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誰かと手を繋いで歩くなんて、一体何年振りだろう。
うーん……多分10年近く振り……な気がする。
久しぶり過ぎてテンパって、つい変な事を口にしてしまう。
だって、ただでさえ暑いのに、手汗が気になって余計に暑くなるじゃない。
なのに、平然とした顔で茶化されて、私は余計に汗かいてるんじゃないかと心配になった。
だいたい、なんでついて来たのよ。つまらないって言ったのに。
でも、そうか。男はだいたい最初は女にいい顔しようとするものだ。
今まで付き合って来た男もそう。
付き合いたてはデートとか言って外でショッピングに付き合ってくれていたけど、すぐに面倒になって付き合ってくれなくなる。
きっとこの人もそうだ。最初だから面白がってるだけ。
って、私達……別に付き合ってるわけじゃないけど。
そうしてるうちに、寄ろうと思っていたビルに辿り着いた。
あー……涼しい……
ちょうどいい感じにクーラーがきいていて、頭もちょっとクールダウンできた。
いつも寄るショップに入ると、適当に品定めをする。特にこれを買おうと決めているわけじゃなくて、いいのがあれば買おうかなくらいだけど。
そう思いながら見て回っていると、司は無言で私の後をついて来た。しばらくジッと私が見ているのを眺めていたかと思うと、司は突然口を開いた。
「お前……無難過ぎ。自分がどんなの似合うか分かってないな」
呆れたように溜め息を漏らすと、司は目の前に並ぶトップスから1枚選んだ。
「とりあえずこれだな」
渡されたのはサックスブルーの背中が開いたものだった。
「え?これ?」
私のワードローブにこんな色の服はない。あるのは白系か黒、ネイビー、グレーくらいだ。何となく、可愛らしい色は敬遠してしまう。
「いいから鏡で見てみろ。なんならこれと比べて見ればいい」
そう言って同じものの白いトップスを渡されて、渋々鏡の前に行った。
あ……確かにいいかも。
顔写りは、断然司が選んだ方がよかった。何かちょっと悔しい気もするけど。
「ほら、言った通りだろ?だいたいお前、俺が誰だか分かってんの?」
「……数々の有名モデルを相手になさっている世界的カメラマン様です」
私は嫌味のように思いっきりの笑顔でそう答えた。
不本意ながら白い方を戻すと、司がこちらをドヤ顔で見下ろしていた。
ホント、ムカツクー!!と思いながらも、本当に怒ってはいない。
ちょっと、こう……敗北感はあるけど。
「なあ、さっきから思ってたんだけど、この値段……ドル……な訳ないか。何か桁足りなくねぇ?」
商品のタグを見ながらそう言う司に、慌てて「なわけないでしょー!!あってるわよ」ツッコミを入れる。目の前では棚を整理する店員さんが、こっちを見て目を丸くしていた。
わー!無茶苦茶恥ずかしい!これだから浮世離れした人は困る。4桁の金額の服なんて見たことないんだろなぁ。セール中なんて来させられないわよ、全く。
「余計な事言わないでよね!」
顔から火を吹きそうになりながら、私は司の背中を押して店の奥に進んだ。
「まだ、何か見る?」
奥に進みながら司に尋ねられ、「帰りたかったら帰っていいわよ」と答える。
「帰らねーよ。じゃなくて、もう一つ気になってるのあるんだけど」
と司に手を引かれて来たのはワンピースの並ぶ一画。
その中から一つ取り出すと、一旦それを眺めてから私に差し出した。
「まさか……これ着ろって……?」
「当たり前だろ?ほら、試着してみろよ」
有無を言わさず、今度はフィッティングルームに連れて行かれて押し込まれた。
これ……どうなの?
スモーキーピンクのロング丈のフレアワンピース。着心地良さそうな柔らかい生地で、これからの季節には良さそうだけど……。
こんな色、本当に着たことない。
自分には、可愛らしい服が似合うとは思えなくて、どちらかと言えばシャープな服ばかり着ていた。
でも……さっきの事もあるし、着てみるだけ着てみるか、と思い直して着替る事にした。
しばらくすると、トントンと扉をノックする音がして、「終わったか?」と司の声がした。
「う、うん……」
返事をすると、広めの個室になっているフィッティングルームに、遠慮なく司が入って来た。
鏡に映る私を見て、鏡の向こうにいる司はニヤニヤと笑っていた。
うーん……多分10年近く振り……な気がする。
久しぶり過ぎてテンパって、つい変な事を口にしてしまう。
だって、ただでさえ暑いのに、手汗が気になって余計に暑くなるじゃない。
なのに、平然とした顔で茶化されて、私は余計に汗かいてるんじゃないかと心配になった。
だいたい、なんでついて来たのよ。つまらないって言ったのに。
でも、そうか。男はだいたい最初は女にいい顔しようとするものだ。
今まで付き合って来た男もそう。
付き合いたてはデートとか言って外でショッピングに付き合ってくれていたけど、すぐに面倒になって付き合ってくれなくなる。
きっとこの人もそうだ。最初だから面白がってるだけ。
って、私達……別に付き合ってるわけじゃないけど。
そうしてるうちに、寄ろうと思っていたビルに辿り着いた。
あー……涼しい……
ちょうどいい感じにクーラーがきいていて、頭もちょっとクールダウンできた。
いつも寄るショップに入ると、適当に品定めをする。特にこれを買おうと決めているわけじゃなくて、いいのがあれば買おうかなくらいだけど。
そう思いながら見て回っていると、司は無言で私の後をついて来た。しばらくジッと私が見ているのを眺めていたかと思うと、司は突然口を開いた。
「お前……無難過ぎ。自分がどんなの似合うか分かってないな」
呆れたように溜め息を漏らすと、司は目の前に並ぶトップスから1枚選んだ。
「とりあえずこれだな」
渡されたのはサックスブルーの背中が開いたものだった。
「え?これ?」
私のワードローブにこんな色の服はない。あるのは白系か黒、ネイビー、グレーくらいだ。何となく、可愛らしい色は敬遠してしまう。
「いいから鏡で見てみろ。なんならこれと比べて見ればいい」
そう言って同じものの白いトップスを渡されて、渋々鏡の前に行った。
あ……確かにいいかも。
顔写りは、断然司が選んだ方がよかった。何かちょっと悔しい気もするけど。
「ほら、言った通りだろ?だいたいお前、俺が誰だか分かってんの?」
「……数々の有名モデルを相手になさっている世界的カメラマン様です」
私は嫌味のように思いっきりの笑顔でそう答えた。
不本意ながら白い方を戻すと、司がこちらをドヤ顔で見下ろしていた。
ホント、ムカツクー!!と思いながらも、本当に怒ってはいない。
ちょっと、こう……敗北感はあるけど。
「なあ、さっきから思ってたんだけど、この値段……ドル……な訳ないか。何か桁足りなくねぇ?」
商品のタグを見ながらそう言う司に、慌てて「なわけないでしょー!!あってるわよ」ツッコミを入れる。目の前では棚を整理する店員さんが、こっちを見て目を丸くしていた。
わー!無茶苦茶恥ずかしい!これだから浮世離れした人は困る。4桁の金額の服なんて見たことないんだろなぁ。セール中なんて来させられないわよ、全く。
「余計な事言わないでよね!」
顔から火を吹きそうになりながら、私は司の背中を押して店の奥に進んだ。
「まだ、何か見る?」
奥に進みながら司に尋ねられ、「帰りたかったら帰っていいわよ」と答える。
「帰らねーよ。じゃなくて、もう一つ気になってるのあるんだけど」
と司に手を引かれて来たのはワンピースの並ぶ一画。
その中から一つ取り出すと、一旦それを眺めてから私に差し出した。
「まさか……これ着ろって……?」
「当たり前だろ?ほら、試着してみろよ」
有無を言わさず、今度はフィッティングルームに連れて行かれて押し込まれた。
これ……どうなの?
スモーキーピンクのロング丈のフレアワンピース。着心地良さそうな柔らかい生地で、これからの季節には良さそうだけど……。
こんな色、本当に着たことない。
自分には、可愛らしい服が似合うとは思えなくて、どちらかと言えばシャープな服ばかり着ていた。
でも……さっきの事もあるし、着てみるだけ着てみるか、と思い直して着替る事にした。
しばらくすると、トントンと扉をノックする音がして、「終わったか?」と司の声がした。
「う、うん……」
返事をすると、広めの個室になっているフィッティングルームに、遠慮なく司が入って来た。
鏡に映る私を見て、鏡の向こうにいる司はニヤニヤと笑っていた。
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