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あんな事があったけど、それを思い出さないように仕事に打ち込んだ。
自分で言うのもなんだけど、多分鬼のような形相で仕事をしていたのだろう。周りの社員が私を遠巻きに見ているのは分かっていた。
でも、そんな事に構っている暇はなかった。
なんで担当が一人増えただけで、業務量が5割増しになるの⁈
長門司と言う文字を見ただけで怒りが湧いてくる。
でも、見積もりが甘かったのは自分自身だ。今はとにかく耐えよう。
その時、珍しく目の前の内線が鳴った。
これまた嫌な予感しかしない。
「はい。長森です」
『あ、僕だけど……』
「生憎、僕と言う方に心当たりはございませんが」
『長森さぁーん。そんな事言わずに社長室来てくれない?』
はぁ……と深くため息を吐くと、「3分だけお待ち下さい」と、カップラーメンのような事を言って私は電話を切った。
目の前の案件を片付け、社長室のドアをノックしたのは測ったように3分後だった。
「どうぞ~」
中からはいつもの調子の社長の声が聞こえた。
「失礼します」
そう言って中に入ると、社長が引きつった笑顔で出迎えてくれた。
私は立ったまま、「ご用件はなんでしょう?」と嫌味な笑顔で尋ねた。
「えーっと……。明日kyo君の撮影入ってるよね」
「えぇ。長門さんが!ですが」
「でね……。同行してくれないかなーって話なんだけど……」
それを聞いて私の眉間に深くシワが刻まれた。頭には怒りマークが一つじゃ済まない。
「何故私が撮影の同行する必要があるんでしょう?専属を早く付けていただけば解決するんじゃないですか?」
きっと今の私からはクーラーより冷たい冷気が出ているだろう。
「その事なんだけど……。司から伝言で、今回同行すれば専属の件考え直してもいいって……」
目の前の社長は、まるで大雨の日に捨てられた子犬のように怯えている。
この人、何か長門さんに弱味でも握られているんだろうか。
「本当にそう言ったんですね?」
私は笑顔もなく冷たい視線を送る。
「うん。言った!2回も言ってたから。だから明日お願い!」
「………。定時」
「え?」
「条件は定時帰りです」
社長はやっとホッとした顔で「任せて!」といいねポーズで答えた。
翌日。私はいつも通り出勤し、メールチェックから始める。
今日撮影に同行したからと言って仕事が減るわけではない。出来るだけ仕事は減らしておきたい。
撮影は13時スタートだ。所要時間を考えて11時には出たい。あとは持ち出し用のタブレットで何とかしよう。
外出の準備をしながら、本当に専属の話を考え直してくれるのだろうかとふと思う。
だいたいあの時、飲み直すのに付き合ったら考え直すと言ったはずだ。
それ以上の事をしといて、未だに考え直すとか、何言ってんだと腹が立って来た。
にしても、忘れようとしても忘れられないあの日の出来事。
いまだに思い出すと身体が熱くなる。
悔しいが、今まで関係を持った誰よりも良かった……なんて事は口が裂けても言えない。
目が覚めて、「まだいたの?」なんて言われたらストレスメーターが振り切れるわ!と私はこっそり部屋を出た。
意外と長門さんは熟睡していて、1時間位ゴソゴソしてたのに、結局起きなかった。
まあ、起きたら私がいなくて清々しただろう。
外出の用意が終わると、鞄を持って社長室に向かう。
部屋をノックして入ると、机に向かっていた社長が顔を上げた。
「では社長、行ってまいります」
「あ、長森さん、よろしくね。早めに終わってもノーリターンでいいからね!」
「もちろんそのつもりです」
私はにっこり笑って答えた。
「あと、その……迎えが……」
「なんですか?」
「迎えが来てるから」
何で恐る恐る私の顔色を伺いながら言う?
「迎えなどいりませんが?」
何となく察して、張り付いた笑顔のまま冷たく言い放つ。
「いや……でも来ちゃってるし……」
思わず深ーい溜め息が漏れ出る。
なーにが『来ちゃってる』だ。
「せっかく俺が直々に迎えに来てやったのに、もうちょっと喜べよ」
そう後ろから、不服そうな、聞きたくない声が聞こえてきた。
自分で言うのもなんだけど、多分鬼のような形相で仕事をしていたのだろう。周りの社員が私を遠巻きに見ているのは分かっていた。
でも、そんな事に構っている暇はなかった。
なんで担当が一人増えただけで、業務量が5割増しになるの⁈
長門司と言う文字を見ただけで怒りが湧いてくる。
でも、見積もりが甘かったのは自分自身だ。今はとにかく耐えよう。
その時、珍しく目の前の内線が鳴った。
これまた嫌な予感しかしない。
「はい。長森です」
『あ、僕だけど……』
「生憎、僕と言う方に心当たりはございませんが」
『長森さぁーん。そんな事言わずに社長室来てくれない?』
はぁ……と深くため息を吐くと、「3分だけお待ち下さい」と、カップラーメンのような事を言って私は電話を切った。
目の前の案件を片付け、社長室のドアをノックしたのは測ったように3分後だった。
「どうぞ~」
中からはいつもの調子の社長の声が聞こえた。
「失礼します」
そう言って中に入ると、社長が引きつった笑顔で出迎えてくれた。
私は立ったまま、「ご用件はなんでしょう?」と嫌味な笑顔で尋ねた。
「えーっと……。明日kyo君の撮影入ってるよね」
「えぇ。長門さんが!ですが」
「でね……。同行してくれないかなーって話なんだけど……」
それを聞いて私の眉間に深くシワが刻まれた。頭には怒りマークが一つじゃ済まない。
「何故私が撮影の同行する必要があるんでしょう?専属を早く付けていただけば解決するんじゃないですか?」
きっと今の私からはクーラーより冷たい冷気が出ているだろう。
「その事なんだけど……。司から伝言で、今回同行すれば専属の件考え直してもいいって……」
目の前の社長は、まるで大雨の日に捨てられた子犬のように怯えている。
この人、何か長門さんに弱味でも握られているんだろうか。
「本当にそう言ったんですね?」
私は笑顔もなく冷たい視線を送る。
「うん。言った!2回も言ってたから。だから明日お願い!」
「………。定時」
「え?」
「条件は定時帰りです」
社長はやっとホッとした顔で「任せて!」といいねポーズで答えた。
翌日。私はいつも通り出勤し、メールチェックから始める。
今日撮影に同行したからと言って仕事が減るわけではない。出来るだけ仕事は減らしておきたい。
撮影は13時スタートだ。所要時間を考えて11時には出たい。あとは持ち出し用のタブレットで何とかしよう。
外出の準備をしながら、本当に専属の話を考え直してくれるのだろうかとふと思う。
だいたいあの時、飲み直すのに付き合ったら考え直すと言ったはずだ。
それ以上の事をしといて、未だに考え直すとか、何言ってんだと腹が立って来た。
にしても、忘れようとしても忘れられないあの日の出来事。
いまだに思い出すと身体が熱くなる。
悔しいが、今まで関係を持った誰よりも良かった……なんて事は口が裂けても言えない。
目が覚めて、「まだいたの?」なんて言われたらストレスメーターが振り切れるわ!と私はこっそり部屋を出た。
意外と長門さんは熟睡していて、1時間位ゴソゴソしてたのに、結局起きなかった。
まあ、起きたら私がいなくて清々しただろう。
外出の用意が終わると、鞄を持って社長室に向かう。
部屋をノックして入ると、机に向かっていた社長が顔を上げた。
「では社長、行ってまいります」
「あ、長森さん、よろしくね。早めに終わってもノーリターンでいいからね!」
「もちろんそのつもりです」
私はにっこり笑って答えた。
「あと、その……迎えが……」
「なんですか?」
「迎えが来てるから」
何で恐る恐る私の顔色を伺いながら言う?
「迎えなどいりませんが?」
何となく察して、張り付いた笑顔のまま冷たく言い放つ。
「いや……でも来ちゃってるし……」
思わず深ーい溜め息が漏れ出る。
なーにが『来ちゃってる』だ。
「せっかく俺が直々に迎えに来てやったのに、もうちょっと喜べよ」
そう後ろから、不服そうな、聞きたくない声が聞こえてきた。
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