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定時少し前。
トントントンと社長室を軽くノックすると、中から相変わらずの陽気な声で「はーい!どうぞー」と社長の声がした。
「失礼します」
社長はパソコンの画面から顔を上げて私の方を見ると、やっぱりへらっと笑った。
「社長。明日から休暇に入らせていただきます。後のこと、ご面倒をおかけしますがよろしくお願いします」
そう言って私は頭を下げた。
「了解~!休暇中はゆっくりして来てね。どこか行くの?」
「あの……今年の休み、長すぎるんですが。何で10日以上もあるんでしょう?」
私は半分溜め息とともにそう吐き出した。
そうなのだ。何故か一番暇なんじゃないかと思える私が、今年に限って休暇が一番長いのだ。嫌がらせかと思うくらいに。
「だって長森さん、今まで休みあんまりとってないし。10年目の節目だしなーと思って」
当たり前だが、悪びれる事なく社長はそう私に言った。
その気持ちはありがたい。有り難いが……
「友達の家に遊びに行って、実家にちょっと顔出すくらいで……。正直、する事ありません」
と私は真面目にそう返した。
「あー……。司もいないもんねぇ……」
「……は?」
しみじみと社長が言うその顔に、私は冷たく言い放った。
何でそこでその名が出てくる?一体あの人から何を聞いてるんだ。
「え?司から暇つぶしに付き合わせてるって聞いたんだけど。ごめんねぇ。僕も家族優先であんまり司の相手出来なかったからさ~」
この裏のない顔に、まさかその暇つぶしがセフレになる事……なんて、露ほども思ってないんだろうなぁ、と毒気も抜かれる。
「いえ。こちらこそ、長門さんには色々と連れて行っていただいて、とっても勉強になります」
と、私はニッコリと冷たい微笑みを浮かべた。
「司への連絡は僕が取るから安心して休んでね。あ、良かったらうちに遊びに来る?茉紀も子供たちも喜ぶし」
「そうですね。茉紀さんにもお子さん達にも会いたいので、よろしくお願いします」
「OK!また連絡するね」
そんな会話で話を終えて、社長室を後にする。
全くあの野郎……。社長に余計な事喋るんじゃないわよ!!
と半分怒りながらだったことに社長は気付いていないけど。
休みに入って数日は、久々に家の大掃除に勤しんだ。
時間はたっぷりあるしと、ちょっとした模様替えもする。
せっかくだからと、ボーナスで新しいインテリアでも、と1人で出かけた。
つい最近まで、こうやって1人で何の気兼ねもなく、好きなところに好きなように行くのが普通だったのに、今日は何となく味気ない。
あーあ……。何かつまらない……
そんな事が頭を過ぎって、慌てて打ち消すように振った。
危ない危ない。セフレに何求めてんのよ。求めるのは体だけで充分でしょうが。
だけど……10日前、司を見送りに行った空港で、突然に私を襲った感情。
寂しい。一緒にいたい。……行かないで
何て感傷的になって…。去って行く背中を眺めてたら、涙が零れてた。
あの時、司が振り向かなくて良かった。泣いてる顔なんて見せてたら、きっと呆れられてしまう。
私だって、一体何年振りか分からないくらいに泣いて、自分でも戸惑った。
元彼に捨てられた時ですら泣かなかったのに、たかだか1か月離れるだけで、こんな事になるなんて。
何処かで深入りしちゃダメだと警告音が聞こえる。
帰国しても、私のところに戻ってくるとは限らない。新しい誰かにご執心かも知れない。
だから……私はまた1人で生きていく練習をしなくちゃいけない。
並べられたインテリア雑貨を眺めて、ずっとそんな事を考えながらブラブラして、しばらく過ごした。
明日は夕実ちゃんの家に遊びに行く。
ちょうど良い気分転換になるはずだ。
「お土産でも見に行こ!」
そう独り言を呟いてから顔を上げて、店を後にする。
夏真っ盛りの青い空。
そんな空とは裏腹に、私の心はずっと曇っていた。
トントントンと社長室を軽くノックすると、中から相変わらずの陽気な声で「はーい!どうぞー」と社長の声がした。
「失礼します」
社長はパソコンの画面から顔を上げて私の方を見ると、やっぱりへらっと笑った。
「社長。明日から休暇に入らせていただきます。後のこと、ご面倒をおかけしますがよろしくお願いします」
そう言って私は頭を下げた。
「了解~!休暇中はゆっくりして来てね。どこか行くの?」
「あの……今年の休み、長すぎるんですが。何で10日以上もあるんでしょう?」
私は半分溜め息とともにそう吐き出した。
そうなのだ。何故か一番暇なんじゃないかと思える私が、今年に限って休暇が一番長いのだ。嫌がらせかと思うくらいに。
「だって長森さん、今まで休みあんまりとってないし。10年目の節目だしなーと思って」
当たり前だが、悪びれる事なく社長はそう私に言った。
その気持ちはありがたい。有り難いが……
「友達の家に遊びに行って、実家にちょっと顔出すくらいで……。正直、する事ありません」
と私は真面目にそう返した。
「あー……。司もいないもんねぇ……」
「……は?」
しみじみと社長が言うその顔に、私は冷たく言い放った。
何でそこでその名が出てくる?一体あの人から何を聞いてるんだ。
「え?司から暇つぶしに付き合わせてるって聞いたんだけど。ごめんねぇ。僕も家族優先であんまり司の相手出来なかったからさ~」
この裏のない顔に、まさかその暇つぶしがセフレになる事……なんて、露ほども思ってないんだろうなぁ、と毒気も抜かれる。
「いえ。こちらこそ、長門さんには色々と連れて行っていただいて、とっても勉強になります」
と、私はニッコリと冷たい微笑みを浮かべた。
「司への連絡は僕が取るから安心して休んでね。あ、良かったらうちに遊びに来る?茉紀も子供たちも喜ぶし」
「そうですね。茉紀さんにもお子さん達にも会いたいので、よろしくお願いします」
「OK!また連絡するね」
そんな会話で話を終えて、社長室を後にする。
全くあの野郎……。社長に余計な事喋るんじゃないわよ!!
と半分怒りながらだったことに社長は気付いていないけど。
休みに入って数日は、久々に家の大掃除に勤しんだ。
時間はたっぷりあるしと、ちょっとした模様替えもする。
せっかくだからと、ボーナスで新しいインテリアでも、と1人で出かけた。
つい最近まで、こうやって1人で何の気兼ねもなく、好きなところに好きなように行くのが普通だったのに、今日は何となく味気ない。
あーあ……。何かつまらない……
そんな事が頭を過ぎって、慌てて打ち消すように振った。
危ない危ない。セフレに何求めてんのよ。求めるのは体だけで充分でしょうが。
だけど……10日前、司を見送りに行った空港で、突然に私を襲った感情。
寂しい。一緒にいたい。……行かないで
何て感傷的になって…。去って行く背中を眺めてたら、涙が零れてた。
あの時、司が振り向かなくて良かった。泣いてる顔なんて見せてたら、きっと呆れられてしまう。
私だって、一体何年振りか分からないくらいに泣いて、自分でも戸惑った。
元彼に捨てられた時ですら泣かなかったのに、たかだか1か月離れるだけで、こんな事になるなんて。
何処かで深入りしちゃダメだと警告音が聞こえる。
帰国しても、私のところに戻ってくるとは限らない。新しい誰かにご執心かも知れない。
だから……私はまた1人で生きていく練習をしなくちゃいけない。
並べられたインテリア雑貨を眺めて、ずっとそんな事を考えながらブラブラして、しばらく過ごした。
明日は夕実ちゃんの家に遊びに行く。
ちょうど良い気分転換になるはずだ。
「お土産でも見に行こ!」
そう独り言を呟いてから顔を上げて、店を後にする。
夏真っ盛りの青い空。
そんな空とは裏腹に、私の心はずっと曇っていた。
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