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3.お見合い相手はいったい誰?

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 そして、5月最初の火曜日。お見合いドタキャン事件からの、今日はお見合い当日。

「こんな感じでどう?」

 今日は家にいてくれたみー君が髪の毛をセットしてくれた。鏡に写る私は、プロにしてもらったのと遜色ない出来だ。

「ありがとう! 凄く可愛い!」

 私はそう声を弾ませて答えた。もちろん、可愛いのは髪型なんだけど。着ているのは、春らしいシフォン生地の淡いオレンジのワンピース。今日のためにいっちゃんがお詫びだとプレゼントしてくれたのだ。何のお詫びかと言うと、今日付き添いできないからなんだけど。

「与織~。用意できたか?」

 そう言って部屋を覗き込んだのはふう君だ。今日は先週と反対で、いっちゃんが不在でふう君とみー君が家にいる。そして、送ってくれるのはふう君だ。

「お待たせ! できたよ?」

 立ち上がって扉に向かうと、ふう君はニコニコしながら「お、可愛いじゃん」と褒めてくれた。

「みー君のおかげだよ? それよりもう出たほうがいいかな?」

 約束の時間は12時。今日は前とは違う、けど同じくらい高級なホテルでのランチだ。

「だな。休みで道混んでるかも知れないしな」

 そう言ってふう君は自分の腕時計を確認した。

「じゃあみー君。行ってきます!」
「うん。楽しんできてね」
「あ、うん」

 私はそう歯切れの悪い返事で答えた。

 2人にはお見合いのことは言っていない。だから今日私は、大学時代の友達とランチに行くと言うことになっているのだ。

 それにしても、お見合いなのにいきなり2人だけでランチなんて、どうしていいのやら。

 いっちゃんに愚痴ると、「まぁ、お見合いだと思わずに飯食って帰ってくればいいから」なんて返された。

 でもお父さんには『相手の動向を探れ』なんて申しつけられたんだけどな、と思いながらも、私が初対面の人にスパイ活動なんて、そんな高度な技が使えるとは到底思えなかった。

「じゃあ、また迎えにくるから時間連絡してくれよな」
「うん。行ってきます」

 ホテルのエントランス前で、今から友達に会うとは思えない低いテンションのまま、私はふう君と別れた。
 待ち合わせのレストランは最上階。きっと見晴らしいいんだろうなぁと思いながらも気分は晴れないままだった。

「こちらでございます」

 レストランの入り口で名前を告げると案内されたのは、一番奥にある個室だった。私はスタッフさんの誘導でその部屋に入る。
見るとすでに相手はきていて、背中をこちらに向けて座っている。

 あれ……?

 私はその背中に、物凄く見覚えしかなかった。

「ではごゆっくりお過ごしください」

 案内してくれたスタッフさんはそう言うと丁寧に頭を下げ部屋を出て行った。そして私は、恐る恐るその人に近づいた。

 見間違い? 他人の空似?

 俯いたままゆっくりと空いている席に向かい、そして意を決して顔を上げる。

「時間通りだな」

 いつものように、淡々と私にそう言ったその人は、先週、偶然会った時より一段と格好良く見える。昨日は掛けてた眼鏡もないし、時々鬱陶しそうに掻き上げる髪の毛も最初から上がっている。服装も、いつも会社で着ているスーツとは違い、みー君みたいなスマートカジュアルスタイルで、爽やかな雰囲気だ。

「……? どうした。座らないのか?」

 まだ現実を受け止められず呆然としていた私はそう声を掛けられる。そして私は、その声に弾かれるように慌てて席に着いた。

「えっと、その……。なんで主任が……ここに?」

 良く考えれば、物凄く間抜けな質問だ。だって、自分が何のためにここに来たのか考えれば、すぐわかることなんだから。

「何でって、見合いだろ?」

 主任はそう言って平然としている。

「いや、だって! 主任、そんなこと一言も言ってなかったじゃないですか!」
「あぁ。言うなと言われていたからな」

 そう言われたからって、相手が私だと知っているのに今まで何も言わず、会社でも平然としていられたのは、さすが主任と言うべきなのだろうか。私なら絶対にテンパってそうだ。

「言うなって……誰に?」
一矢いちやだが?」

 不思議そうな顔をした主任にそう言われて、私はそれを反芻する。

「一矢って……。いっちゃん⁈  なんで? 主任、知り合いなんですか⁈ 」

 だって、この前会った時いっちゃんは『初めまして』なんて言っていたはずだ。まさか、この短期間に親睦を深め名前を呼ぶ仲になったなんて到底思えない。
驚きっぱなしの私を見て、主任は呆れたように軽く息を吐き出した。

「……。本当に何も聞かされてないんだな。俺と一矢は昔からの友人。前に会ったときのあれは演技だ。かなり大根だったがな」

 もう驚き過ぎて声も出ない。口をパクパクしながら言葉を続けようとしても出てこない。

 その時、「失礼します」と声がして、ワゴンと共にスタッフさんが部屋に入って来た。

 まるで芸術品のような美しく盛り付けられた皿のサーブを受けながら、私は黙って呼吸を整えていた。

 本当に……主任がお見合い相手なの?

 私は涼しい顔をして目の前に座る主任の顔を盗み見る。

 そしてふとお父さんの言葉を思い出した。

 ちょっと待って?主任って……御曹司⁈
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