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7.和を以て……いったいどうなる?
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そう、なのだ。
こうなることを想定して、役所に婚姻届不受理の申請をしていた。だから、専務と私が結婚することはない、とわかっていた。
けれど、それが顔に出てしまうことのほうが怖かった。私が少しでも余裕のある姿を見せてたら勘付かれてしまう。だから結局、私は恐怖で顔を引き攣らせていたのだけど。
「失礼します」
パーテーションの向こう側からスタッフの女性が顔を出す。その人はいっちゃんに何か伝えると、その返事を聞いて頷いていた。
「客だ。お前らに」
いっちゃんにそう言われ、私は創ちゃんの顔を見る。創ちゃんは、きっと誰かわかっているのだろう。穏やかに微笑んだ。
「与織子ちゃん!!」
パーテーションの向こうから顔を出したのは、桃花ちゃん。私の元までやってくると、立ち上がった私に抱きついた。
「よかったぁ! 本当にどうなるかと思ったぁ!」
桃花ちゃんは半泣きでそう言っている。私は驚きながらも、半分納得していた。創ちゃんに味方していた人物。私が予想したうちの一人。そして……
「こらこら、桃ちゃん。朝木さんが困っているだろう?」
そう言って現れたもう一人。それは、鈴木課長だ。
「課長。この度はご心配をおかけしました。おかげで、なんとかなりました」
創ちゃんは立ち上がりそう言うと、課長にお辞儀をした。
「なぁに、僕のほうこそ、色々と世話をかけたね」
穏やかに課長はそう言った。
そういえば……とふと思い出す。前に清田さんが言った言葉。あれは、『課長は頼りない』じゃなく、『頼りなく、見える』だったことを。そう言えば、見えるだけで頼りないとは一言も言っていない。
「それにしても、桃花ちゃん。その、課長とは……いったい……」
さっき耳に入った『桃ちゃん』呼び。まさか、いや、課長は既婚者だったはず、と頭の中がグルグルしている。
「え? 兄、なの。義理の。お姉ちゃんの旦那さん」
「そうなの⁈」
「うん。うちの実家にお兄ちゃんが営業に来たのがきっかけなんだけど!」
思わず課長の顔を見ると、「いやぁ、お恥ずかしい」と頭を掻いていた。
それから課長はいっちゃんに向くと手を差し出した。
「朝木部長。この度はお力添え、ありがとうございました。これでまたうちはやり直すことができます」
「こちらこそ。一度失った信用を取り戻すのは簡単ではないでしょう。これからも、手を取り合っていきましょう。鈴木社長」
そう言って2人はガッチリ握手を交わしていた。
って待って? 今、最後になんて言った?
創立パーティーは無事に終わり、私はやっと肩の荷を下ろしていた。
あのあと、さすがに歓談の場に顔を出さないのも、と会場に戻った私たちは、案の定たくさんの人に囲まれてしまった。私以外の3人が慣れた様子で相手をしているのを横目に、私だけがワタワタしてしまい、とにかく疲れた。
「与織子ちゃん、お疲れ様」
また控室に戻り、げっそりした私にお母さんが言う。
「本当に……疲れたよ……」
そんな風に返す私に、全く空気の読めないお父さんは明るい声を出す。
「与織子! いやぁ、今日はよくやった。綺麗だったぞ!」
そんなお父さんに、私は冷たい視線を浴びせていた。
「あのね、お父さん。元を正せば、お父さんが私にちゃんと説明しなかったのが悪いと思うの」
「えっーとだな、それは、その……」
春、お父さんが私に言った、真っ赤な嘘。私はそれに振り回されてしまったのだ。あの時、ちゃんと説明されていたら……。いや、それは結果で、もし聞いていても、どうなったかわからない。もしかしたら、創ちゃんに対しても疑心暗鬼になっていたかも知れない。
私の持っていたものが持っていたものだったから。
その辺りは、私も色々反省した。自分のことなのに、深く考えずにサインしてしまったことに。
朝木家も、川村家と同じように、仲違いをしたことを後悔していたのだ。そして、いつか旭河に貢献できるように、とコツコツと株を買い集めていた。こんな大企業に成長する前から。そして、家族に分散されていたそれを、お父さんはある時全部、私の名義にしてしまった。私は言われるがままに名義変更の書類にサインし、そしていつのまにか、私は個人株主の上位に躍り出てしまったのだ。
「持参金代わりに、と思ってだな……」
「持参金?」
「そうだ。川村の坊が、与織子を嫁に欲しいって言うからだなぁ……」
ちょっと待って。それはいったいいつの話なの?
後ろを振り返ると、創ちゃんは決まりが悪そうに視線を逸らした。
「それって……いつなの?」
またお父さんに向き直ると、私は尋ねる。
「うーんと、あれだ。与織子が16になる前だ。さすがに16で嫁にはやれないって言ったら、大学卒業まで待つって」
私はもう、溜め息しか出なかった。創ちゃんは私の隣に来ると、「いや、その。ちょっと説明させてくれ」と焦り気味で私に声を掛けてきた。
「あとでじっくり聞きます!」
私がニッコリ笑って言うと、創ちゃんはたじろぎながら「はい……」と返事をしていた。
こうなることを想定して、役所に婚姻届不受理の申請をしていた。だから、専務と私が結婚することはない、とわかっていた。
けれど、それが顔に出てしまうことのほうが怖かった。私が少しでも余裕のある姿を見せてたら勘付かれてしまう。だから結局、私は恐怖で顔を引き攣らせていたのだけど。
「失礼します」
パーテーションの向こう側からスタッフの女性が顔を出す。その人はいっちゃんに何か伝えると、その返事を聞いて頷いていた。
「客だ。お前らに」
いっちゃんにそう言われ、私は創ちゃんの顔を見る。創ちゃんは、きっと誰かわかっているのだろう。穏やかに微笑んだ。
「与織子ちゃん!!」
パーテーションの向こうから顔を出したのは、桃花ちゃん。私の元までやってくると、立ち上がった私に抱きついた。
「よかったぁ! 本当にどうなるかと思ったぁ!」
桃花ちゃんは半泣きでそう言っている。私は驚きながらも、半分納得していた。創ちゃんに味方していた人物。私が予想したうちの一人。そして……
「こらこら、桃ちゃん。朝木さんが困っているだろう?」
そう言って現れたもう一人。それは、鈴木課長だ。
「課長。この度はご心配をおかけしました。おかげで、なんとかなりました」
創ちゃんは立ち上がりそう言うと、課長にお辞儀をした。
「なぁに、僕のほうこそ、色々と世話をかけたね」
穏やかに課長はそう言った。
そういえば……とふと思い出す。前に清田さんが言った言葉。あれは、『課長は頼りない』じゃなく、『頼りなく、見える』だったことを。そう言えば、見えるだけで頼りないとは一言も言っていない。
「それにしても、桃花ちゃん。その、課長とは……いったい……」
さっき耳に入った『桃ちゃん』呼び。まさか、いや、課長は既婚者だったはず、と頭の中がグルグルしている。
「え? 兄、なの。義理の。お姉ちゃんの旦那さん」
「そうなの⁈」
「うん。うちの実家にお兄ちゃんが営業に来たのがきっかけなんだけど!」
思わず課長の顔を見ると、「いやぁ、お恥ずかしい」と頭を掻いていた。
それから課長はいっちゃんに向くと手を差し出した。
「朝木部長。この度はお力添え、ありがとうございました。これでまたうちはやり直すことができます」
「こちらこそ。一度失った信用を取り戻すのは簡単ではないでしょう。これからも、手を取り合っていきましょう。鈴木社長」
そう言って2人はガッチリ握手を交わしていた。
って待って? 今、最後になんて言った?
創立パーティーは無事に終わり、私はやっと肩の荷を下ろしていた。
あのあと、さすがに歓談の場に顔を出さないのも、と会場に戻った私たちは、案の定たくさんの人に囲まれてしまった。私以外の3人が慣れた様子で相手をしているのを横目に、私だけがワタワタしてしまい、とにかく疲れた。
「与織子ちゃん、お疲れ様」
また控室に戻り、げっそりした私にお母さんが言う。
「本当に……疲れたよ……」
そんな風に返す私に、全く空気の読めないお父さんは明るい声を出す。
「与織子! いやぁ、今日はよくやった。綺麗だったぞ!」
そんなお父さんに、私は冷たい視線を浴びせていた。
「あのね、お父さん。元を正せば、お父さんが私にちゃんと説明しなかったのが悪いと思うの」
「えっーとだな、それは、その……」
春、お父さんが私に言った、真っ赤な嘘。私はそれに振り回されてしまったのだ。あの時、ちゃんと説明されていたら……。いや、それは結果で、もし聞いていても、どうなったかわからない。もしかしたら、創ちゃんに対しても疑心暗鬼になっていたかも知れない。
私の持っていたものが持っていたものだったから。
その辺りは、私も色々反省した。自分のことなのに、深く考えずにサインしてしまったことに。
朝木家も、川村家と同じように、仲違いをしたことを後悔していたのだ。そして、いつか旭河に貢献できるように、とコツコツと株を買い集めていた。こんな大企業に成長する前から。そして、家族に分散されていたそれを、お父さんはある時全部、私の名義にしてしまった。私は言われるがままに名義変更の書類にサインし、そしていつのまにか、私は個人株主の上位に躍り出てしまったのだ。
「持参金代わりに、と思ってだな……」
「持参金?」
「そうだ。川村の坊が、与織子を嫁に欲しいって言うからだなぁ……」
ちょっと待って。それはいったいいつの話なの?
後ろを振り返ると、創ちゃんは決まりが悪そうに視線を逸らした。
「それって……いつなの?」
またお父さんに向き直ると、私は尋ねる。
「うーんと、あれだ。与織子が16になる前だ。さすがに16で嫁にはやれないって言ったら、大学卒業まで待つって」
私はもう、溜め息しか出なかった。創ちゃんは私の隣に来ると、「いや、その。ちょっと説明させてくれ」と焦り気味で私に声を掛けてきた。
「あとでじっくり聞きます!」
私がニッコリ笑って言うと、創ちゃんはたじろぎながら「はい……」と返事をしていた。
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