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手首を掴まれたまま、引きずられるように連れて行かれる。
「ちょっと!どこ行くんですか⁈」
ビルに入る事なく、手を引かれたまま駐車場から歩道へ出る。
私の歩く速度など向こうは気にする気配もなく、こっちは小走り状態だ。
そして長門さんは、私が事前にリサーチしていた立ち食い蕎麦屋の前まで来ると立ち止まった。
「えっ?本当に入るんですか?」
私が驚いてそう言うと、呆れたような冷たい視線を向けて「ばーか。こっちだこっち」と蕎麦屋の隣の、シックな作りの何の店だか分からない扉を開けた。
「いらっしゃいませ、長門様。お待ちしておりました」
中はこれまたシックで雰囲気のあるレストランだった。
まだ掴んだ手は離されず、そのまま奥へ進んで行く。
「長門さん!私こんな高そうなお店で食事なんて出来ません!」
周りに聞こえないよう気にしながら小声でそう言うのを無視され、奥の個室に通された。
「いいじゃねーの。1人じゃ味気ないだろ?」
「でもっ!」
「ほら、いいから座れ」
そう言って長門さんは椅子を引き、私を無理矢理座らせて自分は前の席に座った。
テーブルにはカトラリーやグラスがすでにセットしてあり、見るからに高級そうだ。
あー……本当なら今頃隣でお蕎麦啜ってる筈だったのに!
今更だが自分の財布の中身が心配になって来た。
「なんつー顔してるんだよ。緊張してんの?」
長門さんは目の前で頬杖をついて、意地悪そうに笑っている。
「し、してません!」
ほんとは無茶苦茶してるけど。
そうしているうちに前菜が運ばれて来た。
ウエイターが部屋から出ていくと、長門さんは早速ナイフとフォークを手にした。
それをしなやかに扱う長い指、料理が運ばれるその唇に目が行き、つい思い出してはいけない事を思い出しゾクゾクしてしまう。
いけない、いけない。
私は記憶を打ち消すように頭を振った。
長門さんは、ふっと視線をこちらに向け「何してんの?」と私に言う。
「な……なんでもありません」
「じゃあ早く食えよ」
「……いただきます」
そう言って料理を口に運ぶ。
それはもう今まで味わった事のないような極上の味がして、叫びだしたいくらいだったが、あくまでも冷静な顔をして食べ進めた。
長門さんの方はこちらを気にする様子もなく無言で食べ進めている。
何か拍子抜け……。
何かこう……もっと色々言われるのかと思ってたけど、あの夜のことなどおくびにも出さない。
「なあ、お前今まで現場入った事あんの?」
考え事をしながら食べていると、突然そう話しかけられた。
「えっ?あ、はい何度か」
「ふーん」
いくらスケ管専門と言っても、実際の現場を見ないと分からない事もある。
それに現場に入ると、その人の事がよく理解できてその後の仕事がし易くなったりもする。
だから、持っているクライアントの現場は必ず一度は見に行くようにしていた。
本当なら長門さんの現場だって、こちらからお願いして入らせてもらうべきなのだが、早く手放す気満々だったからそこまで思い至らなかった。
会話はそこで終了し、また沈黙が続くと、いつの間かデザートが運ばれてきていた。
初夏を思わせるような爽やかな色合いのムース。食べるとレモンの酸味がいい感じに口の中をスッキリさせてくれる。
こんな美味しいもの、またしばらく味わえないかも!と余韻を味わう。
「ふっ」
目の前で長門さんが吹き出した。
「お前、そんなに美味いなら俺のもやるぞ?」
長門さんはコーヒーカップ片手にニマニマ笑って私を見ている。
しまった!顔に出てたのか……。
顔がみるみる熱くなる。でも、もうこうなったら開き直ろう。
「い……いただきます」
「ちょっと!どこ行くんですか⁈」
ビルに入る事なく、手を引かれたまま駐車場から歩道へ出る。
私の歩く速度など向こうは気にする気配もなく、こっちは小走り状態だ。
そして長門さんは、私が事前にリサーチしていた立ち食い蕎麦屋の前まで来ると立ち止まった。
「えっ?本当に入るんですか?」
私が驚いてそう言うと、呆れたような冷たい視線を向けて「ばーか。こっちだこっち」と蕎麦屋の隣の、シックな作りの何の店だか分からない扉を開けた。
「いらっしゃいませ、長門様。お待ちしておりました」
中はこれまたシックで雰囲気のあるレストランだった。
まだ掴んだ手は離されず、そのまま奥へ進んで行く。
「長門さん!私こんな高そうなお店で食事なんて出来ません!」
周りに聞こえないよう気にしながら小声でそう言うのを無視され、奥の個室に通された。
「いいじゃねーの。1人じゃ味気ないだろ?」
「でもっ!」
「ほら、いいから座れ」
そう言って長門さんは椅子を引き、私を無理矢理座らせて自分は前の席に座った。
テーブルにはカトラリーやグラスがすでにセットしてあり、見るからに高級そうだ。
あー……本当なら今頃隣でお蕎麦啜ってる筈だったのに!
今更だが自分の財布の中身が心配になって来た。
「なんつー顔してるんだよ。緊張してんの?」
長門さんは目の前で頬杖をついて、意地悪そうに笑っている。
「し、してません!」
ほんとは無茶苦茶してるけど。
そうしているうちに前菜が運ばれて来た。
ウエイターが部屋から出ていくと、長門さんは早速ナイフとフォークを手にした。
それをしなやかに扱う長い指、料理が運ばれるその唇に目が行き、つい思い出してはいけない事を思い出しゾクゾクしてしまう。
いけない、いけない。
私は記憶を打ち消すように頭を振った。
長門さんは、ふっと視線をこちらに向け「何してんの?」と私に言う。
「な……なんでもありません」
「じゃあ早く食えよ」
「……いただきます」
そう言って料理を口に運ぶ。
それはもう今まで味わった事のないような極上の味がして、叫びだしたいくらいだったが、あくまでも冷静な顔をして食べ進めた。
長門さんの方はこちらを気にする様子もなく無言で食べ進めている。
何か拍子抜け……。
何かこう……もっと色々言われるのかと思ってたけど、あの夜のことなどおくびにも出さない。
「なあ、お前今まで現場入った事あんの?」
考え事をしながら食べていると、突然そう話しかけられた。
「えっ?あ、はい何度か」
「ふーん」
いくらスケ管専門と言っても、実際の現場を見ないと分からない事もある。
それに現場に入ると、その人の事がよく理解できてその後の仕事がし易くなったりもする。
だから、持っているクライアントの現場は必ず一度は見に行くようにしていた。
本当なら長門さんの現場だって、こちらからお願いして入らせてもらうべきなのだが、早く手放す気満々だったからそこまで思い至らなかった。
会話はそこで終了し、また沈黙が続くと、いつの間かデザートが運ばれてきていた。
初夏を思わせるような爽やかな色合いのムース。食べるとレモンの酸味がいい感じに口の中をスッキリさせてくれる。
こんな美味しいもの、またしばらく味わえないかも!と余韻を味わう。
「ふっ」
目の前で長門さんが吹き出した。
「お前、そんなに美味いなら俺のもやるぞ?」
長門さんはコーヒーカップ片手にニマニマ笑って私を見ている。
しまった!顔に出てたのか……。
顔がみるみる熱くなる。でも、もうこうなったら開き直ろう。
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