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久しぶりの電話に、私は恐る恐る出る。
「あ、の……。私、だけど」
電話を耳に当ててそう言うと、
『俺』
と短い返事が返って来た。
その声だけで、機嫌が良いのか悪いのか判断は出来ない。
「……何か用事?」
久しぶりだと言うのに、相変わらず可愛くない言い草で私はそれに答えた。
『いや?用事はない。……家か?』
外から聞こえて来る車の音でも聞こえたのか、司はそう言った。
私は辿り着いた自分の部屋の扉の前で、鍵を取り出しながら「今帰ったところ」と答える。家に入って真っ先にリビングに向かい、クーラーを付けると、吹き出してくる涼しい風に当たった。
『そうか。今、話いいか?』
改めてそう言われて、ドキリとしながら身構える。
「あ、うん……。どうぞ?」
私は動揺を悟られないよう明るく答えた。
『家……片付けらんねーんだけど。どうすりゃいいんだ?』
意表を突いた内容に、私はしばらく無言になって、ようやく笑いが漏れた。
「ふふっ。何それ?もしかして、家の中が箱で埋まってるとか?」
『なんで分かる……』
「あなたの泊まってた部屋の様子で察しがつくわよ」
私はソファに座って寛ぎながら、電話に耳を傾けた。
『ホント、面倒くせぇ!』
そう言いながらも、作業をしているのかゴソゴソと音が聞こえて来た。
「残念ね。私、結構片付けるのは得意だったのに」
『言うのおせーよ。それとも今から来てくれんの?』
まるで、すぐそこのコンビニに……くらいの口調で司は言う。
「さすがに無理よ」
私が笑いながら言うと、
『なんで?』
と、真剣とも取れるような声で司に尋ねられる。
まさか本気?な……わけ、ないよね?
「だって私、パスポート持ってないもの」
電話の向こうから音が消えて、しばらく静寂が訪れた、と思ったら
『はぁ?』
と呆れたような声がした。
「海外に行く予定なんて無かったから、大学時代に取ったっきり更新しなかったのよ」
『そんなやつ、いんのかよー!』
「ごめんね。庶民で」
笑って答えると、電話の向こうから大きく息を漏らす気配がした。
もしかして、本気だったのだろうか……
そんな事を思っていると、電話の向こう側の遠くから、別の声が聞こえてきた。
『司ー!!何サボってんだよ!』
『げ、睦月もう帰って来たのかよ!』
司の声が少し遠くなって、そんな会話が聞こえてきた。相手は明るい感じの男の人。
何か、仲良さそうだなぁ……
と耳を澄まして、その会話を聴いてしまう。
『あ、誰?誰と電話してんの?まさか……』
『うるせー!あっち行ってろよ!』
いい年した大人が子供みたいな会話を繰り広げてて、ついクスクス笑いが漏れた。
『そんな事言ってたら手伝わないよ?いいのかなぁ~?帰れなくなっても~』
『分かったよ!!』
司が不貞腐れているのが目に浮かぶようだ。司はきっと面白くないんだろうけど、聴いてるこっちは凄く面白い。
『悪い』
そう言って司が電話口に戻って来る。けど、私はすでに笑いが止まらなくなっていた。
「あはは!ホント、子供みたいっ!」
笑い声を混じらせながらそう言う私に、やっぱり不貞腐れたように、『悪かったな。ガキで……』と司は返す。
何か可愛いかも、と思いながらつい
「目の前でその会話見たかったな」
何て言ってしまう。
どう受け取ったのか、司からはちょっと沈んだ声が返ってきた。
『………睦月には会わせたくねーけど』
「何で?」
『きっとお前は、あいつの事気にいると思うから』
「ふーん……」
私が気に入っちゃダメなの?まるで嫉妬みたいじゃない。そりゃ、セフレを友達に盗られるなんて嫌だろうけど
なんてことを考えていると、『そろそろ切るわ。これから仕事入ってるし』と司から切り出され「あ、うん」と私は短く答えた。
『また……電話してもいいか?』
「いいわよ?どうせずっと暇だし」
『そうか。じゃあ、また連絡する。おやすみ……』
「おやすみ……、じゃないわね。仕事、頑張ってね」
『あぁ。行ってくる。じゃ……』
そう言って電話は切れた。
切れたが、切れる前に……チュッってリップ音が聞こえたのは空耳?気のせい?私の願望?
電話の向こうから聞こえる甘い声に、恋人同士みたいな会話。
いくら私でも、勘違いしたくなるか。
そのままボスッとソファのクッションに体を沈めてそんな事を考える。
……会いたいなぁ
と自覚して、また寂しくなった。
「あ、の……。私、だけど」
電話を耳に当ててそう言うと、
『俺』
と短い返事が返って来た。
その声だけで、機嫌が良いのか悪いのか判断は出来ない。
「……何か用事?」
久しぶりだと言うのに、相変わらず可愛くない言い草で私はそれに答えた。
『いや?用事はない。……家か?』
外から聞こえて来る車の音でも聞こえたのか、司はそう言った。
私は辿り着いた自分の部屋の扉の前で、鍵を取り出しながら「今帰ったところ」と答える。家に入って真っ先にリビングに向かい、クーラーを付けると、吹き出してくる涼しい風に当たった。
『そうか。今、話いいか?』
改めてそう言われて、ドキリとしながら身構える。
「あ、うん……。どうぞ?」
私は動揺を悟られないよう明るく答えた。
『家……片付けらんねーんだけど。どうすりゃいいんだ?』
意表を突いた内容に、私はしばらく無言になって、ようやく笑いが漏れた。
「ふふっ。何それ?もしかして、家の中が箱で埋まってるとか?」
『なんで分かる……』
「あなたの泊まってた部屋の様子で察しがつくわよ」
私はソファに座って寛ぎながら、電話に耳を傾けた。
『ホント、面倒くせぇ!』
そう言いながらも、作業をしているのかゴソゴソと音が聞こえて来た。
「残念ね。私、結構片付けるのは得意だったのに」
『言うのおせーよ。それとも今から来てくれんの?』
まるで、すぐそこのコンビニに……くらいの口調で司は言う。
「さすがに無理よ」
私が笑いながら言うと、
『なんで?』
と、真剣とも取れるような声で司に尋ねられる。
まさか本気?な……わけ、ないよね?
「だって私、パスポート持ってないもの」
電話の向こうから音が消えて、しばらく静寂が訪れた、と思ったら
『はぁ?』
と呆れたような声がした。
「海外に行く予定なんて無かったから、大学時代に取ったっきり更新しなかったのよ」
『そんなやつ、いんのかよー!』
「ごめんね。庶民で」
笑って答えると、電話の向こうから大きく息を漏らす気配がした。
もしかして、本気だったのだろうか……
そんな事を思っていると、電話の向こう側の遠くから、別の声が聞こえてきた。
『司ー!!何サボってんだよ!』
『げ、睦月もう帰って来たのかよ!』
司の声が少し遠くなって、そんな会話が聞こえてきた。相手は明るい感じの男の人。
何か、仲良さそうだなぁ……
と耳を澄まして、その会話を聴いてしまう。
『あ、誰?誰と電話してんの?まさか……』
『うるせー!あっち行ってろよ!』
いい年した大人が子供みたいな会話を繰り広げてて、ついクスクス笑いが漏れた。
『そんな事言ってたら手伝わないよ?いいのかなぁ~?帰れなくなっても~』
『分かったよ!!』
司が不貞腐れているのが目に浮かぶようだ。司はきっと面白くないんだろうけど、聴いてるこっちは凄く面白い。
『悪い』
そう言って司が電話口に戻って来る。けど、私はすでに笑いが止まらなくなっていた。
「あはは!ホント、子供みたいっ!」
笑い声を混じらせながらそう言う私に、やっぱり不貞腐れたように、『悪かったな。ガキで……』と司は返す。
何か可愛いかも、と思いながらつい
「目の前でその会話見たかったな」
何て言ってしまう。
どう受け取ったのか、司からはちょっと沈んだ声が返ってきた。
『………睦月には会わせたくねーけど』
「何で?」
『きっとお前は、あいつの事気にいると思うから』
「ふーん……」
私が気に入っちゃダメなの?まるで嫉妬みたいじゃない。そりゃ、セフレを友達に盗られるなんて嫌だろうけど
なんてことを考えていると、『そろそろ切るわ。これから仕事入ってるし』と司から切り出され「あ、うん」と私は短く答えた。
『また……電話してもいいか?』
「いいわよ?どうせずっと暇だし」
『そうか。じゃあ、また連絡する。おやすみ……』
「おやすみ……、じゃないわね。仕事、頑張ってね」
『あぁ。行ってくる。じゃ……』
そう言って電話は切れた。
切れたが、切れる前に……チュッってリップ音が聞こえたのは空耳?気のせい?私の願望?
電話の向こうから聞こえる甘い声に、恋人同士みたいな会話。
いくら私でも、勘違いしたくなるか。
そのままボスッとソファのクッションに体を沈めてそんな事を考える。
……会いたいなぁ
と自覚して、また寂しくなった。
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