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2.社会人はつらいよ?
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「いえいえ! 私は社長令嬢じゃないですよ! どちらかと言えば貧乏なほうで。強いて言えば……」
両手を振りながらそう答えてハタっと止まる。
そう言えば……専務がウチの山を狙っている疑惑は消えていない。
お父さんからは、『お見合いは4月下旬を予定している。あとは一矢に一任したから、詳細は一矢から聞くように』なんて連絡が来ていた。2人だけの秘密じゃなかったの?と思いながらも、いっちゃんからはまだ何も聞いていないのだ。
「どうかした?」
急に言葉を止めた私に、宮内さんは不思議そうな顔で尋ねる。
「あ、いえっ! とにかくうちは、凄く田舎のボロ屋に住んでる全然お金持ちじゃない普通の家です。専務、何か勘違いなさってるんじゃないですか?」
私が慌ててそう答えると宮内さんは「確かになぁ……専務、ちょっと変わってるし」なんて、結構酷いことをシレッと口にした。けれど、興味津々で私を見ていた他の3人も納得したように頷いていた。
そのあとは自然な流れで他の話題に移り、私はその話をただ黙って聞いていた。話題が、会社の近所にある美味しいランチのお店で、いつか余裕が出来たら私も言ってみたいなぁ……なんて思いながら。
ふと見ると、主任はまたスマホの画面を確認していて、しばらく指を動かしてから、画面を消してテーブルに置いた。すると今度は私のスマホが鳴り出した。
「出ればいい」
主任にそう言われて、私は慌ててバッグからスマホを取り出し画面をタップした。
『もしもーし! 与織? 今どこ?』
電話の向こうから、調子のいいふう君の声が聞こえてくる。
「ふう君? なんで? 今日は遅くなるって言ってあったよね?」
『だから車で迎えに来た。店どこ?』
「え? お店?」
ついて来ただけだからお店の名前なんて分からず、私はどこかに書いてないかと顔を上げてキョロキョロする。
主任が察したのかお店の名前を教えてくれ、私がそれをふう君に伝えると、『じゃ、店の前にいるから早めに出てきて』と言われて電話は切れた。
私の電話が終わると、見計らったように主任は立ち上がった。
「悪いが俺は帰る」
「えっ! 主任もう? まだいいじゃないですか!」
林さんが主任を見上げて残念そうな顔を見せた。
「すまない。実家に呼ばれててな。お前たちはこれでゆっくり飲めばいい」
そう言うと主任は林さんに、畳んだお札らしきものを差し出した。
「わ~! 主任、いつもありがとうございます。愛してます!」
林さんが嬉しそうに受け取りながらそんなことを言うと、主任は少し顔を顰めて「そんな愛はいらん」と返していた。
でもそんなやり取りさえ、主任は愛されてるんだなぁ、なんて微笑ましくなる。
近寄り難そうに見えて、本当は違うんだな……
私がそんなことを考えながら見上げていると、主任と不意に目があった。
「朝木。帰るんだろ? 送る」
素っ気なくそう言われて、私は「は、はいっ!」と立ち上がった。
「え~? 朝木さんも帰るの?」
宮内さんにそう言われるが、それに主任が答える。
「朝木の門限は10時だそうだ。さっきのも催促の電話だろ?」
「あ、はい。兄が迎えに来てるみたいで」
私が主任に向かってそう返事をすると、宮内さんから残念そうな声が聞こえてきた。
「10時って早いなぁ。じゃあ、今度はもっと早い時間に誘うから。また飲もうね」
社交辞令だと思うけど、私はそれに「はい。ありがとうございます」と返してペコリと頭を下げる。
「行くぞ」
そんな私を横目に、さっさと主任は席を離れて行ってしまう。
「じゃあ、失礼します」
そう言うと私は主任の背中を追いかけた。
この店はビルの中にあって、私達はエレベーターホールに向かっていた。
「あの……、主任。本当によかったんですか?」
上がって来るエレベーターの表示を見上げている主任に、私は隣からそう声をかける。
「何が?」
「いえ。私の帰りに付き合わせたんじゃ……」
チーンと音がして、古びたエレベーターの扉が音を立てて開くと、私達はそれに乗り込む。主任は階数ボタンを押すと、背を向けたまま私の問いに答えた。
「実家に帰るのは本当だ。気にすることはない」
主任と知り合って1週間。本当に素っ気ない人だけど、もしかしたら優しい人なのかも知れないな、とその背中を見ながら私は思った。
両手を振りながらそう答えてハタっと止まる。
そう言えば……専務がウチの山を狙っている疑惑は消えていない。
お父さんからは、『お見合いは4月下旬を予定している。あとは一矢に一任したから、詳細は一矢から聞くように』なんて連絡が来ていた。2人だけの秘密じゃなかったの?と思いながらも、いっちゃんからはまだ何も聞いていないのだ。
「どうかした?」
急に言葉を止めた私に、宮内さんは不思議そうな顔で尋ねる。
「あ、いえっ! とにかくうちは、凄く田舎のボロ屋に住んでる全然お金持ちじゃない普通の家です。専務、何か勘違いなさってるんじゃないですか?」
私が慌ててそう答えると宮内さんは「確かになぁ……専務、ちょっと変わってるし」なんて、結構酷いことをシレッと口にした。けれど、興味津々で私を見ていた他の3人も納得したように頷いていた。
そのあとは自然な流れで他の話題に移り、私はその話をただ黙って聞いていた。話題が、会社の近所にある美味しいランチのお店で、いつか余裕が出来たら私も言ってみたいなぁ……なんて思いながら。
ふと見ると、主任はまたスマホの画面を確認していて、しばらく指を動かしてから、画面を消してテーブルに置いた。すると今度は私のスマホが鳴り出した。
「出ればいい」
主任にそう言われて、私は慌ててバッグからスマホを取り出し画面をタップした。
『もしもーし! 与織? 今どこ?』
電話の向こうから、調子のいいふう君の声が聞こえてくる。
「ふう君? なんで? 今日は遅くなるって言ってあったよね?」
『だから車で迎えに来た。店どこ?』
「え? お店?」
ついて来ただけだからお店の名前なんて分からず、私はどこかに書いてないかと顔を上げてキョロキョロする。
主任が察したのかお店の名前を教えてくれ、私がそれをふう君に伝えると、『じゃ、店の前にいるから早めに出てきて』と言われて電話は切れた。
私の電話が終わると、見計らったように主任は立ち上がった。
「悪いが俺は帰る」
「えっ! 主任もう? まだいいじゃないですか!」
林さんが主任を見上げて残念そうな顔を見せた。
「すまない。実家に呼ばれててな。お前たちはこれでゆっくり飲めばいい」
そう言うと主任は林さんに、畳んだお札らしきものを差し出した。
「わ~! 主任、いつもありがとうございます。愛してます!」
林さんが嬉しそうに受け取りながらそんなことを言うと、主任は少し顔を顰めて「そんな愛はいらん」と返していた。
でもそんなやり取りさえ、主任は愛されてるんだなぁ、なんて微笑ましくなる。
近寄り難そうに見えて、本当は違うんだな……
私がそんなことを考えながら見上げていると、主任と不意に目があった。
「朝木。帰るんだろ? 送る」
素っ気なくそう言われて、私は「は、はいっ!」と立ち上がった。
「え~? 朝木さんも帰るの?」
宮内さんにそう言われるが、それに主任が答える。
「朝木の門限は10時だそうだ。さっきのも催促の電話だろ?」
「あ、はい。兄が迎えに来てるみたいで」
私が主任に向かってそう返事をすると、宮内さんから残念そうな声が聞こえてきた。
「10時って早いなぁ。じゃあ、今度はもっと早い時間に誘うから。また飲もうね」
社交辞令だと思うけど、私はそれに「はい。ありがとうございます」と返してペコリと頭を下げる。
「行くぞ」
そんな私を横目に、さっさと主任は席を離れて行ってしまう。
「じゃあ、失礼します」
そう言うと私は主任の背中を追いかけた。
この店はビルの中にあって、私達はエレベーターホールに向かっていた。
「あの……、主任。本当によかったんですか?」
上がって来るエレベーターの表示を見上げている主任に、私は隣からそう声をかける。
「何が?」
「いえ。私の帰りに付き合わせたんじゃ……」
チーンと音がして、古びたエレベーターの扉が音を立てて開くと、私達はそれに乗り込む。主任は階数ボタンを押すと、背を向けたまま私の問いに答えた。
「実家に帰るのは本当だ。気にすることはない」
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