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「本当に悪いと思うなら早く私以外の専属を付けて下さい。そしたら私のストレスも減ります」

ここで感情的になっても仕方ないと、私は出来る限り冷静に告げた。

「あー……それは無理だな。じゃあ、俺でストレス解消する?」

私の申し出をあっさり打ち消した上に、その物言い。さすがの私も素で返す。

「は?しませんが」
「なんで?誰でもいいんだろ?」

長門さんはニヤニヤとこちらに顔を向けて、グラスを傾けている。

ほんとっっ!この人噂通りのプレーボーイだ。俺が声かけてやってんのに位は思ってるはずだ。

「誰でもいいわけじゃありません。私、後腐れなさそうな人しか選びませんから」

これからも仕事で付き合いのある人となんて冗談じゃないと冷たく言い返す。
なのに、言われた本人は全く引く様子はなかった。

「じゃあ飲み直すくらいいいだろ?」
「嫌です」
「だったら専属の話どうしようかなぁ~?飲み直すの付き合ってくれたら考えてもいいんだけどなぁ」

長門さんは、空になったグラスをわざとらしく持ち上げて、カラカラと降って見せる。

「……脅しですか?」

思わず眉間に皺を寄せ尋ねる。

「そうそう。脅し。付き合ってくれよな?」

軽いノリで返され、この人に何を言っても無駄だと諦めた。とりあえず私を専属するのだけはどうにか阻止しないと、と思い直す。

「……1杯だけですよ」
「決まり!じゃあ行こうか」

満面の笑みを見せて長門さんは立ち上がる。

本当に……悔しいがこの人、顔はイイ。


……何でここ?

連れて来られたのは、さっきのバーから徒歩ですぐの老舗ホテル。

最上階のバーに行くのかと思ったら、途中でエレベーターを降り、部屋に連れ込まれた。

とは言え、夜景の綺麗な窓際のソファに座らされ、長門さんはグラスの並ぶカウンターに向かった。

「何飲む~?」

呑気に話しかけられて、私は「何でもいいです……」と戸惑い気味に答えた。

ダブルベッドのある少し広めの部屋に、開けっ放しのスーツケースが転がり、椅子には無造作シャツがかけられている。

そう言えば日本に滞在中、このホテルに住むって社長言ってたっけ。すっかり頭から抜け落ちてた。覚えてたらこの辺りには近寄らなかったのにと後悔する。

「お前、酒強そうだよな。ウィスキーでいいか?」

グラスを差し出され、私がそれを受け取ると、長門さんは向かいの1人掛けソファに座った。
グラスを合わせる事もなく、口を付ける長門さんを見て、私も続いた。

「あ……美味しい」

バーでは手も出ないような額で置かれていそうな芳醇な香りと味わいに、思わずそう口にする。

「貰いもんだけど、いいやつだなこれ」

まあ、貰ったものの値段なんて気にはしないだろう。この人は。

美味しいお酒に美しい夜景。雰囲気最高なのに、つい部屋の中の様子が気になりそちらに視線を移してしまう。

「……それにしても、高級感台無しな位生活感で溢れてますね」
「そーだな。一人だし別にいいかと思って」

毎日取っ替え引っ替え誰かしら連れ込んでいそうなのに、そうでもないのだろうか?
この部屋の惨事を見たら幻滅する人もいそうだ。

「お世話してくれる女性の1人や2人いるんじゃないんですか?」

つい、笑顔で憎まれ口を叩いてしまう。自分でも思うが本当に可愛げがない。
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