俺様カメラマンは私を捉えて離さない

玖羽 望月

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 結局その日、社長は長門さんを連れ立って外出して行き、夕方にはニコニコしながら帰って来た。

『メールはばっちり見れるようになったから、返事が遅れるようだったらまた言ってね』

 そういうところはさすがだ。伊達に二十年近く社長業をやっていない。
 気が弱そうに見えて本当は締めるところは締めるし、理不尽なクレームにも毅然とした態度を取れる人だ。かといってワンマンではなく、社員の意見もちゃんと聞いてくれる。
 スケ管には残業はほぼないし、休みも結構取りやすい。転職するときに一番重要視したのが残業の有無だったけれど、本当に全くなくて最初は少なからず驚いた。

 明日は金曜日で祝日。その日から十一日間もある長期休暇に入る、という日の前日夕方六時。本当ならもう定時。けれど、もう少し仕事を片付けて置きたいと、私はまだパソコンに向かっていた。

「瑤子さん、まだ帰らないんですか?」
「もうちょっとだけね。本田さん、私、来週休むけど何かあれば遠慮なく連絡ちょうだい?」

 向かいの席でバッグを持ち立ち上がった本田さんに声を掛けると彼女はニッコリ笑う。

「大丈夫ですって。いざと言うときは社長を使いますから! 気兼ねなく休んでくださいね」
「そうですよ、長森さん。僕もいるんですから安心してください!」

 横で帰り支度をしている園田君は威勢よくそんなことを言った。

「二人ともありがとう。心置きなく休ませて貰うわね。どこかに行く予定はないけど、行けたらお土産買ってくるわね」
「やった! リフレッシュしてください。瑤子さんは普段働きすぎです」
「そうね。そうするわ。じゃあ、お疲れ様」

 笑顔で手を振る二人を見送ると一息吐きだす。

(働きすぎ、か……)

 自覚はもちろんある。定時に帰ると言う自分にかけた枷はなかなか外せなくて、時間中に食べることも忘れて熱中していることはままある。
 だからと言ってプライベートに何があるわけでもない。独りの時間をただなんとなく過ごすようになってもう五年。そんな生活にもすっかり慣れた。
 なのに……。心の中にぽっかりと空いた隙間を、時々無性に埋めたくなる瞬間はあるのだ。

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