貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月

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7.和を以て……いったいどうなる?

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「それではここで、皆様に紹介させていただきます」

 拍手が落ち着いたころ、社長は声のトーンを上げそう言う。そして、それに合わせて向こう側の袖から登場したのは……。

「私の姪、枚田澪。旭河広報部長でもあり、朝木家長男、一矢」

 ドレスに着替えた澪さんと、久しぶりに姿を見た、いっちゃん。2人とも、さすがというか、堂々としている。

「川村家長男、創一。そして、朝木家長女、与織子」

 社長が今度はこちらを向き、そう声を上げる。

「さぁ、行こう」

 私を見て創ちゃんは小さくそう言うと、2人でステージの明るいほうへ歩き出した。
 緊張で足がもつれそうになりながら、私は創ちゃんのあとに続いた。前を向くと、人人人で、気が遠くなりそうだ。

「私は息子に、朝木家との架け橋となることを願い、創業者から一文字ずつ名前をもらい、創一と名付けました。長年の願いだった交流は、私の代で種を蒔き、そして、次の代で実を結ぼうとしています」

 そうなんだ、なんて思いながら、私は創ちゃんの顔を見上げる。けれど、そう驚くことじゃないんだけど……と、私はまた社長の話に耳を傾けた。

「しかしながら、私はその成長を見守ることしか、して参りませんでした。自然の中で逞しく育って欲しい。それは自然を愛する朝木家の願いでもあったからです」

 植物に例えられているこの話。もしかしたら、次に話す内容に繋がっているのかも知れないと私は思う。

「ですが、私の心配をよそに、見事な花を咲かせてくれようとしています」

 社長は、いったん一呼吸おき、そしてまたマイクを持ち上げた。

「ここに、この2組が、めでたく婚約いたしましたことを披露させていただきます!」

 割れんばかりの拍手の中、創ちゃんは隣で前に向かってお辞儀をする。私も慌ててそれに倣い、お辞儀をした。

 ここまでは……予定通り、だ。     元々この場で、いっちゃんたちと一緒に婚約発表することは決まっていた。やっぱり、何に驚くのかわからない……と思いながら私は顔を上げた。

 そしてまた拍手の音が小さくなっていくと、また社長は続けた。

「そしてもう一つ」

 凛とした声が響くと、また会場は静かになり、皆固唾を飲んで社長に視線を送る。

「私はあと数年で一線を退くこととなります。今後はこの、朝木一矢を後継者として育てていく所存です」

 たぶん、私は会場にいる参加者と同じようにポカンとしてしまったと思う。
 隣から、創ちゃんの、小さく笑う「与織子、顔」の声にようやく我に返ったくらいだ。


◆◆


「さすがに疲れたな!」

 祝賀会は歓談の時間に入り、私たちは控室に戻っていた。

 まず、伸びをしながら大きな声を上げたのは、いっちゃん。

「一矢、寝た? ちゃんと食べてたの?」

 澪さんは心配そうに、いっちゃんの顔を覗き込んでいる。今、ここでそんなことを尋ねると言うことは、2人もしばらく会ってなかったのだろう。

「あ~。なんとか数時間。それより俺は、お前の飯が早く食いたい」

 そう言うと、いっちゃんは甘えるように澪さんに抱きつき、澪さんは「はいはい。帰ったらね?」と言いながら、背中をポンポン叩いていた。

「創ちゃんも、だよね? ……あの、結局、何がどうなったの?」

 よくよく見ると、創ちゃんの顔は少しやつれて目の下にはクマができている。その顔を見ながら、私は尋ねた。

「あぁ。全部話そう」

 そう言われ、私たちはテーブルに移動した。澪さんが気を利かせて、2人に軽食を頼んでくれていて、それを食べながら創ちゃんは語り出した。

「結果から言うと、専務は不正経理、業務上横領の容疑で捕まった。それが昨日の夕方。そこから臨時総会開いて、専務の解任と、引責辞任した社長の交代が決まったのが今日」

 聞かされた結果が意外過ぎて、私は声も出せず、ただ創ちゃんの顔を眺めていた。

「あの人、自分がやったことを俺に擦りつけようとしたみたいだけど、詰めが甘い。こっちも1年前から証拠を掴もうと水面下で動いていたことに気づかなかったみたいだな」
「そんな前から?」
「そう。もちろん、動いてたのは俺だけじゃない。俺がいないのに気を抜いたのか、最後の最後に証拠を放置して出て行ったのが運の尽きだ」

 放置して出て行った……。それには思い当たる節がある。

「それって昨日?」
「そうだ。与織子との入籍を急いだあまりにかなり手薄だったみたいだな。あとは、役所に現れたアイツを引っ張ったってわけだ」

 もちろん、創ちゃんは会社にいなかった。連絡も取れない状態だったはずだ。じゃあ、いったい誰が……と考えても、まさか、って言う気持ちが先立つ。

「にしても、さすがだな。創一。アイツが役所に与織子を連れて行かないって踏んだのは」

 いっちゃんが、サンドイッチをスープで流し込むとそう言った。

「さすがにそんな面倒なことはしないだろう。不受理届が出てることくらい予想できないんだから。世間知らずのお坊ちゃんで助かったがな」
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