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4.婚約者の憂鬱
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パーキングエリアで少しだけ休憩するとまた出発する。実家まではあと半分ほどの距離だ。
しばらく黙って外を眺めていたが、さすがになんだか居心地が悪い。
「主任は……誕生日、いつですか?」
唐突すぎただろうか?
前を向いている主任の横顔を見上げると、「なんでだ?」と返ってきた。
「婚約者なのに主任のこと、何も知らないなぁって。会社でもそんな話しないし。だから教えてください」
「……8月13日だ」
少し眉を顰めながら主任は言う。そして私は、「あ、そうだ」とスマホを取り出した。
「忘れないようにメモしときますね。じゃあ……血液型は?」
「Bだ」
私はそれをメモに打ち込みながら続けた。
「趣味はありますか?」
「あえて言うなら……ドライブだな。大学の頃に日本一周したことがある」
「えっ! 日本一周?」
画面から顔を上げてそう言うと、涼しい顔をして主任は答える。
「まぁ、観光などほとんどしてないがな」
「それはそれで凄いです。私なら寄り道しまくりそう……。次は……好きな食べ物は?」
なんだか尋問みたいになっている気がするが、私は主任に質問を続ける。
「別にこれと言ってないな。よほどでなければなんでも食べる」
さっき食べさせてくれと言われた私の料理が、よほどに入らなきゃいいんだけど……と思いながら画面に向かう。そして早くもネタ切れで、何を聞こうか悩んでしまった。
「あ、念のために私の情報も伝えておきましょうか?」
不意に思いつき、顔を上げると主任を見る。
「……。3月2日生まれ、O型。趣味は家庭菜園。好きな食べ物はスイーツ全般。どこか間違っているところはあるか?」
アッサリとそう言われて「いえ。何一つ間違っておりません……」と小さくなりながら返す。
「何でそんなに覚えてるんですか?」
いくらなんでも覚えすぎだと思う。だって私から、そんな話したことないのに。
「まず、毎年2月に入るとすぐ一矢達が誕生日プレゼントは何にしようかって騒ぎだす。血液型は、一矢が昔両親ともO型だと言っていた。趣味は、実樹がそんなことを話してた記憶があるからな。で、スイーツはついこの前一矢に聞かされたばかりだ」
本当に……うちの兄達はいったい何を聞かせているんだ……と溜め息が出る。
「すみません。私の話をされても楽しくないですよね。もう黙るように兄に言っておきます」
私は項垂れながらそう言う。
「そうでもない。俺には兄弟がいないからな。妹ができたような気にはなった」
主任は、少し楽しそうにそう言った。
約一月半ぶりに帰る実家。緩やかな坂を登ると突き当たりに家がある。
「ん?」
家の庭兼駐車場。そこに昼間自分が乗った車が止まっていた。そして、この車が坂を上がりきるのを見ていたのか、運転席の扉が開き中から誰か降りきてた。
「ふう君⁈ なんで?」
驚いている私をよそに、主任は「一矢の差し金だろう。自分が動けないから颯太を寄越したんだな」と、呆れたように言った。
主任が車を停め、エンジンを切る前に私はシートベルトを外し、外に飛び出した。
「ふう君! どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、兄貴から突然電話があって、与織が実家に帰るはずだから待っとけって。てか、なんで創一さんと一緒?」
ふう君は目を丸くして私に尋ねている。いっちゃんはきっと、一切状況を説明してないんだろう。
「これには色々と……」
話していいのかわからず言葉を濁していると、ガラガラと玄関の引き戸が開き、お母さんが顔を覗かせた。
「あら与織子ちゃん。思ってたより早かったのね。颯太君は、いつの間に帰ってたの?」
「ただいま」
「俺はほんの5分くらい前。って、与織はなんで帰ってきたんだ? しかも創一さんと。会社でなんかあった?」
心配そうにふう君が尋ねているところに、ようやく手土産をぶら下げた主任がやってきた。
「俺がついてるのに会社で何かあるわけないだろう」
呆れたように主任が言うと、ふう君は「さすが創一さん。けどさ与織、会社で扱かれてないか? 大丈夫?」なんて私に振る。
「大丈夫だよ! いつも助けてもらってる!」
打ち消すように手を振りながら頭を横にブンブン振ると、「ならいいけど」とふう君は言った。
「もう、あなた達。こんなところで立ち話しないの。さ、創一君も入って。お父さんが待っているわよ」
そう言ってお母さんは私達を窘めてから主任にそう促した。
と言うか、まさかのお母さんも顔見知り⁈
唖然としながら私は先に家に入る主任のあとに続いた。
居間には、それはそれは上機嫌のお父さんが待ち構えていた。
「久しぶりだなぁ。川村の坊!」
そう言われて、主任は少し眉を顰めると「ご無沙汰しております。怜さん」と、お父さんを名前で呼んだ。それから手土産を取り出すと、それを差し出した。
「お口に合えばいいのですが。よろしければお召し上がりください」
丁寧な口調で主任はそう言い、それを受け取ったお母さんが「今から出しましょうか。じゃあ颯太君。手伝ってくれる?」とふう君に言う。
「えっ? 俺?」と突然振られたふう君は、渋々お母さんについて部屋をあとにして行った。
しばらく黙って外を眺めていたが、さすがになんだか居心地が悪い。
「主任は……誕生日、いつですか?」
唐突すぎただろうか?
前を向いている主任の横顔を見上げると、「なんでだ?」と返ってきた。
「婚約者なのに主任のこと、何も知らないなぁって。会社でもそんな話しないし。だから教えてください」
「……8月13日だ」
少し眉を顰めながら主任は言う。そして私は、「あ、そうだ」とスマホを取り出した。
「忘れないようにメモしときますね。じゃあ……血液型は?」
「Bだ」
私はそれをメモに打ち込みながら続けた。
「趣味はありますか?」
「あえて言うなら……ドライブだな。大学の頃に日本一周したことがある」
「えっ! 日本一周?」
画面から顔を上げてそう言うと、涼しい顔をして主任は答える。
「まぁ、観光などほとんどしてないがな」
「それはそれで凄いです。私なら寄り道しまくりそう……。次は……好きな食べ物は?」
なんだか尋問みたいになっている気がするが、私は主任に質問を続ける。
「別にこれと言ってないな。よほどでなければなんでも食べる」
さっき食べさせてくれと言われた私の料理が、よほどに入らなきゃいいんだけど……と思いながら画面に向かう。そして早くもネタ切れで、何を聞こうか悩んでしまった。
「あ、念のために私の情報も伝えておきましょうか?」
不意に思いつき、顔を上げると主任を見る。
「……。3月2日生まれ、O型。趣味は家庭菜園。好きな食べ物はスイーツ全般。どこか間違っているところはあるか?」
アッサリとそう言われて「いえ。何一つ間違っておりません……」と小さくなりながら返す。
「何でそんなに覚えてるんですか?」
いくらなんでも覚えすぎだと思う。だって私から、そんな話したことないのに。
「まず、毎年2月に入るとすぐ一矢達が誕生日プレゼントは何にしようかって騒ぎだす。血液型は、一矢が昔両親ともO型だと言っていた。趣味は、実樹がそんなことを話してた記憶があるからな。で、スイーツはついこの前一矢に聞かされたばかりだ」
本当に……うちの兄達はいったい何を聞かせているんだ……と溜め息が出る。
「すみません。私の話をされても楽しくないですよね。もう黙るように兄に言っておきます」
私は項垂れながらそう言う。
「そうでもない。俺には兄弟がいないからな。妹ができたような気にはなった」
主任は、少し楽しそうにそう言った。
約一月半ぶりに帰る実家。緩やかな坂を登ると突き当たりに家がある。
「ん?」
家の庭兼駐車場。そこに昼間自分が乗った車が止まっていた。そして、この車が坂を上がりきるのを見ていたのか、運転席の扉が開き中から誰か降りきてた。
「ふう君⁈ なんで?」
驚いている私をよそに、主任は「一矢の差し金だろう。自分が動けないから颯太を寄越したんだな」と、呆れたように言った。
主任が車を停め、エンジンを切る前に私はシートベルトを外し、外に飛び出した。
「ふう君! どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、兄貴から突然電話があって、与織が実家に帰るはずだから待っとけって。てか、なんで創一さんと一緒?」
ふう君は目を丸くして私に尋ねている。いっちゃんはきっと、一切状況を説明してないんだろう。
「これには色々と……」
話していいのかわからず言葉を濁していると、ガラガラと玄関の引き戸が開き、お母さんが顔を覗かせた。
「あら与織子ちゃん。思ってたより早かったのね。颯太君は、いつの間に帰ってたの?」
「ただいま」
「俺はほんの5分くらい前。って、与織はなんで帰ってきたんだ? しかも創一さんと。会社でなんかあった?」
心配そうにふう君が尋ねているところに、ようやく手土産をぶら下げた主任がやってきた。
「俺がついてるのに会社で何かあるわけないだろう」
呆れたように主任が言うと、ふう君は「さすが創一さん。けどさ与織、会社で扱かれてないか? 大丈夫?」なんて私に振る。
「大丈夫だよ! いつも助けてもらってる!」
打ち消すように手を振りながら頭を横にブンブン振ると、「ならいいけど」とふう君は言った。
「もう、あなた達。こんなところで立ち話しないの。さ、創一君も入って。お父さんが待っているわよ」
そう言ってお母さんは私達を窘めてから主任にそう促した。
と言うか、まさかのお母さんも顔見知り⁈
唖然としながら私は先に家に入る主任のあとに続いた。
居間には、それはそれは上機嫌のお父さんが待ち構えていた。
「久しぶりだなぁ。川村の坊!」
そう言われて、主任は少し眉を顰めると「ご無沙汰しております。怜さん」と、お父さんを名前で呼んだ。それから手土産を取り出すと、それを差し出した。
「お口に合えばいいのですが。よろしければお召し上がりください」
丁寧な口調で主任はそう言い、それを受け取ったお母さんが「今から出しましょうか。じゃあ颯太君。手伝ってくれる?」とふう君に言う。
「えっ? 俺?」と突然振られたふう君は、渋々お母さんについて部屋をあとにして行った。
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