68 / 247
16 side T
2.
しおりを挟む
コンビニで適当に食べるものを買って、そこから徒歩で瑤子の家に向かう。
レジは顔馴染みの店員だったらしく、『少しの間、車を置かせて欲しい』と瑤子が頼むと、『いいですよ~』と軽く返事が返ってきた。
「ご飯、うちで食べるでしょ?」
「あぁ。それにしても、お前が俺を家に上げてくれるとは思ってなかった」
今まで頑なに家に近寄らせようとしなかったのには何か理由があるはずだ。それは少し気になっている。
「家の中見て笑わないでよ?」
「何で?散らかってるとか?」
「……見ればわかるから」
家までは思っていた以上に近く、すぐに着いた。
玄関に入ると瑤子は電気を付け、その場が明るくなる。2人並ぶとかなり狭い玄関。その先にはすぐ扉が見えていた。
「ここ、どれくらい住んでんだ?」
靴を脱ぎながら俺が尋ねると、瑤子は扉を開けながら
「学生の頃からだから、もう……何年だろ?」
と宙をを見つめて答えた。
と言うことは、前の男が入り浸っていたのもここと言うことか。
だから余計に、もう誰も入れたくなかったのか、と何となく腑に落ちた。
それにしても、どれだけのトラウマを与えられたんだよ。
もし会うことがあったら一発殴るぐらいしてもバチ当たんないんじゃねーの?
無意識に眉間にシワを寄せ、俺は瑤子のあとに続いた。
扉の向こうは……正直、見たことないくらい狭い部屋。
すぐ手前はキッチンと小さなダイニングテーブル。その少し向こうに2人並ぶとやや狭そうなソファと、一番奥にはベッドが見えている。
そしてその部屋を見て、笑うなの理由は察した。
クールな瑤子のイメージとはかけ離れた、なんつーか……乙女チックな部屋。
白を基調としたインテリアと挿し色にピンクが使われたコーディネート。小物にも凝っているようで、家具の上は美しく装飾されていて、壁には額に入れられた小さな写真がいくつか飾ってある。
なんだか微笑ましくなって、思わず「ふっ」と息を漏らして笑うと、瑤子は耳聡くそれを聞いて、「あ!今笑ったでしょ?」と部屋の奥から戻って来た。
「いや……?あんまりにもらしーなと思って」
笑いを噛み殺しながらそう言うと、瑤子は不思議そうに「らしい?」とこちらを見上げて言う。
「だってお前、前に出かけた時こんなのばっか見てただろ?よっぽど好きなんだなと思って見てたんだけど?」
「イメージに合わないって思わないの?」
意外そうな顔して尋ねる瑤子を、俺は少し引き寄せて、
「いや?かわいーなって思ってるよ」
と額にキスを落とす。
瑤子はそこを両手で押さえながら、
「今のあなたの方がよっぽどイメージに合わないわよね!」
と少し顔を赤くして言った。
とりあえず2人でテーブルに向かいあって飯を食べることにした。
さっき買ってきたのは、適当におにぎりが何個かだけ。また帰りに何か買って帰ればいいかとそうした。
瑤子が冷蔵庫から冷たいお茶を出して入れて、おにぎりの開け方がわからず戸惑っている俺に、「こうやるのよ?」と瑤子は笑って開けて見せてくれた。
「へー……」
俺は感心しながら同じように開けてみる。
「できた……」
つい、子供が初めて何かを成し遂げたみたいに呟いてしまう。
「良かったわね。どうぞ召し上がれ?」
瑤子がニコニコと笑いながらそう言うと、俺はそれに促されるようにおにぎりを口に運んだ。たかだか百数十円のおにぎり。けど、それはどんな高級料理より旨く感じた。
今まで腹が減ったから何か食べる、と言うのが当たり前でとくにそれに拘りなどなかった。
だが、こうして好きな女を目の前にして取る食事は、こんなにも楽しいものなのかと今更ながら思い知る。
「なあ。お前、うちに引っ越して来ないか?」
「へっ?……さすがにそれは展開早すぎだと思うんだけど」
大好きだと言うツナマヨおにぎりを両手で掴んで、瑤子は目を丸くしている。
「どうせ一部屋余る。プライベートは確保するし、ルームシェアだと思えばいい。それにお前、本当はここから出たいんじゃないのか?」
驚いた表情を見せてから、瑤子は視線を落とす。
「何で分かったの?」
「勘……かな。ずっとここに住んでるって事は、あのクソ野郎がここに来てたって事だろ?でも、出て行くきっかけがなくて結局ここにいる。違うか?」
力なくふっと瑤子は笑うと、
「そう。さすがだね」
と小さく言った。そしてそのまま続ける。
「でも、司が私に飽きたらまた引っ越ししなきゃいけなくなるでしょ?」
自分の信用のなさに溜め息が出そうだ。確かに、今までやらかしてきた事を考えるとそれも仕方のない事ではある。
だが、瑤子は『俺が飽きたら』と言った。
『自分が飽きたら』と言わないぶん、まだ望みはあるだろうか。
「俺から出て行けなんてぜってー言わない。それは約束する。それに、もしお前が出て行きたくなったら、その時は自由にすればいい。費用は俺が持つから」
ずっと外していた視線を、ふうっと大きく息を吐き出しこちらに戻す。
「けど、あの段ボールの山どうにかしないと無理よ?」
「……。1週間!いや、3日!3日でなんとかしたら考えてくれるか?」
睦月が見たらまた大笑いされそうなくらい俺は必死で言う。
「本気?私、手伝えないわよ?」
「あぁ。見てろ?俺だってやるときゃやるから」
ニヤリと笑ってそう返すと、それに釣られたように瑤子も笑顔を見せた。
レジは顔馴染みの店員だったらしく、『少しの間、車を置かせて欲しい』と瑤子が頼むと、『いいですよ~』と軽く返事が返ってきた。
「ご飯、うちで食べるでしょ?」
「あぁ。それにしても、お前が俺を家に上げてくれるとは思ってなかった」
今まで頑なに家に近寄らせようとしなかったのには何か理由があるはずだ。それは少し気になっている。
「家の中見て笑わないでよ?」
「何で?散らかってるとか?」
「……見ればわかるから」
家までは思っていた以上に近く、すぐに着いた。
玄関に入ると瑤子は電気を付け、その場が明るくなる。2人並ぶとかなり狭い玄関。その先にはすぐ扉が見えていた。
「ここ、どれくらい住んでんだ?」
靴を脱ぎながら俺が尋ねると、瑤子は扉を開けながら
「学生の頃からだから、もう……何年だろ?」
と宙をを見つめて答えた。
と言うことは、前の男が入り浸っていたのもここと言うことか。
だから余計に、もう誰も入れたくなかったのか、と何となく腑に落ちた。
それにしても、どれだけのトラウマを与えられたんだよ。
もし会うことがあったら一発殴るぐらいしてもバチ当たんないんじゃねーの?
無意識に眉間にシワを寄せ、俺は瑤子のあとに続いた。
扉の向こうは……正直、見たことないくらい狭い部屋。
すぐ手前はキッチンと小さなダイニングテーブル。その少し向こうに2人並ぶとやや狭そうなソファと、一番奥にはベッドが見えている。
そしてその部屋を見て、笑うなの理由は察した。
クールな瑤子のイメージとはかけ離れた、なんつーか……乙女チックな部屋。
白を基調としたインテリアと挿し色にピンクが使われたコーディネート。小物にも凝っているようで、家具の上は美しく装飾されていて、壁には額に入れられた小さな写真がいくつか飾ってある。
なんだか微笑ましくなって、思わず「ふっ」と息を漏らして笑うと、瑤子は耳聡くそれを聞いて、「あ!今笑ったでしょ?」と部屋の奥から戻って来た。
「いや……?あんまりにもらしーなと思って」
笑いを噛み殺しながらそう言うと、瑤子は不思議そうに「らしい?」とこちらを見上げて言う。
「だってお前、前に出かけた時こんなのばっか見てただろ?よっぽど好きなんだなと思って見てたんだけど?」
「イメージに合わないって思わないの?」
意外そうな顔して尋ねる瑤子を、俺は少し引き寄せて、
「いや?かわいーなって思ってるよ」
と額にキスを落とす。
瑤子はそこを両手で押さえながら、
「今のあなたの方がよっぽどイメージに合わないわよね!」
と少し顔を赤くして言った。
とりあえず2人でテーブルに向かいあって飯を食べることにした。
さっき買ってきたのは、適当におにぎりが何個かだけ。また帰りに何か買って帰ればいいかとそうした。
瑤子が冷蔵庫から冷たいお茶を出して入れて、おにぎりの開け方がわからず戸惑っている俺に、「こうやるのよ?」と瑤子は笑って開けて見せてくれた。
「へー……」
俺は感心しながら同じように開けてみる。
「できた……」
つい、子供が初めて何かを成し遂げたみたいに呟いてしまう。
「良かったわね。どうぞ召し上がれ?」
瑤子がニコニコと笑いながらそう言うと、俺はそれに促されるようにおにぎりを口に運んだ。たかだか百数十円のおにぎり。けど、それはどんな高級料理より旨く感じた。
今まで腹が減ったから何か食べる、と言うのが当たり前でとくにそれに拘りなどなかった。
だが、こうして好きな女を目の前にして取る食事は、こんなにも楽しいものなのかと今更ながら思い知る。
「なあ。お前、うちに引っ越して来ないか?」
「へっ?……さすがにそれは展開早すぎだと思うんだけど」
大好きだと言うツナマヨおにぎりを両手で掴んで、瑤子は目を丸くしている。
「どうせ一部屋余る。プライベートは確保するし、ルームシェアだと思えばいい。それにお前、本当はここから出たいんじゃないのか?」
驚いた表情を見せてから、瑤子は視線を落とす。
「何で分かったの?」
「勘……かな。ずっとここに住んでるって事は、あのクソ野郎がここに来てたって事だろ?でも、出て行くきっかけがなくて結局ここにいる。違うか?」
力なくふっと瑤子は笑うと、
「そう。さすがだね」
と小さく言った。そしてそのまま続ける。
「でも、司が私に飽きたらまた引っ越ししなきゃいけなくなるでしょ?」
自分の信用のなさに溜め息が出そうだ。確かに、今までやらかしてきた事を考えるとそれも仕方のない事ではある。
だが、瑤子は『俺が飽きたら』と言った。
『自分が飽きたら』と言わないぶん、まだ望みはあるだろうか。
「俺から出て行けなんてぜってー言わない。それは約束する。それに、もしお前が出て行きたくなったら、その時は自由にすればいい。費用は俺が持つから」
ずっと外していた視線を、ふうっと大きく息を吐き出しこちらに戻す。
「けど、あの段ボールの山どうにかしないと無理よ?」
「……。1週間!いや、3日!3日でなんとかしたら考えてくれるか?」
睦月が見たらまた大笑いされそうなくらい俺は必死で言う。
「本気?私、手伝えないわよ?」
「あぁ。見てろ?俺だってやるときゃやるから」
ニヤリと笑ってそう返すと、それに釣られたように瑤子も笑顔を見せた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
288
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる