけると、それをベッドのサイドテーブルに置いた。
やっと空になったスーツケースをクローゼットに入れて扉を閉め、俺は一旦寝室を後にする。
キッチンの冷蔵庫からさっき飲み損ねたビールを取り出すと、その場で開けて口をつけた。
気づけば時間は0時を回っている。
そこから洗濯物を干そうとしている瑤子を捕まえて、『話があるから、少しだけ待ってて欲しい』と伝えて俺はシャワーを浴びに行った。
速攻出て、まだ濡れたままの髪にタオルだけ引っかかって寝室に向かうと、瑤子はベッドに腰掛けてさっき俺が置いた本の一つを眺めていた。風景を専門に撮る知人の写真集だ。
俺がその横に座ると、
「勝手に見せて貰ってる」
と瑤子が顔を上げて言った。
「お前が見るかな?ってそこ置いたヤツだから。好きに見て」
そう言いながら、俺は瑤子の耳たぶに確認するように触れた。
「どうかした?」
「いや?ちょっとそこの箱取って開けてみて?」
瑤子は写真集を閉じてテーブルに置くと、代わりにさっき俺が置いた小さな箱を手に取りゆっくりと開けた。
「あ、知ってたんだ……」
瑤子が小さく呟きこちらを向いた。
「あなたの前でしてた事ないのに……ピアス」
「やっぱり開いてるよな?結構な博打だったけど、当たってて良かったわ」
ニューヨークに着いて数日後、知人のデザイナーがやってるショップで見つけたピアス。小ぶりで、これなら仕事中でもずっと付けていられそうだと買ったものだ。
「いいの……?」
「お前のために買ったんだから、いいも悪いもないだろ?なぁ、俺が付けていいか?」
瑤子の耳に触れながら尋ねる。
「……はい。痛くしないでね」
なんて、ちょっと唆る台詞と共に、瑤子はその箱を差し出した。
◆◆
「やっぁ、も……動か、ない、でよ……」
「ん?俺は動いてないけど?」
瑤子と繋がったまま、俺は何も纏っていない瑤子の身体を見下ろしていた。
離れたくないとばかりに両手の指を絡ませ合い、瑤子はこちらに腕を伸ばしている。白かった筈の瑤子の体は朱に染まり、それより濃い紅色の印がすでにいくつも散っている。
ずっとこうしてたい……
繋がった部分から放たれる熱に浮かされそうになりながら、ただジッと俺は瑤子を見下ろしていた。
「やっっ。あっ……!」
俺は何もしていないのに、瑤子は揺れ動きながら激しく蠢き俺を締め付ける。
「つか、さ……っ。何か……変なの、私っ……」
荒く吐息を漏らしながら、泣きそうな顔で瑤子は俺に訴える。
俺はそのままゆっくりと体を倒して、自分の顔を耳に近づけた。そして、そこに光る小さなピアスごと舌で撫であげると、瑤子は「んんっ」と苦悶の表情を見せた。
「何が……変なんだ…?」
今日の瑤子が今まで以上に感度が高くなっているのはわかっているが、俺は敢えて尋ねる。
「あっっ、んんっ!怖い……自分の体じゃない、みたい……」
俺が少し体を揺らすだけで、それ以上に瑤子は俺が欲しいと体を揺らす。
「大丈夫だ。俺がいるだろ?」
そう言って笑みを浮かべると、俺はゆっくり腰を揺らして頬に口づける。
「やっ、あっっ…」
堪えきれないとばかりに、瑤子は俺の背中にしがみつく。
ゆっくりと、だが深く瑤子の中に入り、その最果てを感じた。
「ダメっっ、はぁっ……ぁっ!もうっっ、イクっ……っ!」
そう言うと瑤子の体の、外も中も力が入り痙攣し始める。
「あ、あぁっっ!!」
一際激しい嬌声と共に、瑤子はぎゅうっと俺の背中に力を込めた。
そしてしばらくすると力が抜けて、息が少し落ち着いた。
「イッた?」
ワザとそう尋ねながら、俺はその艶やかな唇を啄む。
「……。聞かなくても……分かるでしょ!」
目の周りを赤くして睫毛を湿らせたままこちらを見て瑤子は言う。
「ふっ。俺も、もっと気持ちよくなっていいか?もちろんお前も」
「明日、仕事だから……加減してよ?」
すでに始まった律動に、熱い息を漏らしながら瑤子は言う。
「ん。分かった」
そう言って俺は動きを少しずつ激しくしていった。
横で寝息を立てる、瑤子の顔を見ながら髪をそっと撫でる。
生まれて初めて本気で好きになった女を手に入れて、
どうしようもなく幸せだ……
そんな事を思う。
『出て行きたくなったら、自由にすればいい』
俺は瑤子にそう言った。
でも、本当は……
お前を手放したくはない。一生。
そんな事を思いながら、ゆっくりと俺の意識は沈んでいった。
「んー……たぶん」
部屋を出ようとしている瑤子にそう返すと、
「じゃあ洗濯機回して、先にお風呂入らせてもらうね」
と聞こえて、慌てて「俺も一緒に入る!」振り向いたが、もうそこに瑤子の姿はなかった。
だが、この部屋の状態でそれを許して貰える気もしない。
それに実のところ、俺はさっきから探し物をしているのだ。
結構最初に中に入れてしまったため、なかなか出てこない小さな箱。
とりあえず、瑤子にやろうと思ってフランスで買ったワインやお菓子はキッチンへ持って行き、適当に放り込まれていた貰い物の本は壁面の書棚に立てた。
そうやって一つひとつ片付けて、ようやく探し物を見つけると、それをベッドのサイドテーブルに置いた。
やっと空になったスーツケースをクローゼットに入れて扉を閉め、俺は一旦寝室を後にする。
キッチンの冷蔵庫からさっき飲み損ねたビールを取り出すと、その場で開けて口をつけた。
気づけば時間は0時を回っている。
そこから洗濯物を干そうとしている瑤子を捕まえて、『話があるから、少しだけ待ってて欲しい』と伝えて俺はシャワーを浴びに行った。
速攻出て、まだ濡れたままの髪にタオルだけ引っかかって寝室に向かうと、瑤子はベッドに腰掛けてさっき俺が置いた本の一つを眺めていた。風景を専門に撮る知人の写真集だ。
俺がその横に座ると、
「勝手に見せて貰ってる」
と瑤子が顔を上げて言った。
「お前が見るかな?ってそこ置いたヤツだから。好きに見て」
そう言いながら、俺は瑤子の耳たぶに確認するように触れた。
「どうかした?」
「いや?ちょっとそこの箱取って開けてみて?」
瑤子は写真集を閉じてテーブルに置くと、代わりにさっき俺が置いた小さな箱を手に取りゆっくりと開けた。
「あ、知ってたんだ……」
瑤子が小さく呟きこちらを向いた。
「あなたの前でしてた事ないのに……ピアス」
「やっぱり開いてるよな?結構な博打だったけど、当たってて良かったわ」
ニューヨークに着いて数日後、知人のデザイナーがやってるショップで見つけたピアス。小ぶりで、これなら仕事中でもずっと付けていられそうだと買ったものだ。
「いいの……?」
「お前のために買ったんだから、いいも悪いもないだろ?なぁ、俺が付けていいか?」
瑤子の耳に触れながら尋ねる。
「……はい。痛くしないでね」
なんて、ちょっと唆る台詞と共に、瑤子はその箱を差し出した。
◆◆
「やっぁ、も……動か、ない、でよ……」
「ん?俺は動いてないけど?」
瑤子と繋がったまま、俺は何も纏っていない瑤子の身体を見下ろしていた。
離れたくないとばかりに両手の指を絡ませ合い、瑤子はこちらに腕を伸ばしている。白かった筈の瑤子の体は朱に染まり、それより濃い紅色の印がすでにいくつも散っている。
ずっとこうしてたい……
繋がった部分から放たれる熱に浮かされそうになりながら、ただジッと俺は瑤子を見下ろしていた。
「やっっ。あっ……!」
俺は何もしていないのに、瑤子は揺れ動きながら激しく蠢き俺を締め付ける。
「つか、さ……っ。何か……変なの、私っ……」
荒く吐息を漏らしながら、泣きそうな顔で瑤子は俺に訴える。
俺はそのままゆっくりと体を倒して、自分の顔を耳に近づけた。そして、そこに光る小さなピアスごと舌で撫であげると、瑤子は「んんっ」と苦悶の表情を見せた。
「何が……変なんだ…?」
今日の瑤子が今まで以上に感度が高くなっているのはわかっているが、俺は敢えて尋ねる。
「あっっ、んんっ!怖い……自分の体じゃない、みたい……」
俺が少し体を揺らすだけで、それ以上に瑤子は俺が欲しいと体を揺らす。
「大丈夫だ。俺がいるだろ?」
そう言って笑みを浮かべると、俺はゆっくり腰を揺らして頬に口づける。
「やっ、あっっ…」
堪えきれないとばかりに、瑤子は俺の背中にしがみつく。
ゆっくりと、だが深く瑤子の中に入り、その最果てを感じた。
「ダメっっ、はぁっ……ぁっ!もうっっ、イクっ……っ!」
そう言うと瑤子の体の、外も中も力が入り痙攣し始める。
「あ、あぁっっ!!」
一際激しい嬌声と共に、瑤子はぎゅうっと俺の背中に力を込めた。
そしてしばらくすると力が抜けて、息が少し落ち着いた。
「イッた?」
ワザとそう尋ねながら、俺はその艶やかな唇を啄む。
「……。聞かなくても……分かるでしょ!」
目の周りを赤くして睫毛を湿らせたままこちらを見て瑤子は言う。
「ふっ。俺も、もっと気持ちよくなっていいか?もちろんお前も」
「明日、仕事だから……加減してよ?」
すでに始まった律動に、熱い息を漏らしながら瑤子は言う。
「ん。分かった」
そう言って俺は動きを少しずつ激しくしていった。
横で寝息を立てる、瑤子の顔を見ながら髪をそっと撫でる。
生まれて初めて本気で好きになった女を手に入れて、
どうしようもなく幸せだ……
そんな事を思う。
『出て行きたくなったら、自由にすればいい』
俺は瑤子にそう言った。
でも、本当は……
お前を手放したくはない。一生。
そんな事を思いながら、ゆっくりと俺の意識は沈んでいった。
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